第148話 VS 山主コラボ その六
「──はい。これでひとまず完成、です」
「おー……。あ、写真撮って大丈夫ですか? SNSの方に載せておきたいんですが」
「どうぞどうぞ」
:見てきた。超美味そう
:やっぱりウタちゃん料理上手よね
:これは良いお嫁さんになれますわ
:手際も良かったしなー
:The和食
:盛り付けも綺麗
:良いなぁ……
:裏山
:ちゃんと美味しそう
:食べたい
:理想の夕飯
:仕事から帰ってきてこの料理あったら幸せすぎる
並べられた料理の数々に、自然と感嘆の声が漏れた。いや、本当に凄いな。なにが凄いって、超美味しそう。盛り付けが素敵。
炊き立ての白米に、ふわふわプルプルで黄金色の卵焼き。小鉢には甘じょっぱい湯気を立てる肉じゃが。お椀には優しい香りの味噌汁。
そりゃあ、俺とて料理系VTuberだ。料理は普通にできる方だし、食欲を唆る料理だって作れる。……食材のポテンシャルを加味すれば、目の前の品々を余裕で上回るさ。
しかし、それは表面上の評価である。この料理の真骨頂は、分かりやすい味やインパクトとは別の部分にあるのだ。
「いやー、なんでしょうねこの感覚。食卓を通して染み渡る懐かしさというか。なんか、これ見てると実家に顔を出したくなる」
「大袈裟すぎません? 食べた感想ならまだ分かりますけど……いや、それでも気恥しいんですが。見た目だけでそこまで絶賛されると、その、ね?」
「順当な評価だと思いますよ? 家庭的って言葉が、これ程に似合う画はそうないかと」
実家を思い出すんだよなぁ。……と言っても、我が家の食卓はここまで丁寧な盛り付けではなかったが。
分かりやすくいうと、家庭料理レベルMAX。食材や調理技術やらは一般家庭の範疇なのだが、それをギリギリまで練り上げた感が凄い。
真心込めて作った料理を、丁寧に丁寧に盛り付けたのがコレ、みたいなね? そこが俺の作る料理との決定的な差だ。
俺の料理はさ、分かりやすい派手さこそ漂わせてるけど、細部は普通に雑だからね。配信映えを重視してるから、仕方のない部分はあるんだけど……。我ながら料理に頓着ない素の部分が滲み出てるなって思うわけですよ。
まさにジャンクフードの如しってね。対して、ウタちゃんさんの料理は、旅館出てくる御膳である。もう繊細さが違う。……調理技術的な意味での繊細さなら、俺の方がダンチではあるんだが。
「お約束かつ、客観的な評価も込めて言わせていただきますが。ウタちゃんさん、わりと真面目に良いお嫁さんになれるんじゃないです?」
「ぶっ……!? あー、いや、はい。何重にも予防線を張っていただいて恐縮ですが、さすがにそれは過大評価ですよ。……っとにビックリしたぁ」
「そうですかね? 全然妥当だと思いますけど」
「いやいやいや。そりゃあ確かにアレですよ? 今日はもう全身全霊を掛けて臨ませていただきましたし、それに相応しい会心の出来栄えですけど。このレベルを毎日ってのはちょっと……」
「あー。まあ、それは確かに。『できる』と『してる』は別ですしねぇ。俺もそれはよく実感してます」
「ですです」
:習慣となるとまた別だからな
:料理をするからこそ分かる面倒くささ
:実家のマッマには感謝してもしたりねぇ
:てか、山主さんめっちゃ口説くやん
:実際それは思う。でも、ウタちゃんは良いお嫁さんになれるよ
:動揺してるウタちゃん可愛い
:山主は山主で料理してる側だからなぁ
:洗い物とかマジ面倒なんよ
:まあ、MAXから多少落ちたとしても、ウタちゃんレベルの腕があれば十分なんだけど
:山主さん、また臆面もなくそんなこと言う……
:料理ができるって時点で高ポイントなんだよなぁ
何度も繰り返している気がするが、料理は二種類あるからね。日々のタスクとしての料理と、趣味としての料理。それによって全然労力が違ってくる。
と言っても、ウタちゃんさんの嫁適性が高いことは変わりないのだが。基礎となる技術は同じだからね。料理ができる時点で十分に家庭的だ。
そもそも、日々の料理にそこまで力を入れる必要なんてないわけで。上流階級でもないんだから、スーパーの惣菜や冷食をガンガン使ってOK。ついでに軽く一品でも作ってくれれば、文句の付けようのない良妻ってやつなんじゃねぇのかなと。
いやまあ、これ以上の熱弁はキショいからしないけどね。賞賛の一環として許されるにも、話の流れってもんがあるし。過剰なageは出会い厨っぽさが出るので控えなければ。
「それじゃあ、本題に戻りまして。ウタちゃんさん、いただいてよろしいでしょうか?」
「あ、はい! どうぞどうぞ! お世辞とか抜きで、辛口で評価で採点しちゃってください!」
「しませんよ? 辛口評価だろうが問題ないと思いますけど、そんな失礼なことしませんからね? 料理対決してんじゃないんですから」
ビジュアルの時点で美味そうだし、調理工程も見てるから高評価なのは確定しているとして、よ。
今回、そういう企画じゃないんですよ。普通にご馳走してもらうだけなので、やるとしても食レポぐらいなんですわ。
というか、料理の採点って普通に失礼ですからね? マジで企画とかじゃなきゃ許されないレベルの蛮行ですからね? 特に最近はうるさい人とか多いし、そういうのはちょっとNGかなって。
「普通に美味しくいただかせてください。俺としても、純粋に楽しみたいですし」
「そ、そうですか? ……個人的には、バラエティ的なノリで対応していただいた方が気が楽なんですけど」
「そんな緊張しなくて大丈夫ですよ? どうせ大絶賛しますし」
「まだ食べてないですよね!?」
「女性の手料理は、たとえ炭だろうが『美味い』と言ってかっ食らうのが男の甲斐性ですから」
「違いますよ!? 何ですかその常識!?」
「ラブコメ漫画の常識ですかね? あとは少年漫画?」
「不味い時は普通に不味いって言ってください! フィクションと現実を混同しちゃメッですよ!」
「まあ、混同しなくても大絶賛するのは確定なんですけど」
「山主さん本当に恥ずかしいんでもう少し手心をですね!?」
手心もなにも、客観的な視点でしか話してないんだけどな?
ーーー
あとがき
料理の感想はカット。理由は前回のそれと似たような感じ。わざわざ書く必要ないかなと。……もしここまで書籍で出せたら書くかも?
で、更新遅れました。てか、遅らせました。理由はシンプル。
明日が、コミカライズ版が掲載されているコンプティークの発売日だからです。てことで、皆さん是非買ってね。
それはそうと、今後の更新なんですがね。基本的には水、日で続行しますが、今回みたい告知が必要そうなタイミングと被った場合は、事前連絡なしで調整させていただきます。ご了承ください。
んじゃ、そういうことで。アディオス。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます