第154話 禁断の料理配信 その二
「それでは、調理していこうと思います。今回使う食材は、前にも使った覇軍鶏のもも、むね、ささみとなります」
覇軍鶏。鶏皮&鶏油、目玉焼きの時に使ったやつです、はい。実は配信で一番ドロップアイテムが登場しているモンスターだったりする。
普通だったらドラゴンとかなんだろうけど、まあ仕方ないよね。だって鶏系の食材って使いやすいんだもん。他にも鳥系のダンジョン食材はあるんだけど、なんか鶏を選んじゃう。それが日本人。
てか、今回は料理自体が未知すぎるので、せめて食材の方は馴染みあるカテゴリーのものをですね……。鴨系のダンジョン食材を使うことも一瞬考えたのだが、感想がとっ散らかりそうでやめた。
「それで作っていくんですが……これ実はよく分かんねぇんだよな。ネットで調べてもサジェストが安全面で埋まってるし。なのでわりとフィーリングでいきます。一応、動画とかでそれっぽいのは見つけたけど、それが正解なのかは不明です。なので鹿児島の人たちは怒らないでね?」
:確かに作り方とかはパッと見た感じ載ってねぇな
:草
:草
:そんな難しいもんじゃないよ(By鹿児島民)
:美味く食えるなら適当でええねん
:まあ、山主さんの場合はうろでも許されるからな……
:ちなみに鹿児島以外でも食べます
:草
:あれだけ注意喚起しておいてフィーリングて
:草
:九州のソウルフードなんよ
:検索したらマジで安全性が第一に出てきて草
郷土料理とか、普通は検索したらもっといろいろ出てくるんだけどね。オススメの店とか、レシピとか。
それが鶏刺しは全然出てこねぇの。いや、皆無ってわけじゃないんだけど、相対的に見るとめっちゃ少ない。代わりに食中毒とか、カンピロバクターとかがくっ付いてる見出しが多い。
情報がないわけじゃなくて、違う情報が注目されすぎて目当ての内容が押し流されてるのよね。……もうこの時点で胡乱というか、なんというか。
改めて考えると異端よな、鶏刺し。いや、郷土料理を貶すつもりは本当にないんだけど。それはそれとして、現代の衛生観念に真っ向から逆らってるよねって。
「えーと、まずは湯を沸かします。そして沸騰するまでの間に、氷水を用意します。そこに塩を入れて、さらに冷たくします」
んで、それが終わったら肉の下処理。もも、むね、ささみを触って、ザラっとする部分を包丁で切り取る。骨肌って言うらしい。
それが終わったら、今度は筋を取っていく。実は肉の筋って嫌いじゃないんだけど、太すぎるとさすがにね。特にささみにはぶっといのがあるから、これは取っておく。
「んで、お湯が沸いたら肉を一つ入れる。それで十秒ぐらい? サッと表面だけ茹でて、氷水に移す。これを一つ一つ繰り返していく」
:ほー
:美味そうより心配が勝つな……
:半生にもなってないだろ
:おおぅ……
:うまそー
:本当に大丈夫なん?
:絶対美味いやつやん
:絶妙に食欲を唆られない
:どんな味なんやろ?
:わさび醤油とか美味いよ
:ワイは絶対無理や
:美味いんやろか?
:興味あるわー
:また鶏刺し食いたくなったきたな
コメント欄の反応も半々といった感じか。若干その他も混じってるけど。肯定的なコメントは恐らく鹿児島、いや九州民か? 逆に不安視してるのはそれ以外の地域。興味を持ってるのもこっちだろう。
こうした反応を見ていると、やっぱり教育の力って偉大だよなって思う。昔とかだったら、多分ここまで反応が割れたりしなかっただろうし。
焼肉屋で、牛のユッケとか普通に食べてたしなぁ。どっかの店が集団食中毒を出して、そっからいろいろ変わって、一気に生食文化が消し飛んだ印象。……まあ、鶏豚はその一件以前より警戒されてたけど。
ちなみに俺は不安視してる側である。もちろん、危険性は皆無なんだけども。ただ探索者をやる前までは、ガッツリ肉の焼き具合とか気にしてたから。そういう風に育てられたから……ね?
「何だろうなこの……そこはかとない不気味さ? こう、凄い背中がゾワゾワする。間違ってないはずなのに、何かしらが間違ってる感じがする」
氷水でキュッとさせた肉を、一口大に刻んでいくんだけどさ。ピンクの断面が見えるたびにアレ。煮るなり焼くなりしたくなる。
本当、なんだろうねこの感覚。多分、市販品とかならここまで気になることはないんだろうけど。やっぱり自分で作ってるからかな?
「最後に刻み海苔、ネギと胡麻を散らして……と。それで次はタレか」
系統的にはサッパリした感じの料理だろうし、基本はそれに合わせる感じで。なのでポン酢とわさび醤油は確定。あとは……塩入れたごま油かな?
「個人的には、これに追加して卵黄をアリかなとは思うんだけど。ユッケとかあるし。……でも白身がなぁ」
:美味そう
:美味そうなはずなんだけど……
:ユッケ風にするのはあり
:凄い反応に困る今回
:こういう時の白身はね
:ビジュアルは結構良さげ
:生の鶏肉じゃなければ素直に喜べた
:うわこれ絶対に美味いやん
:白身はスープにでもすれば?
:親子ドゥン(生)
:酒が欲しくなるな
:久々に鶏刺し食べたくなってきた
:白身は飲め
んー、やっぱり黄身はなしかな。白身の処理が面倒くさい。追加でスープ作るのはかったるいし、白身単品で飲むのも嫌です。俺はラジコンになるつもりはない(確信)。
まあ、そのまま全部使っちゃえば良いんだけどさ。店とかならしっかり分けるんだろうけど、ここ家だし。作ってるの俺だし。
ただよくよく考えると、卵はなんか逃げな気がする。卵黄に絡めれば大抵美味くなるから。ビジュアルも一気によくなるし。温玉にしろ卵黄は最強のトッピング。故に自信のなさの現れ……なのかもしれない。
てか、ちょくちょく思考が宇宙に飛ぶな。まあ、ぶっちゃけると現実逃避なんだけども。蜘蛛やダンゴムシなんかよりよっぽど腰が重くなってる気がする。やっぱり加熱処理って大事。
「──まあ、はい。とりあえず、完成です。これが鶏刺しなのか、鶏のたたきなのかは知りませんが。ともかく、これから実食させていただきます」
ーーー
あとがき
意図的に遅らせました。理由は明日、27日にカドコミとニコニコ漫画にて、コミカライズ版の二話が更新されるからですね。
決して偉大なドリルを見てたら更新するのを忘れてたとかではないです。良いね?
それはそうと、久しぶりに見たけどアレ凄いね。アレを土曜の朝十時にやってたのかって思った。
テレビ放送の時に見て以来だったけど、大人になんなきゃ分かんねぇよあの作品の本質は。
小学生ぐらいだったけど、無理だよアレは。子供には難しすぎるし、一話見たらまた来週までお預けとか……。
通りであんま憶えてないわけだわ。あとあとになって評価が高いと知ったけど、その割にリアタイしてた自分の中だと、印象に残ってなかった理由がやっと分かった。
でもいま見たら分かる。ヤバい。大人になると熱血の良さが理解できるよね。ああいう口上ありの作品とか書きたくなってくる。
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