第164話 男たちの宴 その五
「山主さん、あなた本当になんなんですか……?」
「ちょっと便利キャラがすぎるよキミ……」
「それ世に出して大丈夫なやつ……? あとカードなんかより、もっと他に使うべきやつあるんじゃない……?」
:知ってはいたけどエグいもん持ちすぎてる
:文化財に使ってくださいお願いします!
:また特定界隈がザワつくやつきたな……
:もう存在がビックリ箱なんよ
:アカンて
:天叢雲剣といい、個人で所持して良いレベルを越えてんのよ
:てか、完全な状態の定義ってなに? 消費したものも復活する系?
:つまりダメージ品がニアミント以上になるってこと……?
:それは駄目なやつなのでは?
:えぇ……
なんかドン引きされてるけど、個人的には天叢雲剣の時点で今更な気がする。いや、それなら空間袋の時点で……まあ諸説か。
てか、そこまでアレな扱いをされる謂われはないと言うか。だって俺の所有しているアイテム群の中で、特定の人間にしか扱えない、手に入れられないものなんて皆無だし。……この言い方だと若干の語弊があるか?
正確には、空間袋のように所有者限定だったり、何かしらの資格を求められるモノは結構ある。だが、入手の機会自体は平等だ。
ダンジョンに潜れば良い。ひたすら深く潜れば良い。それができれば誰しもが至宝を手に入れられる。チャンスは万人の前に転がっている。
ま、つまり何が言いたいのかって話だが。全部ダンジョンが悪い。なにかと便利なアイテムを吐き出してくるダンジョンが悪い。ただ便利なアイテムを活用している俺は無罪。あーゆーおーけー?
「……ちなみになんですが、それはどういったアイテムなんでしょう?」
「名前を【ウルズの木片】といいまして。北欧神話の女神であるウルズを仕留めた時に手に入れたアイテムなんですがね。ウルズの権能を限定的に再現できるんですよ」
「……と言うと?」
「物品限定の因果干渉による過去改編ができます」
「よしこの話はなかったことにしましょう!」
「ヤバいヤバいヤバい!」
「お前たちも何も聞かなかった! いいなぁ!? 何も聞いててないからな!?」
いや、そんな大したものでもないですよ? 目の前に現物ないと駄目とか、どんな内容にせよ一つにつき一回限定とか、いろいろと条件あるし。
あと『状態』が書き換えられるので、破片からの増殖バクみたいなことはできない。逆再生してるわけじゃないから、状態を書き換える前に他へ与えた影響はそのまんまだけど。
「ま、皆さん深掘りしてほしくなさそうなので、話を戻しまして。折り曲げようが破こうがどうとでもなるので、気にせずバリバリ剥いちゃってください」
「一般人としてそんなおっかないアイテムは見たくないですし、コレクターとしてもぞんざいに扱おうなんて思えないので、慎重に開封させていただきます」
「俺も人生で一番集中して剥くよ」
「開封配信の緊張感じゃないってこれ……」
あれー?
「気楽にやってもらうために言ったんですがねぇ。いや、別に良いんですけど。……で、どれから剥きます?」
「あー、じゃあ俺が選んだのからで良い?」
「どうぞどうぞ」
「良いよー。何を選んだんだっけ?」
「大氷河」
「良いチョイスだなあ」
:大氷河まであんのか!
:なかなか渋い
:うわなっつ!
:分からん
:はぇー
:高いの?
:ええやん
:剥いたなぁ
:知らんわー
:また凄いやつなんだろうなぁ
:それ剥くんか!?
:うわもったいな!?
良いチョイスなの? 駄目だニワカの俺にはまったく分からん。
「このBOXはいくらぐらいのやつですか?」
「買ったのキミじゃないの?」
「よく考えずに買ったので憶えてないです」
「凄いなその台詞」
「ちょっと待ってくださいね……あー、調べた感じだと、大体十六、七万ぐらいですね」
「それはなかなか」
結構するのね。まあ、用意したやつの大半はクッソ高いんだけど。むしろ全体的だと安めか……?
「ちなみになんですが、このBOXのトップレアってどれぐらいですか? 結構高い感じだったりします?」
「いや、これはそんなに……むしろ低めかな? ぶっちゃけ、いまの時代じゃ当たり目当てで剥くようなBOXじゃないよ」
「そうですね。BOXやパックのままの方が価値があるかと。どちらかと言うと、美術品の側面が強い品です」
「ぶっちゃけアド損よね」
「はえー」
そうなのか。BOXの段階で結構したから、大当たりの高額カードが収録されてたりするのかと思ってた。
ほら、WTGって全体的に高価な印象が強いし。特に古いやつね。昔にいくほどレアカードの価値が跳ね上がっていくようなイメージ。
「正直に言うと、WTGの高額BOXは剥くようなものじゃないです。金銭的な面では、余程の高額カードが収録されてるでもない限りアド損になります」
「あ、そうなんですか?」
「うん。ファーストのパックでワンチャンって感じかな? それでも多分BOXのが高い」
「BOXだといくらぐらいだろ? 億はいくんじゃない?」
「億。普通に買える額だけど、BOXで億かぁ……」
「普通は買えないんですよ」
:草
:だから剥くようなもんじゃないんだって
:草
:えっぐいわぁ
:その感想が出るのはアンタだけや
:草
:草
:まあ買えるわな
:カードで億いくとかイカれてんだろ
:草
:やっば
:草
:草
おっかない世界である。桁がもはや美術品のそれなのよ。しかも歴史に名前が載ってるような芸術家の作品レベル。
古いとはいえ、現代発祥のカードゲームがそれなのだから、もう凄いとしか言いようがないね。
「なんというか、ちょっとイメージと違いましたね。基本的にBOXの方が高いのか」
「まあ、最近のTCGはアレですからね。カードによっては余裕でBOX分は回収できますし、勘違いしてしまうのも分かります」
「WTGの場合、BOXそのものの価値が上がりすぎてる部分もあるんだけどね」
「あとやっぱ、こういうのは時間が経って価値が上がるし。再録の回数次第ではあるけど」
なるほどー。つまるところ、いまの尺度で考えない方が良いと。てか、やっぱり昔のWTGはカードゲームとして見るもんじゃないな。扱いが普通に美術品だわ。
「それで千田さんは、どうしてこのBOXをチョイスしたんですか?」
「まあ、単純に懐かしかったからかな? ……あと、このBOXには思い出深いカードが収録されててね。それをもう一度自分の手で剥いてみたいんだよ」
「どんなカードなんですか?」
「これ。このパッケージのコイツ」
「……っ、ハッハッハッ!! あー、あー! はいはいはい! なるほど、そういう理由ですか!」
「なるほど。草」
なんかカードゲーマーだけで分かりあってるな。
「そんな通じ合うレベルで有名なカードなんですか?」
「うん。なにせコイツは、【氷鱗のサーペント】はWTG史上最強のカードだからね!」
「……当たりのカードはないって言ってませんでした?」
「それでも氷鱗のサーペントは最強なんだ! 最強のはずなんだ!」
「なにせ出せば三ターンで絶対に勝てるんだからな!」
「……それは強いんですか?」
「カッコイイでしょう?」
「答えになってねぇ……」
「いやだって、見た目ドラゴンですよ? しかも大型クリーチャーですよ? 小学生とか大好きだと思いませんか?」
小学生……あ、ふーん? なるほど、つまりこれ鮫トレのお供ってやつだな?
ーーーー
あとがき
やっぱり慣れないネタだから、書くのてこずるな。それでもあと一話書かなきゃだけど。今後のために。
それはそうと、今日もまたコミカライズ版がWebで更新されますので。よろしくお願いいたします。
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