第153話 禁断の料理配信 その一

「──はい皆さんこんばんは。デンジラス所属のスーパー猟師、山主ボタンです。今日は料理配信していきまーす」


:きちゃ

:ばんわー

:待ってた

:ばんわー

:きちゃ

:おばんです

:わくわく

:わー

:待ってた

:きちゃぁ


 コメント欄確認。いつも通り外国コメは除外。その上で治安は……問題なし。荒らしらしい荒らしもいない。

 今までだったらそこまで気にしなかったんだけど、最近はなー。ウタちゃんさんと付き合い始めたこともあり、それとなく注意を払うようになったのよね。

 ほら、コメント欄ってメディアで言うところの世論みたいなところあるから。一番はSNSのトレンド、その次に掲示板とかだけど。

 そこで何かしら炎上とかリークとかあったら、絶対にコメント欄で訊いてくる奴いるからね。マナー違反とかを理解できない馬鹿。

 まあ、存在自体は好ましいものではないが、分かりやすい予兆であるのは間違いない。だから爆弾を抱えている今は、以前よりもコメント欄に気を配るようにしているのである。


「さて、それで本日のメニューですが。……今日は、禁断の料理に手を出していこうかなと思っております」


 とまあ、そんな裏事情はさておきだ。パッと見ではあるが、今回は特に問題なさそうだったので、普段通りアレコレ進めていくとしよう。

 なお、今日の内容はワンチャン荒れる。『禁断』と前置きしているが、誇張でもなんでもなかったりする。サムネ用のワードじゃなくてガチなやつです。


「実食前にも言う予定だけど、今回の料理は非推奨メニューです。特に市販品では絶っっっ対に真似しないように。普通に死ぬからね。……やるとするなら、食材はダンジョン産を使うこと。それが前提条件だ」


:何食べるの……?

:ガチな忠告ですやんやだー

:毒……?

:草

:死ぬような料理を食べるな

:毒でしょそれ

:草

:それ本当に料理なんです?

:まあ山主さんなら毒でも死なないんだろうけども

:えぇ……

:草

:ダンジョン産前提の料理ってなに?

:なにそれこわい


 ちなみに毒ではないです。分類的には普通の食材。同系統のものならスーパーにも売ってる。ただダメな食べ方をするだけだ。


「まずリスナー、特に古参勢は思い出してほしいんだけど。俺、最初の料理配信でクソデカザリガニを食べてたじゃん? しかも刺身とかにして」


 アレは美味かったな。甲殻類の旨味詰め合わせみたいな味してたし。手間掛かるからもう一度は作ってはいないが、地味に二回目を視野に入れても良いかなと思うぐらいには気に入っている。

 だがしかし。だがしかしである。一度冷静になってみると、あの配信は結構ヤバイことをやっている。配信内でも注意喚起しているのだが、本来ザリガニの生食はNGなのだ。

 ザリガニには肺吸虫と呼ばれる寄生虫を筆頭に、人体に有害なアレコレを多数宿している。だから加熱処理をしなければ食べられない。

 では何故、俺はあのクソデカザリガニを生食して平気な顔で食べていたのか? ……あ、内臓が常人のそれより遥かに強靭だからってのはなしで。間違ってはないけど。


「改めて説明するんだけど、ザリガニを生食して平気だったのは、ひとえにアレがダンジョン産のドロップアイテムだから。モンスターを倒すとゼロからポップするドロップアイテムは、菌や寄生虫とかの心配をしなくて良いわけよ」


 肉にしろ魚にしろ野菜にしろ、地上の食材は環境、生態系の一部から『取り出した』代物だ。だから生態系のサイクルとして、その食材には菌や寄生虫が組み込まれている。

 対して、ダンジョンでドロップした食材は、ゼロからその場に『発生』している。故に、その食材の構成要素以外のものが組み込まれることはない。


「だからドロップアイテムであるダンジョン食材は、有害な成分が含まれてるとかでもない限り、大抵のものは生食できる。……それは生肉だろうと例外ではない」


:生肉……?

:あー!?

:え、マジで!? そういうこと!?

:ダンジョン産なら鶏刺しとかいけるんか!?

:ユッケ!? まさかユッケ!?

:それは盲点やった!

:確かにそれは禁断だ……

:絶対に真似したらアカンやつ

:スーパーのやつだと牛ですら多分ギリや

:クッソちょっと羨ましい

:マジで常人だと死にかねないのきたな

:鶏刺し美味いんだよなぁ……


 そう! 生焼け肉は食うなと教育されている我々日本人には、完全なる未知の味! まず想像できない生肉の味を体感するのが、今日の配信の趣旨なのだ!!


「てなわけで、今日のメニューは鶏刺し、鶏の叩きです。コメント欄にもちょくちょくあったね。鹿児島あたりのソウルフードなんだっけ?」


 最初聞いた時は『えぇ……』ってなったやつね。専門店が卸してる、特別な処理をした鶏だけを使ってるそうだけど……。

 生食厳禁という教育を受けてきた身としては、やはり身構えるよね。いや、ご当地グルメを悪く言うつもりはないんだけどさ。


「あ、あと念押しするけど、ダンジョン食材が絶対安全なわけではないからね? 俺は空間袋があるから鮮度最高の状態で用意できるけど、他の探索者はそうじゃないから。だから生食は非推奨よ」


 あくまで俺が例外なだけだ。無菌状態で発生するダンジョン食材であっても、時間が経てば表面から菌が繁殖したりするし。

 ダンジョン全体が無菌ってわけじゃないからね。生物かどうかも怪しいモンスターしかいないし、生態系があるとは言えない特殊な環境だけど、少なくとも菌とかはいる。

 理由は不明だが……多分、環境の一つとして組み込まれてるんじゃないかなぁ? まあ、それを抜きにしても、人類が出入りしてる時点で地上の菌とかは持ち込まれてるし。

 だから探索者は普通に衛生に気を遣う。ダンジョン内で水を調達する時は煮沸消毒するし、採取などドロップ以外の方法で入手した未知の食材は、食べる前にパッチテストなどを挟んだりする。

 つまり何が言いたいかというと、ダンジョン食材だろうが、基本は市販品と同じ認識を持てということである。


「俺は自分で調達してる。空間袋って反則もある。さらには肉体が頑強で、いざという時の回復手段もある。だからやっている。──なので良い子の皆は真似しないように。やるんだったら、ダンジョン食材を用意するのが最低限。その上でポーションぐらいは用意しておくのが望ましい。お分かり?」


 生肉はそれぐらい危ないの。伊達に『禁断』なんて言ってないのよ。







ーーー

あとがき


今日は皆さんにお知らせがあります!


なんと、本作のコミカライズ版の第一話がWeb掲載されました! 掲載サイトはカドコミ、及びニコニコ漫画でございます!


んで、なんと一話全部読めます。Webでよくある、一話をさらに区切る系の形式ではないっす。

これが今後も続くのか、掴みようの一話だけなのかは知らんのですが。ともかく、読んでないという人は是非ともお読みください。


そんで読んで面白いって思ったら、原作一巻、二巻を買ってね! 本当ならコミック単行本を宣伝するべきなんだけど、まだ出てないからね! 出たらもちろん買ってね!?


あーゆーおーけー!?

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