第136話 鉄砲隊コラボ2nd その三

 実のところ、俺は歌が下手ではないらしい。カラオケならば、満点付近を叩き出すことができるだろうと、レッスンをしてくれた講師の人にも言われたほどだ。

 そもそも歌とは、聴覚と発声に由来する技術である。鋭敏な感覚と尋常ならざる肉体を持ち、極まった肉体操作が可能な俺が下手なわけがないのである。

 故に知識と経験さえ身に付ければ、技術はすぐに伸びた。伸びに伸びた。機械のように正確な音程。歌詞を確実に読み上げる滑舌。自由自在の声量。あらゆる声域に対応した声帯。

 これらを最大限活かせるジャンルがある。ロック? ヒップホップ? バラード? メタル? ──否である。


「コノ ヨゾラニハ ナニモナク ホシノ ヒトツモ ウカンデナイ コノ セカイニハ コエモナク オトノ ヒトツモ キコエナイ」

「ふぁっ!?」


──ボカロ曲である。それも初期特有の調律弱め、スピード早め、転調多めの曲がベストマッチだった。


「アア サビシイナ カナシイナ コノヨ ハ キレイナハズナノニ アア ムナシイナ クヤシイナ ムコウ ハ キラキラシテルノニ」

「声可愛いっ!? えっ、うっそぉ!?」


 未だに俺は感情を載せることが苦手だ。技術力は飛び抜けていても、演技力はそこまでだ。……一応、改善はしているのだが。

 それでも、誰かを感動させるような歌はまだ難しい。それをするには、多分だけど俺自身が歌詞とかに共感できなければ無理だと思う。


「ココハマックラデ ナニモナクッテ セカイニワタシガヒトリキリ ソレガツラクテ イヤニナッタカラ ホシヲエガクトキメタノデス」


 だがしかし、だがしかしだ。感動させることはできなくても、感嘆させることはできるのだ。驚愕させることはできるのだ。

 

「デンシノセイザヲエガキマショウ コードノシンワヲツムギマショウ アソコニゼロヲ アチラニイチヲ ヨゾラニ ウカベテツナグノデス」

「……」

「ホシヲエガイテ セカイニキザンデ ワタシモ キラキラウタウノデス !!」


 てことで、ガッツリ女声で歌ってみたのだが。……反応は如何に?


「以上、電子の星座でしたー」

「……」


:エッグ……

:えぇ……?

:ボイチェン?

:マジかよ……

:本当に予想外だった

:草

:山主さん、両声類だった

:てか普通に上手い

:めっちゃ綺麗な声してた

:やめろよガチ恋しちゃうだろ

:ウッソだろお前……


 あー、うん。とりあえず、驚かすことには成功したらしい。雷火さんが凄い顔でこっちを見ている。ついでに言うと、バックバンドの人らもめっちゃ笑ってる。……最初の方に演奏ミスってたしな。


「……ボタンさん? あの、今のは?」

「ビックリした?」

「ビックリしたってレベルじゃないが!? どうやってあんな声出したの!?」

「こうやって」

「うわまた出た!? しかもさっきと違うし!?」


 ちなみにやり方としては、喉を絞って裏声を出す要領で調節して、上手い具合に変わった時の感覚を記憶する。それでその都度再現すればおけ。


「あんま興味なかったから知らなかったけど、声ってわりと簡単に変えられるのよね。ボイトレの先生から学んだ」

「えぇ……。いや、えぇ? 普通、そんなことできなくない?」

「身体を動かすことに関しては、今のところこの世で一番上手いからね。やり方さえ分かれば、声色なんて自由自在よ」

「だったらせめてイケボにしようよ……。なんであんな可愛い声に振り切っちゃったのさ」

「そりゃインパクト重視だよ。あとは曲の雰囲気」

「そもそも選曲が謎なんだよなぁ。ボカロにしても、ロックとかじゃん普通。いや、有名な曲だけどさ」

「あの曲調がしっくりくるんだよね。機械音声みたいな雰囲気の方が上手く歌える」


:ガッツリ女の子の声で笑っちゃった

:名曲ではあるけども

:草

:わりと真面目に上手くはあった

:あんなん笑うわ

:マジでVOICEROIDみたいだった

:逆にムズイだろアレ

:草

:歌うまとかそういう次元じゃねぇんだわ

:声変えてあの歌い方できるなら、絶対に歌上手いやんキミ

:相変わらずズレとるな

:カッコイイ感じのを期待してたのに、まさかまさかよ


 あとは個人的な感覚なんだけど、女声の方がまだ雰囲気をイメージしやすいのよね。カッコイイ声って言われても『ん?』ってなるんだけど、可愛いとか綺麗めな声と言われるとピンくる。

 アニメ声に寄らせればそれっぽくなるし。その上で正確な音程と、ビブラートやらなにやらを組み込めば、ある程度は形になるでねぇのと。

 まあ、こんな考え方だから演技力とかが育たないんだろうが。歌声に気持ちが載ってないと言われるのは、こういう雑な部分の影響が大きいのだと思われる。


「あと、よくあのレベルで上手くないとか抜かしおったな。謙遜にしても嫌味でしょ」

「いやー、所詮は小手先の技術よ。本当に上手い人の歌には負ける負ける」

「それでハードル爆上げされたら、こっちとしては堪ったもんじゃないんだけどねぇ!?」

「雷火さんの方が余裕で上手いから大丈夫だよ」

「その謎の信頼はなんなの!? 絶対にボタンの方が上手いでしょ!?」


 HAHAHA。私のは所詮ボカロモドキですよ。本当に上手い人の歌と比べられたら、とてもとても。

 いや、冗談抜きでさ。俺の歌は超感覚と極限の肉体操作によって無理くり実現させてるだけだから。マジで機械とそんな違いはないのよね。

 別にボカロより生歌の方が上と言う気はないけど、それはそれとして評価項目は違うよねって話でして。

 てか、やっぱり歌って感動させてこそでしょ。俺は感嘆させることはできても、感動させることは多分できないから。所詮は紛いものよ。

 その点、雷火さんは人を感動させる歌を歌えると思ってる。だって本人が楽しそうに歌ってるんだもん。本人が心の底から楽しめなきゃ、周りを巻き込むなんてできっこないからね。


「ぬぐぐぐっ……。なんかどんどんハードルを上げられてる気がする。それと同時に若干嬉しくなっている自分が嫌だ!」

「雷火さんの、カッコイイとこ見てみたい」

「じゃかわしい! あと、そこは普通可愛いところでしょ!?」

「だってボクがやったもん」

「また萌え声出すな! 男女逆なんだよ!! しかも普通に私より可愛いのやめて!? 自信なくなる!」


:マジで脳がバグる

:もうバ美肉やれよ

:草

:草

:生声でコレできんのはガチで凄い

:やめろガチ恋しちまう

根角チウ:一緒にバ美肉やるー?

:くっそ可愛いのが腹立つ

:草

:ここぞとばかりに萌え声出すな

:現代の英雄の姿かこれ……?

:チウちゃん!?

:違うガチ恋勢が増えるだろこんなの

:チウちゃんもよう見とる


 HAHAHA。ワロスワロス。思ってた以上に反応が良いな。試しに使ってみたけど、中々どうして。これは良い武器になりそうだ。

 それはそれとしてバ美肉はしません。しないったらしません。嫌だよコメント欄がキショくなるの。誰得だよそんなの。





ーーー

あとがき


それっぽい歌詞書くのが一番しんどかった。でも、歌詞なしだと描写が面倒になるし、かと言って本当にある曲を使うわけにもいかんし。

書いてみたけど、歌関係って面倒だね。今後はやらんかも。なんなら、このコラボもこれで切り上げてしまうのもあり。ありよりのあり。


ちなみに主人公の両声類化ですが、普通に考えてできないわけがないよねってことでヨロシク。

あと主人公の歌唱力を雑に補足すると、普通に聴く分にはちゃんと上手いです。上手くなりました。

ただ超一流には一歩劣ります。単体で聴く分には遜色ないですが、聴き比べると若干ペラく感じます。

また、超一流だと聴き比べなくても『んー?』ってなります。そもそも一流特有のアレンジとかもゼロ。

そんで主人公は感覚だけだと超一流なので、自分の歌に対してはかなり辛辣です。本人が人間賛歌マンなのもありますが。


それはそうと、ブルアカが死にました。一天してすり抜けしかしませんでした。……ストーリースキップしてまで石確保したのによぉ! エデン条約二章から最終章、カルバノグ後半、百鬼夜行を全飛ばししたのにです。

これからアビドス三章を駆け抜けていきます。また今度、時間があった時にまとめて読むけどさ……。








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