第三部 二章……か?

第152話 プロローグ (九月後半)

 よくよく考えてみれば、オフコラボしまくった挙句、その内の一人と付き合うとか、嫌悪していた出会い厨そのものでは? しかもコラボ直後に。


「どうしました? 急に頭抱えて」

「……なんでもないっす」


 こちらを見て首を傾げる恋人──紗奈さんに対して適当な返事でお茶を濁しつつ、内心では気付きたくなかった事実に頭を抱える。

 いや、別に自分から交際を申し込んだわけじゃないし、俺自身はそんな気などサラサラなかった。なので出会い厨じゃないと弁明することはできるのだが……客観的に見ると大差ないよなって。

 ただまあ、それでもあえて主張するのならば、未だに俺と紗奈さんは清い関係だ。今が九月後半なので、大体交際してから一カ月経たないぐらいか? その間、性行為どころかキスすらしてない。学生だってもうちょい進んでるじゃないかってレベルだ。

 ちなみに何でそうなったかというと、お互いに忙しいからである。特に紗奈さんのスケジュールがギッチギチだったのだ。

 ライバーとして活動以外にも、プライベートの方でもガッツリ予定が入ってたのでね。横入りするのも申し訳ないし、する気もなかったのでスケジュールは据え置きって形で落ち着いたのである。

 俺は俺で、絶賛オフコラボ強化期間中だったし。恋人ができたからと言って、コラボの予定をバラすなんてナンセンス。企業ライバーとしての信用に関わるし、下手に迂闊な行動をして交際がバレたら大変なことになる。

 そんなわけで、スケジュールに余裕が出てくる九月の半ばまで、別々に行動していたのだ。やってチャットと通話ぐらい。『交際とは?』と首を傾げたくなる有様であった。


「それにしても、夜桜さんのお家ってこんな感じなんですね。予想はしてましたけど、凄い広い」

「そっすね。なので若干持て余してます」

「はえー」


 まあ、その反動なのか知らんが、こうして久しぶりに顔合わせる際のオーダーがお宅訪問だったわけだが。

 というわけで、現在はお家デートというやつをやっている。……今のところ一緒のソファに座ってるだけなんだが、これ楽しいんか?


「ちなみになんですけど、このお家って誰かを招待したりとかは……?」

「ないっすね。警察関係者がたまに怒鳴り込んでくるぐらいです」

「警察関係者!?」

「前に病院で会ったオッサンですよ。あの人、俺の使いっ走りなんで。苦情言いに来たりすることがままあるんですよ」

「えぇ……」


 ドン引きされてしまった。だが、この程度で驚かれては困る。俺と交際するということは、結構な確率で国家機密級のアレコレに触れることであるからして。


「それよりなんですけど、紗奈さん」

「何でしょうか?」

「こうして久しぶりに対面してるわけですし、ちょっとお話ししたいことがあります」

「へ? は、はい! 何でしょうか!?」


 急に跳ねたな。


「いや、呼び方について思ったことがありまして」

「呼び方? ……あ、さん付けは他人行儀すぎるみたいなことですか?」

「いえ、基本はライバー活動の時の呼び方で統一しませんかと、提案したくてですね」

「え、あ、そっち!? そっちなんですか!?」


 そっちってどっち?


「てっきり、親しみを込めてお互いに愛称で呼び合おう的な話かと……」

「それ、ワンチャン配信上での誤爆あるじゃないですか。わざわざそんな危ない橋渡る必要ないですって」

「それは、そうですけどぉ……」

「前にも話し合いましたけど、交際云々は基本秘匿する方針なんですから。やっぱり言葉遣いとか含めて、以前の感じをあえて維持する方が無難じゃないですか」

「ぐぐぐっ……。正論、です。はい」

「めっちゃ断腸そうですね?」

「乙女心的にはすっごい不服です!」

「我慢してください」

「人の心ぉ……」


 そうは言われてもな。お互いに仕事があるわけで。プロである以上、そのあたりの対策はしっかりしなければ。プライベートの一部を犠牲にしようにも。

 そりゃあ、裏でのことを外野にアレコレ言われる筋合いはないが、ライバー活動中にうっかりポロリしてしまったのなら話は別だ。

 着ぐるみは舞台裏で脱ぐべきであって、舞台の上で脱いだら批判されて当然。それを避けるのがプロとしての義務なのだから。


「ともかく。身バレしかねないぐらい人通りが多い場所を除き、これからお互い活動時の呼び方にしましょう。ね、ウタちゃんさん?」

「うぅっ、分かりました。山主さん」

「ご理解いただけたようでなによりです」


 うん。やっぱりこっちの方が落ち着くよな。交際しておいてこれはどうなのって言われたら、苦笑いするしかないんだけど。

 でもほら、ウタちゃんさんもそこらへんを承知で付き合ってるわけだし。無理矢理にでも納得してほしいかなと。

 実際問題、それぐらい気を付ける案件ではあるし。なにせウタちゃんさんですら、その知名度は下手な芸能人に匹敵するわけで。俺はもう言わずもがなだ。

 なのでリスナーはもちろん、極一部を除いた関係者たちにすら、俺とウタちゃんさんの関係は秘密にする方針で決まっている。

 極一部に関しても、玉木さんを筆頭とした特殊な立場の人らだ。なのでほぼ完全秘匿と言って良い。……まあ、それでもどっかでバレるとは思うのだが。

 なのでこれは仕方ない。仕方ないことなのである。決して嫌がらせでそんな距離感を主張しているわけではないということだけは、強く主張したいところである。


「うぅっ。じゃあ山主さん! 代わりに今日は、いっぱい甘やかしてください!」

「えーと、ご飯食べさせたり的な?」

「そうですそうです! アーンとかバッチコイです!」

「良いのか……」


 提案しておいてなんだが、人としての尊厳を捨ててるような気がする。そんな捨て身で大丈夫なの? ……いやまあ、やれと言われたらやるけども。


「それでは、何歳ぐらいを想定して対応するべきです? オーダーとかあります?」

「え? 何歳?」

「……個人的には、最大でも幼児ぐらいに留めていただけと助かるんですが。赤ちゃんプレイとかはさすがに、その、ね?」

「あかっ……!? 甘やかすってそういうことじゃないですからね!? 恋人としてって意味ですからね!?」

「恋人に対する甘やかしって、実際幼児プレイとかと大差なくないです?」

「違いますよ! 確かにそういう感じの人もいますけども! それはさすがに例外寄りですから!」


 あ、そう? たまにいる恥を捨ててる系のバカップル的なことをしろってことだと思って、密かに戦々恐々としてたんだけど。それならまあ……許容範囲か?


「んじゃあ、してほしいことを言っていただければ」

「……私が要求する感じなんですか?」

「指示待ちラジコンしてる方が、お互いに確実だと思いますよ?」

「……情緒!!」


 台パンされた。駄目らしい。







ーーー

あとがき


てなわけで、新章開始です。


そして話は変わるのですが、コメントにてちょくちょくタグに関する内容のものいただきまして。

ハーレムやら、ラブコメやらのタグを付けるのって疑問に関しては、この場を借りてお答えさせていただきます。


まず結論から言うと、タグの追加はしません。


理由につきましては、まず単純にタグ欄が埋まってるからですね。そもそも追加するスペースがないというのが一つ。

次に、今から追加するとその時点でネタバレになるから。これが一番デカイですね。今からハーレムタグとか付けたら、もうハーレムルート確定して楽しみ減るじゃないですか。


そんなわけで、タグについてはこのままです。今後恋愛展開に舵を切るかは、最新話を追いながら悶々としててください。するかもしれないし、しないかもしれません。


ちなみに初期案としては、そもそも恋愛要素すらゼロでした。匂わせぐらいで済ませる予定でした。

だって初期とか、人気次第では二章で完結の予定でしたし。そうでなくても、アメリカ編までしかエピソード考えてなかったし。


てか、この作品って元からハーレムみたいなもんでは? 主人公以外の男性ネームド、そんないないよ? 所属の時点で黒一点だし。

主人公以外は基本女キャラで、恋愛要素抜きにしても楽しくキャピキャピやってればハーレム作品でよくねっていう自論(暴論)の所持者。

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