第143話 VS 山主コラボ その一

「──こんばんはー。山主さん、今日はよろしくお願いします」

「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします、ウタちゃんさん」


 さて、本日もオフコラボ。お相手はウタちゃんさんだ。異性オフコラボ強化期間における四人目にして、初の外部ライバーさんとのコラボというわけである。

 なお、ちょっと前にやった根角さんはカウントしないものとする。バ美肉だし、そもそもオフで会ってないからね。


「えーと、今日は料理配信をリクエストされてますが……本当にやるんです? もちろん、準備はしてますけど」

「はい! 予定通り進めちゃってください!」

「ア、ハイ」


 挨拶もそこそこに、今日のオフコラボについて最終確認。……いや実はね、送られてきた企画の内容が結構攻めた感じのものだったからさ。遠回しに正気かどうかを訊ねてみたんですよ。

 まあ、返ってきたのはやる気に満ちた返事と握り拳だったわけですが。……そっかー。本気なのかー。

 いや、うん。本人が問題ないと言うならば、こちらとしても拒否する理由もないんだけどね。リクエストには基本的に応えると宣言しているわけだし。ただ攻めてるなって、俺が個人的に感じているだけだし。


「じゃあ、ちょっと今回の企画に合わせたセッティングをさせてもらいますね」

「お願いします!」


 んじゃ、ちゃちゃっと機材のセッティングだけしちゃいますか。

 リクエストの関係で、普段と多少異なるが……ま、問題ないかな。何度も似たようななことをやってきているのだ。最早慣れたものである。

 カメラの位置はこっち。角度もこう。手元カメラの要素を強めにして……おけ。最後に軽く動いてみて動線の確認をして、と。


「んー、問題なさげかな? ウタちゃんさん、ちょっと見てもらってもよろしいですか?」

「了解です。……うん、大丈夫だと思います!」

「そうですか。じゃ、これで」


 ウタちゃんさんからもOKが出たので、この配置で進めることに。あとはいつもの作業をして終了かな。


「いや、すいませんね。いつもならあらかた終わらせてるんですが、今回はウタちゃんさんの確認も欲しかったんで」

「大丈夫です! 私がリクエストしたことなんで! むしろ私の方が無茶を言っちゃったせいで、お手数お掛けいたしました」

「いえいえ。企画に付き合うのは当然のことですよ。特に今回の場合は」


 それが犯罪やコンプラに違反するような内容でない限り、全力で付き合う所存である。そういう前提で宣言したわけだしね。


「ちなみになんですが、他の人たちはどんな企画をリクエストしてるんですか? その、参考までに。……あ、教えられる部分だけでもちろん大丈夫ですから」

「そうですねぇ。やっぱり料理を食べたいって人は多いですね。その次に対談、てか雑談でしょうか? あ、たまに一緒にゲームしたいって人もいましたね」

「なるほど。……意外と皆無難なんですね」

「そりゃまあ、結構な人が初絡みですし。初っ端からかっ飛ばす人は少数でしょう」


 まあ、そんな奇特な人もいないわけではなかったが。とはいえ、その辺りは流石にお口にチャックだ。ぶっ飛んだ企画は、できれば前情報なしで実現させたいし。


「あー……。その口ぶりだと、やっぱりかなりの人数が声を上げてるんですね」

「そうですねぇ。正直、想定してた以上でした。意外と皆さん、フットワークが軽い」


 個人的には『いきなりオフコラボは流石に……』みたいな空気が流れるかな、なんて思ってたんだけどねぇ。中々どうして、オフコラボに乗り気な人が多かった。

 中小クラスの個人勢、または企業勢ぐらいがメインになるかなと予想してたが、大物VTuberなんて呼ばれるような人たちも立候補してきたから、本当にビックリした。

 マンツーマンはちょっと、なんて人がいたぐらいかな? それでも複数人でのコラボなら、オフでも構わないって言われたし。


「いや、それはそうですよ……。山主さん、相変わらず自己評価が低いですよね」

「そうですかね? そりゃ知名度は凄いですけど、オフコラボはまた別じゃないですか?」

「あー、分かったかも。ちょっと訂正します。自己評価が低い以上に、山主さんはオフコラボを神聖視しすぎてる感じですね」

「……まあ、否定はしきれないですね。古のVオタなんで」

「いや、私も分かりますよ? あの時代から活動してた側ですし。山主さんがそう思っちゃうのも分かります」

「あ、ですよね?」

「でも、その上で言わせてもらいますけど。もう少しご自分の経歴とか、活動実績を振り返ってみません?」

「チャンネル登録者世界二位で、ちょっと前にアメリカを救っただけですよ?」

「むしろコラボに名乗りを上げない理由がないですよね?」


 それは正直そう。俺も実際そう思っている。……でもやっぱりさ、主観と客観はズレるものだから。

 俺自身はさ、意識的にはライバーやる前とそんな変わってないわけよ。精々が新人VTuberって要素が混ざったぐらい。

 何でかって言うと、戦闘力を含めた探索者云々は、VTuberとしてデビューする前から備わっていた部分だから。元からできることをやっただけで、成長したとか登りつめたとかの感覚が薄いのよね。

 九九ができて褒められたところで、誇らしいかって話だ。客観的に見れば偉業なのは理解しているけど、自己評価は中々高くならないよねって。

 せめて一年。事務所に後輩ができたり、他所の人から先達として扱われたりしないと、この辺の意識は改まらない気がする。結局のところ、俺の中ではまだ山主ボタンは『新人』でしかないから。


「あと、それを抜きにしてもです。山主さん、普通に女性ライバーの中だと安牌みたいな扱いですからね? その辺、理解できてますか?」

「安牌?」

「浮いた話は一切ない。やり取りしても下心の類いを全然感じない。どこまで行ってもVTuberで、公私混同する気配ゼロ。自分から積極的に連絡しないと一生コラボ相手の枠から出れないし、なんなら疎遠になりそうで怖い。明らかにデンジラスとそれ以外で距離感に差がある。もっと私的な連絡をしてほしい──」

「なんか後半誰かしらの愚痴みたいになってません?」

「……そんなことないですよ?」


 気のせい? 本当に気のせい? やぶ蛇になりそうだから、これ以上の追及はしないけどさ。


「と、ともかく! オフコラボは確かにハードル高めですが、山主さんが相手だと話は別って人は多いんです! 山主さんなら大丈夫だと思われてると、ちゃんと知っておくべきなんです!」

「な、なるほど?」

「そうですよ! てか、現状ですら世界二位の登録者数なんですから。配信スタイルとか、個人間の相性とかの問題があるにしろ、です。名前が売れてる人ほど交流を持つ可能性も高いですし、大型企画とかで顔合わせとかもあるわけで。となると、オフコラボも遅かれ早かれって考える人も全然いますよ」

「あー」


 それはあるかもしれない。VTuberって、なんだかんだで横の繋がりも強かったりするしなぁ。

 個人が事務所を跨いでの超大型企画をセッティングすることもある業界だ。名前が売れてる人ほど、人と会うのに躊躇なかったりするのかもしれん。……沙界さんもそうだったし。


「まあ、それについては納得です。……ただそれはそれとして、女性ライバーからの評価がやけに高いようなするのは、俺の気のせいですかね?」

「だって山主さん、裏での受け答えとか凄い丁寧じゃないですか。『あの時のコラボどうだった?』的な会話になったら、態度とかは普通に広まりますよ。コラボとかしてなくても、配信上の印象とかで語られたりもしますし」

「そんなもんですか……?」


 んー、ちょっと分かんねぇな。外部の人だと、そういう私的な連絡とかあんまり取らないし。デンジラスの面々を除くと、沙界さんぐらいかなぁ? 頻繁に連絡取ってるの。……こんなんだから愚痴っぽいご意見が回るのかもしれんな。実際、その通りだから何も反論できん。


「あとは……あんまり大声で言うようなことじゃないですけど、裏垢とかでガチ恋っぽいことを呟いてる人もいますね。流石に誰とは言いませんけど、そういう人が自然と好意的な印象を広めたり、なんて面もあったりとか」

「……裏垢とか知ってるんですね」

「……まあ、はい。長く活動してると、どうしても。あの、本当に山主さんアレですからね? 無自覚、いや興味がないんでしょうけど、まあまあしっかり狙われてますからね? そこのところガチめに理解した方が良いですよ?」

「あ、はい。ご忠告ありがとうございます」

「いや忠告っ……忠告と言えば忠告なんですけど! そうじゃなくて! 山主さん実はワザとやってません!?」

「女性関係のトラブルに発展しないよう、気をつけろって話ですよね?」

「そこまで伝わってるなら、あと一歩踏み込んでくださいよ! 何でそこで思考停止しちゃうんですか!? ちょっと山主さんピュアすぎません!?」

「えぇ……?」


 何故そこでピュア? ちゃんと言われた話題読み取ってるよな? 要約すると、シモの問題に発展しないよう気をつけろってことでしょ?


「いや分かってますよ!? たんにアウトオブ眼中ってだけなのは分かってますけど……!」

「ウタちゃんさん?」

「もう良いです! 分かりました! このままじゃあまりにも埒が明かない! 最近はEの子もかなり危なくなってきましたし、私も腹を括ります!」


 ウタちゃんさん?


「──山主さん! 配信が終わったらお時間ください! 話したいことが……お伝えしたい大切なことがあるんです!!」







ーーーー

あとがき


機種変したので、端末の使い心地を確かめるついでに更新。次章の大まなか展開も決まったし、この章もそろそろ終わりかな?


ちなみに念押ししていくと、主人公は鈍感キャラではないです。ただ悲しいことに、殺伐とした青春時代を送ってきたことで、恋愛という概念そのものが頭から抜け落ちてる節があります。

あとはシンプルに、相手のことをちゃんと見ていない。VTuberというフィルターが何重にも掛かっているので、恋愛対象として認識してすらいない。最初はトラブったけど、その後は良好な関係を築けている取引相手ぐらいの感覚。

一応、前のコラボでその手を会話はしたものの、普通に忘れてる。ただ言われれば直ぐに思い出す。


めっちゃ分かりやすく言うと、声優についてはそこまで興味のない強火のアニオタ。

キャラのセリフはしっかり記憶してるレベルで好きだけど、作品一つで完結してしまってる勢。

 アニラジ番組とかそんな見ないし、声優陣の舞台裏トークも興味ない。タイミングが合えば聞きはするけど、そこまでちゃんと憶えてない。それが主人公

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