第146話 VS 山主コラボ その四

「さて。良い感じにハードルも上がったことですし、そろそろ料理の方に移っていただきましょう」

「全然良い感じじゃないんですが? 無茶振りされて泣きそうなんですが?」

「でも、美味しいもの作ってくれるんでしょう?」

「頑張りますけどね!? そんな信頼MAXな目で見ないでくださいよ!! 無茶振りより遥かにプレッシャーなんですけど!?」


 そうかな? そうかも。いやでも実際さ、料理に自信がないとこの企画提案しなくない? ギャグ路線を狙って、下手な人が敢えてって場合もなくはないけど。

 常識……常識? ともかく、ちゃんと得意か壊滅的に下手かのどっちかだと思うんだけど、これって俺がおかしいんだろうか?


「で、本日のメニューはなんでしょうか? 事前に言われた通り、炊飯器の方はセットしてありますけど。あと三十分ぐらいです」

「えーと、肉じゃがと卵焼き、あとはお味噌汁を予定してます」

「和食ですか。素敵なメニューですね」

「ありがとうございます。頑張ってそれっぽいものを選びました」

「……それっぽいとは?」

「コラボ目的に合わせて、燃えそうなやつを中心に」

「oh......」


:意味深なメニューで草

:肉じゃがに味噌汁……

:あ、察し……

:草

:これは高火力

:草

:卵焼きも家庭の味なんだよなぁ

:アカンやん

:草

:ユニコーンも憤死するわ

:これを狙ってやるとか悪い女やでウタちゃん

:匂わせか?

:マジで洒落にならないぐらい燃えそう


 今更だけど、これ本当に大丈夫? ウタちゃんさん、真面目にマネジメントとか影響出ない? 確かに厄介ファンを炙り出すためって目的はあれど、あまりに捨て身すぎやしないか?

 いや、もちろんネタなんだろうけども。そっちの方が面白そうだから選んだってだけなんだろうけども。にしても『肉じゃが』と『味噌汁』って……。


「まあ、ウタちゃんさんの味噌汁なら、毎日飲んでみたくはありますが」

「ふぇあっ!? ちょっ……えっ、山主さん!? い、いきなり何ですか!?」

「いや、せっかく身体を張ってくれたわけですし、俺もそれに合わせるべきかなと思いまして」

「だからって不意打ちで豪速球投げないで!? めっちゃびっくりしたから!!」

「……みたいですね」


 凄い顔真っ赤だし。変な声も出してたし。なんなら今も若干挙動不審……てか震えてるな。そこまでか。


「んー、似たようなことやってた人たちを参考にしたんですけど、キャラに合わないことはするべきじゃないか……」

「……ちなみに何を参考にしたんですか?」

「そちらの雛松テマリさんを」

「確かにテマリちゃんは方々に似たようなことやってますけどぉ……」


:てぇてぇ

:テマリちゃんはやってる

:バイトリーダーと新人ギャル……

:草

:これはてぇてぇ

:可愛い

:草

:山主さんアンタすげぇよ

:エピとかで良くこの手のネタ振ってるよね

:ビックリしてたウタちゃん超可愛いかった

:草

:草

:ローテーションでプロポーズしだしたからマジビビった


 やっぱりキャラじゃなかったか。まあ、ウタちゃんさんは知らんけど、俺に関しては恋愛系のトークすら配信ではしてないからな。

 知識にはあるからイけると思ったのだが、予想以上に変な感じになってしまった。慣れないことはするべきじゃないな。

 あと相手も悪かった。さっきも言ったけど、ウタちゃんさんもそういう系のキャラじゃないし。それこそ、本家本元である雛松さんとかに振るべきだったな。……コラボする予定はないんだけども。


「んで、ウタちゃんさん。大丈夫ですか?」

「……ゴメンなさい。もうちょっとしたら落ち着くんで、少しだけ待っててください」

「あ、はい。それじゃあ、料理で使いそうな道具出しときますね」


 えっと、まな板と包丁は出ててるから……。肉じゃがと味噌汁ってことは、少なくとも鍋は二つ。あと卵焼き用のフライパンが確かここで……。

 他には何だ? ザルとかか? お玉も使うか。ゴムベラ、菜箸。キッチンペーパー。……あー、あと落し蓋か! 肉じゃがだと多分いるよな。てことは、アルミホイルはいるな。


「コメ欄。あと他にいるやつ……え? あー、そういや言ってなかったけど、今日はダンジョンの食材は使わないよ。普通の普通の。物によっては、調理も難しいやつとかあるし」


:あー

:それはそう

:なんだかんだ、常人には無理な食材多いもんな

:デカイってだけで結構大変だしな

:たまに鉄の強度とか出てくる食材とか無理よ

:つまり完全なるウタちゃんの手料理?

:いくら美味しくてもな……

:山主さんだから調理できてる部分はある

:ウタちゃんには無理よ

:あとダンジョン食材って、加工前の状態でドロップしがちだし

:入手難易度と調理難易度で、味に対して釣り合いを取ってる説


 そうなのよね。最初は俺もダンジョン食材を提供しようとは思ったんだけど、途中で『いや無理では?』と気付いてしまった。

 提供するにしても、俺がまず調理可能なレベルにまで加工せんと話にならないという罠。

 まあ、その辺を抜きにしても、こちらから提供する話はポシャッたんだけどね。

 これは表に出して良いか不明なので控えておくが、それがウタちゃんからのオーダーだったのだ。なんでも食材のポテンシャルで下駄を履かず、自分の実力で勝負したいんだと。

 なんと見事な闘争心である。やはり料理は女性の戦闘手段ってやつなのだろう。……自分で言ってて意味不明だけど。なんと戦うんだって話ではある。食戟?

 ところでウタちゃんさん。もう復活できそうです? あ、イける? それじゃあよろしくお願いいたします。






ーーー

あとがき


おかしい。まだ調理すらしてない。でもキリが良いから今回はここまで。……次で調理。その次で実食。さらに次で裏。良しこの予定でいこう。


ちなみに前回のコメントで、主人公の料理の価値について多数の意見をいただきましたが。

単純な話、主人公は自分の料理にそこまで価値を見出してません。ましてや、食材という条件を揃えた状態ではね。

そりゃまあ、傍から見たらスターの手料理ですけど、本人から見たらただの料理ですし。

いつも食ってる自分の料理と、ネットのアイドルかつリアルでも可愛い娘さんの料理だったら、どっちが上かと感じるかって話ですよ。


あと、これが一番大事なんですが。……主人公、そもそもちゃんと考えて喋ってません。半分ぐらい脊髄反射で喋ってます。

だからわりと適当です。シリアスな場面を除いて、会話なんて大体そんなもんでしょう? だからテンポよく会話が広がってくんですから。


それはそうと、今更かついつまでかは分かりませんが、AmazonのKindleで、本作がお得になってますね。お買い得ですよ? ──あとは分かるな。


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