第150話 VS 山主コラボ(裏) 下
とりあえず、配信はちゃんと切れてた。知ってたけど。知ってたけど良かった。……こんなの表に出たらエグいことになるわ。
「おおぅ……」
にしても、まさかまさかである。告白。告白かぁ……。そりゃ嫌われてはないと思っていたけど、そこまで? そこまでな感じ?
いやさ、確か前にやった打ち上げで、そんな感じの会話をした記憶はあるよ? でもそれってアレじゃん。酒の席特有の悪ノリじゃん。ドラマティックなエピソードがある男女を、第三者がノリでくっ付けようと囃し立てるアレだと思うじゃん。
ガチだったんか。ガチなやつだったのか。人気アイドルVTuberが? 同じVTuberに恋して告白? それも結婚を前提になんて付けるレベルで入れ込んでる? そんなことありゅ?
「マジかぁ……」
真っ赤な顔でこちらを見つめるウタちゃんさんを見て思う。なんとビックリ。あるみたいですね。……信じられないないけど。本当に信じられないけど。
はぁ。意図的にいろいろ鈍くしてたのが裏目に出たな。素の状態だと識りすぎてしまうから、日常では悪意以外に対する感度を低めにしてたんだが……。
その結果がコレか。え、俺ってこんな鈍いの? 探索者になる前ぐらいの感度を意識してたんだけど、こんな超恋する乙女みたいな表情を浮かべてる人の気持ちに気付かなかったの? マ?
いや、待て。これは例外なはずだ。何せ常識という名のフィルターが存在していた。VTuberは人気商売。ましてやウタちゃんさんは、それが如実に影響するアイドルVTuber。そんな立場の人が、スキャンダル覚悟で告白してくるとは思わないって。つまり俺は普通。鈍いわけじゃない。
「あの、夜桜さん……。や、やっぱり……その、迷惑でしたか?」
「え!? あ、いや! 失礼しました。あまりに衝撃的だったので……。かなり放心してしまって、はい」
うん、本当にね。告白された後の第一声が、配信チェックなレベルで動揺したし。改めて考えるとクッソ失礼なことやってんな俺。
無言で自己弁護に走ってたりとか、客観的に見てやべぇだろ。恋愛経験値カスかよ。……カスなんだけどさ。年齢=彼女いない歴の非モテ童貞だし。
ともなく、切り替えよう。これは真面目な話だ。ウタちゃんさんが──紗奈さんが勇気を出して切り出したのだから。こちらもちゃんと向き合わなければなるまい。
「えーと、プライベートな内容なようですし、前のように紗奈さんと呼ばせていただきますね」
「は、はい! 私も夜桜さんと呼ばせていただいているので! だ、大丈夫です!」
「そんな緊張しなくても……いや無理か」
一旦落ち着いてもらおうかとも思ったが、紗奈さんの様子を見てすぐに改める。どう考えても一世一代の大博打。落ち着けと言って落ち着けるものではないだろう。
「えーと、それで紗奈さん? 俺と結婚を前提に付き合いたいとのことですが……正気ですか? 自分で言うのもアレですけど、俺って結構厄いですよ? 殺害予告とかされてますし、性格だって普通にクズですし」
「確かに夜桜さんが特別な立場にいることは知ってます! でも関係ないです! 私はあなたが好きなんです! 愛しているんです!!」
「お、おう……。またその、ストレートですね?」
「だってこうでもしないと、私の想いは伝わらないじゃないですか! 私にとっては夜桜さんは特別でも、夜桜さんにとっては違う! ……ただの同業者でしかないんですから」
「え、いや、あの……。そんなことはないと思いますけど?」
「気を遣っていただなくて結構です。全部分かってますから。私が一切意識されてないことなんて、これまでの付き合いで痛いほど理解してます」
「あー……」
否定は……できねぇよなぁ。実際、紗奈さんの気持ちに微塵も気付いてなかったわけだし。
何が駄目って、思い返してみるとアピールっぽいことはちょくちょくされてるのがなぁ。なんなら大分際どいラインを攻められてるし。
前の打ち上げね。てんてんさんが間に入っていたとはいえ、相当攻めた会話してたわ。……改めて考えるとやべぇな。何故に気付いてなかったん?
「一応、弁明させていただきますと。前にちょろっと話したかもですけど、俺って性欲とか意図的にオフにしてるんですよ。他にもプライバシーに引っかかりそうな一部の感覚も、意図的に鈍くしているので……」
「大丈夫です。責めているわけでもないです。私がそういう対象になれなかったのは、私の努力不足ですから」
「……なんかすんません」
どう考えても受け取り手だった俺の問題なんだよなぁ。そりゃあ、恋愛云々は感情論がメインの世界だし? 理由はどうあれ、意識されてない時点で負けではあるのだろうけど。
でも、なんだろうねこの気まずさ。悪いことをしたわけではないんだけど、凄い罪悪感がある。紗奈さん、無理して笑ってるのが明らかだし。
「ですから、今こうして悪足掻きをしているんです。どうにか夜桜さんに私の本気を伝えて、少しでも考えてもらいたいんです。勝負の土台に上がれないのは、さすがに悲しいですから」
「いやあの、土台には上がってますよ? なんなら絶賛追い詰められてますよ?」
「でも、まだ足りないでしょう? だって夜桜さん、困ってるじゃないですから。……その時点で答えでしょう?」
「確かに困ってますけど、それは決してそういう意味ではなくてですね? 慣れない事態にしどろもどろになってるだけでして」
端的に言って凄いストレス。なにこの状況。どう答えるのが正解なの? 受け入れるにしろ断るにしろ、大変なことになるのは目に見えてるわけじゃん? ……え、コレ詰み? どちらの地獄を選べ的なサムシング?
「……ふぅ。ちょっと混乱が続いているので、一旦整理してよろしいでしょうか?」
「はい。もちろんです」
「えっと、まず紗奈さんは俺のことが好きで、結婚を前提に交際したいと」
「そうです。……ただその、私程度が夜桜さんに釣り合うとは思ってないですし、結婚についてはそこまで気にしないでください。なんなら、付き合う必要だってないです」
「わっつ?」
「他に好きな人ができたとしても、私は気にしません! 愛人、いや都合の良い女で構いません! もしハーレムを作るというのなら、その中に入れてくれるだけで良いんです! ただ夜桜さんのそばにいたいんです!」
「果てしなく人聞きが悪いこと言われてる気がする」
え、俺そんなことするように思われてんの? そりゃ確かに、そういうことしても許される的なことは言われてるし、俺自身も会話であげたりしたよ?
でもそれってアレじゃん。ものの例えじゃん。立場とか財力とか、そういうのを説明するために言ってるのであって、実際にやるかどうかはまた話が別でしょ?
いや、分かってるよ? 紗奈さんに俺を貶す意図がないのは分かってる。それだけ想ってくれてるって示しているだけなんだろうけど……ちょっとモニョるよね。
そもそも俺、性欲諸々オフにできるわけでして。キャラ付けとかじゃなく、ガチな意味で恋愛感情とか希薄寄りなのに。そんな複数人に気移りするかって話なんですよ。
「……まあ、うん。それは良いや。ともかく、紗奈さんは俺と交際、いや男女の関係になりたいと」
「はい。間違いありません。……駄目、ですか?」
「駄目、と言いますか……」
そういう問題じゃないよね。うん、そういう問題じゃない。俺と紗奈さんの間には、どうしようもないほどの溝が横たわっているのだから。それも複数。
「まずお訊きしますが、ライバー活動とかはどうお考えで? 表に出すことはないにしても、あまりよろしいことではないと思いますが。ましてや俺は同業です」
「それについては、ご心配なさらないでください。ライブラは恋愛を禁止してません。もちろん、外部のライバーさんが相手であっても問題ないです。むしろ、内部恋愛の方が禁止されてます」
「あー」
まあ、それはそうか。予想通りと言えば、予想通りではある。普通のアイドルならともかく、VTuberだしな。多少は緩くもなるか。
他所の事務所ということで、念のため確認してみたわけだが。契約的な意味では問題ない、と。
「それにもし、活動に支障が出るかもと、夜桜さんが不安に思うのならば──ライブラを卒業することも視野に入れています」
「契約的に問題ないのなら、そんなこと視野に入れなくて良いですからね?」
業界トップの一人が、そんな易々とこれまでのキャリアを捨てようとしないでください。それだけ俺のことを想ってくれているってことなんだろうけど、あまりにガンギマリすぎるだろ。
「……んー。紗奈さん」
「なんでしょうか」
「あなたが俺のこと、どれだけ強く想ってくれているのかは分かりました。それに関しては、とても嬉しく思います」
「……はい」
「ただその上で、言わせていただきます。先程、自分でも理解していると言ってましたし、ここで有耶無耶にするのは筋が違うと思うので」
小さく息を吐く。紗奈さんが覚悟を決めて想いを告げたのなら、俺もまた覚悟を決めなければならないだろう。
正直、気が進まない。それぐらい残酷で、最低なことを俺は今から言わなければならない。
「紗奈さんが仰った通り、俺はあなたをそういう目で見たことはありません。VTuberの先達としては尊敬していますが、恋愛対象という意味で認識したことはありませんでした。今後それが変わるのかも分からない」
「……そう、ですか」
「そして俺は、さっきも言ったようにアレな立場です。殺害予告とかもされてますし、そうした矛先が周りに及ぶこともあり得ます。……まあ、影で警護されてたりするので、可能性は低いですが」
「……」
「ともかくです。俺はあなたを好きになるかも分からず、親しくなればなるほど危険だけが増えていきます。──ハッキリ言いましょう。俺とそういう関係になったところで、紗奈さんが幸せになれるとは思いません」
生活は保証できる。なんなら贅沢だってさせてやれる。日々美食に溺れ、摩訶不思議なアイテムの数々で人生を彩ることはできるだろう。
だが、恐らく紗奈さんが一番求めているもの。『心』を与えることはできない。愛を返すことはできない。
客観的な評価として、俺は人間として終わっている。恋愛面において、俺と共に歩める人間はまずいない。いや、歩もうと思ってくれる人間と致命的に相性が悪い。
推測ではあるが、俺と相性が良いのは、俺のことを愛していない人間だ。俺自身ではなく、俺に付属する何かしらに価値を見出している人間だ。そうでなければ、恐らく何処かしらで破綻する。
俺がどうこうするのではない。俺のことを相手が見限る結末になると思う。なにせ高い確率で返せないのだ。俺を愛してくれる人が、一番求めているであろう『心』を。
「俺みたいなのより、あなたには相応しい人がいる。紗奈さんを幸せにしてくれる人が、きっといつか現れると思いますよ?」
「……嫌です! 私は、夜桜さんが良いんです! 夜桜さんが好きなんです!! 助けていただいたあの日から、私はずっとあなたことを想ってきたんです! だから! だから!! 私にできることはなんでもしますから!! お願いします!! お願いします!!」
「そうですか。ならとりあえず、よろしくお願いいたします」
「──え?」
「え?」
え?
ーーー
あとがき
「ワイ地雷よ? もっとマシな奴、絶対現れるよ? それでもワイを選びたいん?」
→YES
NO
「おかのした」
簡単に言うとこういうこと。てことで、カップル成立。
ちなみに主人公がOKした理由は、特に断る理由もないから。諸々のデメリットを理解した上でなお自分を選ぶのなら、まあ良いんじゃねぇのって感じ。断るとそれはそれで気まずいし。
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