第140話 特別ゲストにご飯をあげよう その三

「──それではカメラよーし。カリカリの準備よーし。カメラが倒れたりした時の、映り込み対策用の猪マスクよーし」

「ニャァ! ウニャァッ!!」

「はいはい、暴れないの」


:草

:草

:めっちゃ鳴いとる‪w‪‪w‪

:また猪マスク被ってるー

:草

:待ち遠しくて堪らないんだね

:きゃわわ

:草

:なんだかんだでマスク重宝しとるやん

:猪


 もはや怒りかってレベルで荒ぶっとるやんキミ。そんなにお腹減ってるの? いやまあ、確かにそろそろご飯の時間だけどさ。

 本当に食いしん坊ねキミ。そんなバッタバッタしないのもう。手から飛び出そうとして爪も立てるのメッ、よ。俺だから怪我しないけど、普通の人だと傷だらけになってるからね?


「んじゃ、今からカリカリとマグロを混ぜるから。……あー、もうっ。指を噛まないの。分かった分かった。はい、カリカリ一粒。これで落ち着く」

「ニャッ……キッ……ミャゥッ……」

「……さて、今の内に」


 食いしん坊が小さい口で噛み砕いている間に、マグロのミンチをカリカリが入った皿にイン。そんでプラスプーンを使ってよーくかき混ぜて……良し。これならマグロだけ食べるなんてこともできないだろう


「はい、それじゃあね。今からコネッコ君を解放するんでね。皆さんも一緒に、猫動画を見る気持ちで楽しみましょう。ワンチャンだけどリアル宇宙猫も見れるよ」


:草

:助かる

:楽しみー

:そういや、コネッコ君の姿って事実上これが初出しじゃない? 最初のアレはまだ飼い猫になってないし

:お猫様のおなーりー

:コネッコちゃーん

:草

:絶対に宇宙猫なるやん

:可愛い姿を見せてくれ

:どうなるか超気になる

:草


 む。気になるコメント発見。指摘されて気付いたけど、確かに今回が初披露かもしれない。

 配信関係で写真を撮ることは普通にあるけど、プライベートだと滅多に撮らないからなー。そもそも選択肢が浮かんでこない。写真撮影って習慣がない。

 自発的に写真を撮ったのって、マジでコネッコ君のダイナミックエントリーぐらい……いや、釈明配信前に出したような気もするな? もう憶えてねぇや。

 まあ、ともかくだ。少なくとも動画に関しては初なはず。……初か? 本当に初か? コメントしたリスナーの勘違いって線ない?

 駄目だもう憶えてねぇや。ただ滅多に表に出してないのは確かだし、配信前に風呂に入れるべきだったような気もしなくはない。

 手の中でまた暴れ出したコネッコ君を見る。……食いしん坊のワンパク小僧だし、別に良いか。おめかしなんて数年早いな。


「んじゃ、コネッコ君を解放しますねー」

「ニャア! ウミャァ!!」

「解放した途端にカメラに体当たりかますんじゃないよ……」


 あっぶねぇなコイツ……。いや、カメラを倒させたりはしないんだけど。反応速度も全然違うし。倒れたところで、猪マスクも被ってるしさ。

 でも違うやん? そういうことじゃないやん? まあ、動物のすることではあるよ? 我々人間とは生態からして違うんだから、こっちの常識を求めるのは不毛なのは分かってるけど。

 だからってなんでピンポイントでカメラ狙うのキミ? そんなにお預け食らったのが不満だったん? それとも見世物にされるのが嫌なの?

 

「はいはい、こっちよこっち。ほら、カリカリですよー」

「ウミャァ! ニャァッ……ウ?」

「お、何か違うって気付いたね」


:きゃわわ!

:コネッコ君めっちゃ可愛いやん

:あらかぁいいねぇー

:ホンマにイケ猫じゃないか

:ふんふん匂い嗅いでかぁいいねぇ

:一瞬でお皿に釘付けになってるねぇ

:ご飯食べましょうねぇ

:ぷりちーだねぇ

:さあ、たぁんとお食べ

:美味しいご飯ですよー

:おめめくりくりだねぇ


 コメント欄キッショ。え、急にどうしたのコイツら……。コネッコ君が画面に現れてから、日本語コメの九割ぐらいが赤ちゃん言葉になったんだけど。

 別にそれが悪いとは言わないけどさ。どしたん本当に? キミら普段は草生やしてんじゃん。場合によっては結構なディス飛ばしてくるじゃん。普段荒々しい奴らが何をデレデレしてるのよ。

 そりゃ俺もコネッコ君は可愛いとは思うけども。それでもここまでの錯乱はしないよ? 明らかに正気失ってるやんキミら。

 てか、この配信に限らず、猫動画とかのコメント全般に言えるんだけどさ。書いてる途中で我に返らないの? 自分の言動にゾワッてならないの? ずっと不思議に思ってるんだけど、これって俺がおかしいの?

 いや、違う。コメント欄の気色悪さに思考がとっ散らかり始めた。今はコネッコ君のご飯である。ちゃんと実況せねば。


「ニィ……ミャグッ」

「あ、ついに食べた」

「………………ァァ?」

「こやつ、放心して口から零しやがりましたね。……後で床拭かないと」


 しっかり咀嚼したやつをベチャってキミ……。マグロも元々ミンチだし、こんなの事実上の嘔吐じゃねぇか。やってくれたなオイ。

 リアル宇宙猫の代償がきちゃない。わりとちゃんときちゃない。


「ミャッ!」

「あ、正気に戻った」

「ミャァァァッ!!」

「吠えたな」

「ァァァ!! アグニャァ!!」

「ガッツリ……あ、コラコラコラ。顔ごと突っ込むんじゃないよ! あーもうっ、顔がドロドロじゃないの」

「シャァァァッ!!」

「空前絶後レベルでのガチギレじゃないか……」


:草

:草

:ご飯邪魔されてキレとる‪w‪‪

:ガッツリ毛を逆立てて草

:それだけ美味しいんだね

:草

:いっぱい食べたいもんねー

:草

:噛みつきにいってて草

:まだ食べまちゅもんねぇ

:草

:ご飯邪魔してゴメンねぇ


 そんなにか? そんなになのか? 夢中になってるのは分かるけど、俺に対してガチ噛みしてくるレベルなのか?

 キミ、普段はアレやん。ちょっとこっちが辟易とするレベルで甘えてくるじゃん。構ってもらおうとイタズラとかしてくるカマチョじゃん。抱っことかめっちゃ好きじゃん。

 それがガチ噛みしてくるってどんだけよ。今の一口で価値観みたいなの変わってない? 猫かどうかも怪しかったなつき度から、再び野生に転生してない?


「シャァッ! フシャァッ!!」

「はぁ。分かった分かった。もう好きにしなよ。食べ終わるまで止めんよ」

「ウニャァァァ! アミュッ……ァッ……ミャグッ!!」

「それはそれとして、あんま可愛くないなコレ。癒しの猫動画になるかなと思ってたけど、ガッツキすぎて獣が出てる」


 目とかガンギマリだもん。食いつく時の勢いとかもあって、肉食獣の食事シーンなのよ。背景にサバンナが見えるのよ。


「あと、飯終わったら風呂な」

「ンニャ!?」

「当たり前でしょうが。そんだけ顔汚してタオルで済むと思うな。ガッツリ全身洗ったるわ」

「ウミャァァ!! ……うにゃーん」

「甘えても駄目です」


:草

:いきなり会話してて草

:ガッツリ通じてるやん

:草

:お風呂決定

:え、マジで会話できてない?

:待って。コネッコ君、ちゃんと山主の言葉理解してない?

:草

:急に会話しだして草なんだが

:山主さん?


 え? キミら何でそんな不思議そうなの? 言語の壁を無視して強制的に意思疎通ができるんだから、動物ともやろうと思えばできるに決まってんじゃん。

 ちょっと前までガチ赤ちゃんだからやってなかったけど、最近は幼児レベルにはなったし、たまに会話してるよ俺。

 まあ、毎回はやんないけど。主に叱ったりする時だけです。……ずっと会話してたらペットに思えなくなるし。価値観が違う別種族との意思疎通なんて、わりと真面目に不和の元からね。


「ミ、ミャァ……?」

「駄目です許しません」

「ミゥ……」


 風呂に叩き込むのは決定事項です。分かったらさっさと諦めて、やけ食いでもしてなさい。






ーーー

あとがき


この話はこれで終わりかな? それはそうと、わりとマジで忙しくて死ぬ。ワンチャン水曜は更新できないかも。やれそうならやるけど、できれば期待しないで待っててください。




それはそうと、大事なお話がございます。お知らせともいう。


まず第一に、KADOKAWA様の方でプレスリリースがありました。今月の中旬から、業務が平常通りに戻っていくようです。

つきましては、Amazonなどの販売サイトで在庫切れになっている、書籍版の二巻も順次補充される予定とのことです! 詳しい日程は不明ではありますが、紙派の人はチェックの方をお願いいたします!



そして第二! これが超重要!


コンプティーク様にて、本作のコミカライズ版が連載開始となりました! 第一話が掲載中です! 皆様、是非ともお読みください! ついでに感想とかください!


ただ残念なことに、付録の関係で今月号はどこも品薄状態であります。私の方でも編集の方を通して確認はしているのですが、ちょっと不明な状態です。


そのため、現状だと再販を待つか、電子版のコンプティーク九月号を購入していただくしか、お読みいただける手段はございません。……少なくとも私の把握している限りでは。


ですので、他の手段、掲載媒体を知っているという方がいらっしゃるのなら、コメントで教えていただけると助かります。

もちろん、編集サイドから別手段があるなどの解答があった場合は、活動報告または次回のあとがきでご報告させていただきます。


それではどうかよろしくお願いいたします。



またXにて、コミカライズを担当してくださる、藍川蓮先生が本作の試し読み版を投稿してくださっております。

まだ見てないという方は、是非ともご確認くださいませ。藍川先生のアカウントを検索していただければ、直ぐに確認できると思います。

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