第163話 男たちの宴 その四
「──知ってた」
「……いやもう、マジですいませんでした!」
簡潔に結果だけ伝えよう。沙界さん、三口の内の一口が微当たり。残りはスカ。俺、十口全部がスカ。
お互いに大爆死と言って差し支えない結果ではあるのだが、十万をゴミに変えたということで沙界さんが平謝り。……全然良いんだけどね。全部承知の上だし、そもそも端金だし。
「お気になさらず。これはこれで美味しいですし」
「それを言える山主君が凄いよね」
「てか、沙界どうしたの? いつも信じられないぐらい運が良いのに。あれって自分限定なの?」
:草
:草
:やっぱオリパって闇だわ
:十万が一瞬で溶けたなぁ
:草
:リーマンって運が良いイメージだったのに
:販売価格で総額五千いってないの怖スンギ
:ヒェッ
:草
:まあお互いに爆死してるし……
:オリパは悪い文明。はっきりわかんだね
:俺なら泣いちゃう
:草
:山主さんだから良かった
確かにそれは思った。沙界さん、俺の知ってるライバーさんたちの中じゃ、わりと運が良い方なんだけどね。たまにやってるガチャ配信とか、八割ぐらいの確率でコメント欄が敵に回ってるし。
配信ごとに弁護士が駆けつけてくるのに、今回は不参加だったみたい。……違う意味で弁護士を呼びたくなってそうだけど。
いやまあ、沙界さんの気持ちもわかるんだけどさ。十万って普通に大金だし。自分の財布から消える場合ですらダメージ負うのに、それが他人のものとなるとねぇ? 承知の上で臨んだゲームとはいえ、やっぱり堪えるものはあるんだろう。
「逆に俺はホッとしてますけどね。沙界さんの方が爆死して、こっちが大勝利してたら気まずいなんてもんじゃないですし」
「それはね、実際そう」
「死なば諸共が一番丸いよ」
「カルメンさん。それ文脈的にはめっちゃ角が立ってます」
当事者からすれば、一緒に死ぬか一緒に勝つかしか、正解の択がないという地獄。誰だよこんなことしようって言い出したのは。俺だよ。
「てか、セルフィーのSAR、調べた感じだと販売価格で一万いかないんですね。キャラデザ可愛い方だし、もうちょいしてそうなイメージだったんですけど」
「バブルが弾けた影響だね。前は一万ぐらいはいってたはずだし」
「もしかしたら、買った当時は当たり枠だったんじゃない?」
「はい、恐らくですが。当たり枠の中では弱い方だったと思いますけど、それでもシングル買いするよりはアドだったんじゃないかなと」
「かもしれませんねぇ」
多分だけど、当時は一万五千いかないぐらいだったんじゃないかなぁ。全体的な下落具合を見るに。
それがいまや販売価格で八千円ちょいなのだから、当時がどれだけ加熱していたかが分かるというもの。と言っても、ほんの二、三ヶ月前なんだけど。
「やっぱりバブルは怖いですねぇ。てか、カードが怖い。何でイラスト付いた紙が株みたいになってんだか。一点ものってわけですらないのに」
「やってる側が言うのもアレだけど、ガチでそれな」
「一枚ウン十万とかは普通に頭おかしいよ」
「でも、山主さんが言うことではないですからね? あなた、TCGの王様みたいなBOX買い漁ってますからね?」
:マジでそれ
:草
:草
:それなすぎる
:好きで集めてはいるけど、それはそれとしてイカれてるとは思う
:草
:それTCGプレイヤーの八割が思ってるよ
:カードゲームのはずなんだけどなぁ
:言いたいことは分かるけど、山主にそれを言う資格はない
:本来なら一つ数百円のパックから出てくる紙束だからな。何故か資産価値が認められてるけど
:草
:草
俺の言えた台詞ではないってのは……うん。否定はできないかな。ドン引きしつつも、それはそれとして普通にお金落としてるわけだしね。
まあ、このへんは考え方だろう。コレクターアイテムの本質は、価値を認める人間がいるかどうかだ。値段はそれを分かりやすく可視化しているだけにすぎない。
車、美術品、アンティーク。挙げていけば無数にある。それらは価値を認めている人間にとっては垂涎の品であり、興味ない人間にとってはガラクタだ。
だから感情は別にして『そういうもの』だと納得はする。真っ向から意見がかち合い、二者択一なんて状況でもない限り。争わなきゃいけない場面を抜きにして、誰かの『好き』を否定するのはナンセンス。
畑違いの界隈に足を踏み入れるのなら、その界隈の価値観やルールを尊重する。これは基本の『キ』であろう。
「ちょうどそっちの話題も出たことですし、そろそろメインのBOX開封に移りますか」
「あっさりしすぎじゃない?」
「もうちょいそこ掘り下げれる話題よ?」
「自分、ニワカなんで。WTG関係で語り始めるとボロ出るんで」
「堂々と言うことではないですね」
でも変に掘り下げてもじゃないですか。俺程度の知識じゃ、皆さんの会話に相槌打つしかできないし。
だったらとっとと現物引っ張りだして、有識者からのリアクションを引き出す役に徹した方が健全かなって。
なのでチャキチャキ行きましょう。剥く予定のBOXをどんどんテーブルの上に重ね、SNS用の写真もチャチャっと撮って。
「──というわけで。こちらが本日剥くBOXです」
「改めて思うけど、マジでやべぇラインナップだな。何か前見た時より増えてるし。……おいよく見たらリングあるじゃねぇか! しっかり新しいのまで完備してんなぁ!?」
「てか多くない? え、これ全部剥くの? マ?」
「真面目に開封だけで六時間ぐらい掛かりそうなんですけど。いや、マニアとしてはむしろ望むところではあるんですが」
「……そんなに掛かります?」
「「「掛かる」」」
「えぇ……」
声を揃えて断言するじゃん。一箱に十五分ぐらいの見積もりだったんだけど。いや、確かに新弾開封とかは結構掛かってる印象だけど、あれは効果確認やシナジー計算とかも含めてだろうし。
昔のカードならそういうのはないし、あっても思い出トークだろうなって思ってたんだけど……。この人たちなら、いいタイミングで切り上げてくれるって予想も入ってた。
でも無理かー。声を揃えて即答してるってことは無理かー。じゃあどうすっかなぁー。
「……流石に時間的にあれなので、それぞれが二つチョイスする形にしましょうか。んで、大トリにレジェンダリーで」
「それでも多分四時間ぐらい掛かりますよ?」
「そこはもう巻いてください」
「多分だけど無理」
「どうして……」
七箱よ? 七箱で四時間? どんだけ話を膨らませる予定なの? いや俺は別に良いけど、リスナー側が耐えられなくない?
「正味な話、貴重なパックほど傷とか付けないように剥かなきゃなので、トークとか抜きにしても時間が掛かります」
「物品を完全な状態まで回帰させるアイテムを持ってるので、そういうのは気にしなくて結構ですよ?」
「待ってすべてのコレクター垂涎のアイテム出てきた!?」
「なぁにそれぇ……?」
「斜め上の方向にパワーでぶん殴って解決してくるの、止めてもらって良いですか!?」
ーーー
あとがき
盛大に遅れました。ごめんなさい。
理由を述べますと、土曜の朝一から【東京競馬場】に期日前投票へ行ってまして、その反動で土曜の夜から日曜の夜までぶっ倒れてました。
深夜に頑張って書こうと思ったのですが、ちょうど推しの見逃せない配信が始まってしまったので……。
そんなわけで、ちょっぱやで書き上げたのがこちらです。話がまったく進んでないので、まだ二話掛かるかも。……でも、ここから開封に二話掛けるのも悩みどころですよね。TCGネタは分からない人もいるでしょうし。なのでちょっと考えます。
それはそれとして、コメントのために集まってくださった有識者の方々、大変ありがとうございました。とても参考になりました。
今後もTCGのエピソードを書く予定ですので、その都度資料として活用させていただきます。また何かあればよろしくお願いいたします。
あ、あと前回書くの忘れてましたが、コミカライズ版のWeb更新も来てます。そちらもよろしくお願いします。
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