第156話 大事なお話

「──では、この形でまとめさせていただきます。それではお疲れ様でした」

「お疲れ様でーす」


 ふぅと小さく息を吐く。いやはや、今日の打ち合わせは肩が凝ったな。

 事務所に出向いての打ち合わせはちょくちょくしていたが、今回は比較的重要度の高いもの。だからこそ、かなり細かい部分まで詰めることになった。

 俺の性格はもとより、本業もまた打ち合わせとは縁のない探索者。立場故にお偉いさんと話し合うこともよくあるが、丁重にもてなされる場合がほとんど。

 だからどうしても、議論というものには慣れない。利益を求めるビジネスならなおのこと。……まあ、重要度が跳ね上がると、意識が『戦い』に切り替わって逆に楽になるのだが。

 ただ今回の場合、ライバー活動という面では重要だが、これまでのアレコレのようなシリアス方面の議題ではなかったために、配信モードの思考回路のまま真面目な話し合いに臨む羽目になった。

 なので端的に言って疲れた。個人的には『よきにはからえ』で全投げしたいところだったのだが、それが通るほど世の中は甘くないのである。


「今日は帰ってまったりするか」


 酒を飲みながら、誰かしらの配信でも見るか。幸いなことに、今日は配信の予定もないし、やらなきゃいけない作業の類いもない。

 んじゃ、帰りましょ帰りましょ。荷物をまとめて、会議室をあとにする。……そういや、スマホに何か連絡とか入ってたりするかな?


「……」


 入ってたわ。送り主はウタちゃんさん。付き合いだしてから、頻繁にチャットとか送ってくるようになったのよね。

 もちろん、それは全然構わないんだけど、シンプルにマメだなって思う。何かしら理由がないと、自発的にチャットとかしない側としては感心するほかない。

 まあ、内容は雑談みたいなもんだし、適当に返事だけして終わり。続きは帰ってからかな。


「あとは……これは無視で良いや」


 他にいくつか個チャが入っていたが、そッちはスパムみたいなものなのでスルー。最近やけに多いんだよなぁ……。


「あ、山主君」

「天目先輩じゃないっすか」


 と、ここでまさかの遭遇である。天目先輩まで事務所に訪れていたとは思わなんだ。俺と同じように打ち合わせか? それか配信。


「今日はどうして事務所に?」

「配信だよ。ほら、公式チャンネル」

「あー。てことは、他にも誰かしら来てたり?」

「そうだね。帰蝶ちゃんがゲスト。まあ、まだ来てないんだけど」

「……遅刻ですか?」

「あはは。違う違う。たんに私が早く来ただけだよ。ちょっと運営の人と話があったからね」

「なるほど」


 どっちもだったか。その話の内容は分からないが、打ち合わせっぽいもののあとに公式チャンネルでの配信とは、また随分とアグレッシブな。


「そういう山主君は?」

「打ち合わせです。3Dの」

「あ、そうなの!? うわー、おめでとう! ……でもそれ、言って大丈夫なやつ?」

「外部に漏らさなければ大丈夫だそうで」


 正直、そこまで隠すような内容でもないしね。身内が相手となれば特に。

 そもそも俺の場合、数字的には3Dを持ってない方がおかしいレベルだし。……これは雷火さんにも当てはまるけど。

 まあ、いろいろあって企画がストップしていたのだ。運営が想定していたスケジュールから大幅に逸脱したり、俺がコンスタントにエグめな規模の騒ぎを引き起こしたりで。

 それがいまになってようやく動き出したので、そのために対面での打ち合わせをしにきたのが今日というわけである。


「そっかぁ。じゃあ、もうすぐ山主君の晴れ姿が見れるんだねぇ」

「晴れ姿ってほどでもないですがね」

「いやいやいや。ライバーにとっては、3Dは大事だよ」

「でも俺、3D以上にリアルの姿晒してますし。アメリカで。ぶっちゃけ今更感がですね」

「……ノーコメントで」


 3D配信が特別視されてるのは知っているし、モデルをいただけることに関してはちゃんと感謝しているんだけども。

 でもいまの俺って、猪マスクのあの姿が世界的な代名詞になっちゃってるのよね……。状況が状況だから仕方ないんだろうけど、多分もう立ち絵よりもあの格好の方が認知度が高い。


「実のところ、あの格好で良いのではってマネさんたちにも提案してみたんですよね。有名だし、3Dじゃ俺の動きの再現は無理ですし」

「えぇ……。なんて返ってきたの?」

「『言いたいことは分かりますが、デンジラスはVTuberの事務所なんですよ……』って頭を抱えられました」

「だろうねぇ……」

「ぐうの音も出ませんでした」


 リアルの姿で好き勝手なんかしたら、それはもうVTuberじゃないからね。……いやまあ、事務所によっては首から下までは見せたりするんだけども。少なくとも、デンジラスはそういう方針じゃないなので却下されました。

 実際、アメリカの時が特例だっただけだし。アレは国際世論と世界情勢、なにより多くの人命が掛かっていたから、デンジラス側もゴーサインを出すしかなかったのだ。

 なのでああした非常時を除いて、リアルの姿は出さないでくださいとマネさんから念押しされてしまった。


「まあ、そんなわけで。ついさっきまで、いろいろと激論を交わしてたんですよ」

「それは……お疲れ様です」

「ありがとうございます」

「うん。じゃあ、今日はゆっくり休んでね」

「ういっす。お疲れ様でしたー」


 思い出したら余計に疲れてきたな。さっさと帰るべ。


「──あ、あのっ! 山主君!」

「はい?」


 と、思ったら天目先輩に呼び止められた。なんじゃろ?


「どしました?」

「えっと、その……最後に一つだけ訊いて良いかな?」

「はい。どうぞ」


 え、なに? なんか凄い言いづらそうな表情してんだけど。深刻な話?


「山主君さ、最近何か変わったことある?」

「変わったこと……? 急に何故です?」

「な、なんとなく、かな? ……あ、もちろん心当たりがなかったり、答えたくないのなら大丈夫だよ!?」

「はぁ……?」


 いきなりそんなこと訊かれてもな……。変わったこと、変わったこと……?


「そうですね……しいて言えば、最近やけに高校のクラスメートから連絡がくることでしょうか?」

「待って予想してたのと違うのが出てきた。……え、それ大丈夫? もしかして身バレしてない?」

「え?」


 え?





ーーー

あとがき

前に打っておいた布石が輝き出す


ところで話は変わるのですが、カドコミやニコニコ漫画でお気に入り登録者数とか、コメントを読んだりする方法とかってあるんでしょうか?


有識者の人がいたら教えてください。やっぱり会員登録とかしなきゃ無理かな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る