第137話 鉄砲隊コラボ2nd その四
「──ねぇ待って。今チラッと根角さんいなかった?」
「気のせいじゃない?」
「いやいたよ。いたって! ……ほらいるじゃん! ボタンにバ美肉勧めてるじゃん!」
「雷火さん、お聞きなさい。それは悪魔の誘いです。見なかったことにしなさい」
「いやスパナ渡さなきゃでしょ」
「思ってたより冷静な返しきたな」
:草
:草
:草
:草
根角チウ:ありがとー! それはそれとして草
:草
:ちゃんとした理由だったw
:草
:草
そう言われたら触れないわけにいかないじゃないか。ちくせう。でも確かにスパナは大事だ。
「それでボタン。バ美肉するの?」
「この話題、下手したら雑談配信かってレベルで長くなるけど、それでも続ける?」
「……あながち否定できないな。仕方ないから、今度のコラボまで保留にするか」
「保留もクソもないんだけどね?」
「そんなわけで、根角さんゴメンなさい。私がお役に立つことはできないみたいです。ただ、コメントありがとうございました。また絡んでいただけると嬉しいです」
「役に立とうって意識からしておかしいんだわ」
何故そんなにバ美肉をやらそうとしてくるのか。これが分からない。
そして根角さんもコメントで返事せんでええから。一緒に頑張ろうねじゃねぇんだわ。何を頑張るつもりなんだ。
「ほら、そろそろ歌いな。バックバンドの人たちも待ってるよ」
「あっ、すいません! お待たせしました! それじゃあ、お願いします。ミュージック、スタート! ──曲は、愛憎無象」
:きちゃ!
:はにゃび頑張れー
:愛憎無象か!
:かっけぇのきちゃー!
:マジか!
:神曲
:もうカッコイイ
:ガチ好き
根角チウ:がんばれー!
:名曲きちゃー!
:ヒュー!
雷火さんのコールに合わせて、バックバンドの人たちが演奏を始める。曲は去年に放映された大人気アニメのオープニングテーマ。
「アイツは 何処に行ったの 私の 前から消えたのは どうして──」
Aメロはか細く。消えた誰かを探す子供のような、それでいてドロリとした女の情念を感じさせる切なさを帯びた声。
普段の天真爛漫……いやハイテンションな雷火さんの姿からは、まず想像できないような変化。歌い出しの時点で分かる感情の入り具合。
「──不躾な視線の雨! 迫り来る人の壁! これも全部全部全部! アナタが消えたから! 私は──」
Bメロは一転して激しく。恨み言を吐くように、恋人に対する不満をぶちまけるように。どことなく悲しさを感じさせながら、責めるように歌詞を読み上げていく。
「──アナタともっと笑いたかった! アナタともっと遊びたかった! どんなに憎たらしく思っても それでもアナタを愛してしまう! 有象無象なんか いらないんだよ! アナタしかいないんだよ!! ああ──」
そしてサビ。ただひたすらに愛を叫ぶ。怒りと悲しみがごっちゃになった声で、がなるように叫ぶ全力のラブソング。
これだよ。これなんだよ。技術で誤魔化してるだけの俺じゃ、まず辿り着けない表現の領域。声の大小だとか、ビブラートの有無だとか、そんな小手先の技術では隠しきれない深み厚み。
正直なところ、技術だけなら俺のが上だよ。ただ歌、いやアートってのはそうじゃないだろ。感情に訴えかけてこその、人の心に残るってもんだろ。
正確な線と円を描けるからって、歴史に残るような名画が描けるか? 正確に譜面をなぞるだけで、プロの演奏を越えられるか?
無理だよ。それで出来上がるのは贋作さ。本物のモナリザと、教科書に印刷されたモナリザ。どちらが上かなんて、論じるまでもないだろうよ。
「──私はアナタが 大好きなんだよ!!」
:カッケェ!!
:最高!
:888888888
:うおぉぉぉ!!
:やべぇぇぇ!
:8888888
:めっちゃ歌美味い!
:マジでカッコイイ!
:ギャップ凄い!
:8888888888
:最高!
コメント欄も大盛り上がりだ。やっぱりギャップ凄いよね、雷火さんの歌って。
カッコよくて迫力があるんだよ。全身全霊で歌ってる感がするっていうの? 声量とは違う、歌声の力強さが段違いなの。
普段はマジでアレなのにね。言い方は悪いけど、アホの子みたいな印象なのにさ。歌になると雰囲気が全体的にパリッとなるし、その上で歌詞に合わせた声色に変化するから凄いのよ。
「お見事。やっぱ生歌はこうでなくちゃっね。見てよ俺の腕。鳥肌立ってる」
「うわ本当だ!? 何で!? 何でそんなことになってるの!?」
「それだけ雷火さんの歌が素晴らしかったってことだよ」
「ど真ん中ストレートに褒めるねぇ!? むっちゃむず痒いから止めてくれない!?」
「えー? ただ思ったこと言っただけだよ? ずっと聴いてたい」
「また臆面もなくそんなこと言う! 止めてって言ってんだけど!?」
「この後も雷火さんがずっと歌ってよ。俺はここで堪能してるから」
「貴様さてはそれが目的か」
ソンナコトナイヨ? ただたんに、自分の歌より雷火さんの歌の方が優れてるって思ってるだけで。
優劣の問題じゃないのは重々承知しているけど、それはそれとして自分の歌にそこまでの価値を感じてないの。CD音源を流すより、上手い人の生歌聴いた方が楽しくない?
「ボタンって変なところで卑屈だよねー。私はもっとボタンの歌も聴きたいけど?」
「あんな宴会芸をご所望なんて、雷火さんも変わってるねぇ」
「いや、宴会芸は楽しいもんでしょ」
「まあ、それはそう」
:あれを宴会芸と申すか
:草
:草
:ちょくちょく論破されてるの草
:それで済ませて良いもんじゃないのよ
:卑屈やなぁ
:レベチなんだよなぁ
:もっと自信もってもろて
:謙遜もすぎると嫌味やで
:草
:山主ももっと歌って
皆も物好きねぇ……。いや、そういう企画だし歌うけどね? ただ自分で歌って、雷火さんの生歌を直で叩きつけられると……ね?
こっちの方が良いんだけど的な感情がムクムクと。やっぱり根本的なところで観客寄りの感性をしているなと、改めて自覚するわけですよ。
「んー、それなら一緒に歌う? デュエット」
「へ? いや、セトリにないでしょ」
「そうだけどさ。あの、この曲とかいけます? ……あ、いける? じゃあお願いしまーす」
「雷火さーん? 勝手に話を進めんといて? しかもチラッと聞こえたタイトル、記憶が確かならアイドルソングでしょ」
「萌え声いけるなら余裕でしょ?」
「余裕だけども」
声的には普通に歌える内容だけども。それにしたって唐突じゃんか。あと俺、その曲歌詞とか詳しくないのよ。歌えて一番なのよ。二番目以降の歌詞はうろなの。……調べろ? マ?
「根本的な問題としては、ボタンは歌うことの楽しさを理解してないみたいだからね。多分だけど、誰かとカラオケとか行ったことないでしょ?」
「そうね。最後の記憶で、中学の時かな?」
「やっぱりね。じゃあ、お姉さんが楽しい遊びを教えてア・ゲ・ル」
「小娘が言いおる」
「誰が小娘じゃい! 確か私と一歳しか変わらないでしょうが! ……あ」
:え、じゃあ山主さん二十歳!?
:そんな若かったの!?
:草
:山主さん、年齢公開してないよね?
:ハナビは配信でお酒飲めないって言ってる。で、山主さんはお酒飲んでる。それで一歳差。……これは二十歳ですねぇ
:マジで!?
:ハナビやったな……
:草
:ふぁー!?
:あれだけ無茶苦茶やって二十歳ってマ?
:思ってた以上に若かった……
こーれは完全に年齢バレましたね。雷火さんと一歳差ってだけなら、まだ誤魔化しようはあったけど。雷火さんが未成年って情報が添えられたら、もう無理ッスわ。
「貴様やりおったな」
「ごーめーん!! ほんっとにゴメンナサイ!!」
「まあ、別に隠してたわけじゃないから良いけど。たんに話してなかっただけだし」
これが女性ライバーならわりと問題かなとは思うが、男の年齢なら気にするほどでもないだろう。知られたところでだからどうしたって話である。
よしんばそこから身バレに繋がったとしても、まあそれはそれだろう。問題が起こったら、その時は粛々と処理するだけだ。
「んで、デュエットだっけ? やるんなら、さっさとやっちゃうよ。ほら、準備して」
「いやガチですみません! あとで絶対に埋め合わせします!」
「あー、うん。分かったから。早く切り替えて。じゃなきゃ延々とこの話題から離れられんし」
「は、はい。……あ」
「今度はなによ」
「いや、その……。マネさんからお怒りのメールが」
「それについてはしゃーない」
雷火さん、お説教&コンプラ研修だそうです。まあ、残当ではあるよねと。
この際だからパーっと歌いな。それで気分盛り上げていきんしゃい。とことん付き合ってあげるから。
ーーー
あとがき
要望あったからその四も書いたよ。最初は五巻まで出た時の追加エピソードにしようと思ったけど。流石に不確定なのと、ちょっと阿漕すぎる気がしたからやめたけど。
次回は久しぶりのあのキャラが登場する予定です。
それはそうと、二点。実は先週からちょっと忙しくてですね。来週……いや再来週かな? そこまでは日水の週二更新になるかもです。
溜まったタスクの処理が終わったら、また更新頻度あげます。それまでお待ちを。
次。KADOKAWA様のプレスリリースによると、八月の中旬ぐらいから平常に戻っていくそうで。
分かりますか? つまり二巻の在庫が復活します。恐らく、きっと、メイビー。
ここまで言えば、お分かりですね? まだ買ってない人は買いましょう。一巻二巻を買いましょう。Amazonとかのレビューも書きましょう。
そうすれば続刊、重版の可能性が高まります。私のテンションも上がります。
なので買いましょう。買うのです。……いや本当にお願い。二、三日前に一万円ほど使っちゃったの。
ブルアカ君ほんまさぁ……。結局一天したあと、任務進めまくって、最終日に最後の足掻きで130連までやったのよ。
でねぇの。なんならクッソ渋いの。すり抜けすらほとんどない。で、めっちゃ渋面になりながらPremiereパック一つ買った。なんかポイントもったいなくて。
ブルアカ、課金したのいつぶりだろ? 初期にイズナあたりに多分初課金して、そこから何回かアンスコと復帰を繰り返して、去年か一昨年のミカ復刻の時に本格的に復帰して課金だから……三、四回目かな?
んで、結果は170連目ぐらいにクロコきました。なんでだよ。一天の時に臨戦ホシノ交換したし、ミカは持ってるからポイント余ったじゃねぇかクソが。
いや、引いたけどね? 最後の三十連までちゃんと回して、二天しましたよ。臨戦ホシノ交換したよ。
そんなわけで、地味に出費が出て悲しい作者です。この悲しみは、私がFGOと学マスで神引きするか、皆さんの新規購入報告のみで埋めることができると思ってます。
つまり買って。買ってください。おなしゃぁぁす!!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます