第135話 鉄砲隊コラボ2nd その二
「……遂にかぁ」
「しみじみと言っておりますな、ボタンさん」
「そりゃあねぇ。ぶっちゃけ、やる気はなかったし」
カラオケ配信。歌ってみた。オリジナル曲。ライバー活動において、音楽はとても重要なコンテンツと言えるだろう。
歌が切っ掛けで有名になるライバー。数百万再生を叩き出す。ネットにおいて新たなブーム、ミームを生み出すオリジナル曲。
挙げていけばキリがない。それだけの力が音楽にはある。だからこそ、多くのライバーが歌にまつわる動画をアップロードし、裏ではボイトレなどで歌唱力を磨いている。
──だが、それはあくまで一般的なライバーの話。残念なことに、俺はVTuberの中でも異端中の異端であった。
既に知名度は天元突破。活動におけるメインとなるコンテンツは、オンリーワンのダンジョン関係。歌唱力に自信があるわけでもなく、歌に対して思い入れの類いも特にない。
故に、歌関係はやる予定などなかった。大して上手くもない素人の歌を聞いて、喜ぶ者など少数派。鍛えれば相応に上手くはなるだろうが、そんなことをするより飯テロかました方が数字になる。
そんで数字とかを抜きにしても、歌以外の企画の方が優先度が高い。他にやりたいことがある。……てか、そもそも歌って好きじゃねぇんだよな。
いや、好きじゃないは語弊があるか。普通に聴くのは好きだ。VTuberの歌みたとかは、移動中のお供として最適だと思ってるぐらいには聴いている。
ただ、歌うことにはそんな興味がない。カラオケとか、人生で片手の指ぐらいしか行ったことないんじゃないか?
「なんか、今更ながらVTuberらしいことやってんなって感じ。ボイスの収録した時も思ったけど」
「個人的には、もっとアレコレ挑戦しても良いと思うけどね。それがエンタメってやつじゃない?」
「ごもっともです」
:山主さんの歌とかマジで気になる
:もっといろいろやってくれてもええんやで
:ボイトレとかやらされてるんでしょ?
:ダンジョン関係の配信も楽しいんだけどね
:草
:分かりみ
:何事も経験よ
:是非とも歌みたとか投稿してほしい
:前のアレからちゃんと成長したんか?
:草
:やっぱりライバーなら歌わなきゃよ
:ようやく山主さんがマトモな路線に戻ってきた
そう言われると反論できないんだよなぁ。実際、食わず嫌いしてる感はあるしね。
同じことばっかやっててもマンネリ化するし、確かに新しいジャンル開拓すべきではある。
そういう意味では、今回の雷火さんのリクエストは渡りに船か。……プライベート的な意味でも良い経験かもな。友人とカラオケなんてやったことないし。
「さて、話をちょっと戻しまして。本日のカラオケ配信ですが、俺が個人的に所有している音楽スタジオでお送りいたします。……はい、そうです。前にチラッと話したアレです。購入してから完全放置してたスタジオです」
「ちなみにクッソ立派です。今日、スタッフさんたちもいるんですけど、ここ入った瞬間に『うちで使ってるスタジオより設備揃ってる……』って呟いたレベルです」
「一目見て判断できる辺り、やっぱりプロって凄いよね」
「違うボタン。そうじゃない。そうじゃないから」
:草
:草
:運営が契約してるスタジオより立派なものを持ってるライバーって何だよ
:草
:えぇ……
:そんなご立派なものを放置すんな!
:これだから大富豪はよぉ……
:シンプルにもったいない
:草
:スタッフさんに同情するわ
いやー、そう言われてもねぇ。深く考えずに買ったから、設備の充実具合とか全然知らんのよね。そもそも機材に詳しいわけでもないから。
まあ、使える分には問題ないんでねぇの? 持て余してこそいるが、あって困るもんでもないし。
唯一の問題点だった、機材を扱える人員に関しても、事前に連絡すれば手配してくれるってスタッフさんに言われたし。
メンバーにその都度貸し出したりして、今後は上手く活用していけば良いんじゃないかなって。
「んで、せっかくちゃんとした設備があるので、今回はその辺をフル活用していこうと思っています。てことで、音響関係のスタッフさんと、バックバンドの方々に来ていただきました。わー」
「……改めて考えると、これマジでイカレてるよね。事実上のプチライブでしょこんなの」
「ライブ配信だよ?」
「そっちのライブじゃないから」
:生演奏!?
:マジで!?
:草
:めっちゃ豪華で草
:うわガチじゃんしっかりおるやん
:カラオケじゃねぇだろこんなん!
:バックバンド付きとかマ?
:草
:流石山主さん。俺たちにできないことを平然とやってのける
:相変わらずハチャメチャで草なんよ
:マジでライブじゃねぇか!
あ、バンドの皆さんどうも。音ありがとうございます。……すげぇなコレ。この手のパフォーマンス、生だとこんな感じなんか。
うーん、これは確かにライブですね。オフコラボ強化月間ってことで、ちょっとだけ特別感を出そうと思ってセッティングしてみたけど。これは思ってた以上に愉快なことになるかもしれない。
「んー、反響次第では定期イベントにしても良いかもね。デンジラス内だけじゃなく、他所のライバーさんを呼んだりして」
「これもう無法すぎるでしょ。自分の好きなタイミングで簡易ライブ開けるんだもん。自前の設備持ってるとこんなことできるんか」
「そうね。てか、マジで今度からコレやろ。必要なもんをこっちで全部用意して、ゲストに好きなだけ歌ってもらう。それを俺は特等席で楽しむ配信」
「ちょっと自重しようかVオタ。ライバーの立場を悪用しようとするんじゃないよ」
「駄目かー」
楽しそうなんだけどな、コラボという名の特別ワンマンライブ。立場を悪用していると言われたら否定できないけど。
「骨組み自体は素敵だと思うけど、そのままやったら多分燃えるよ? せめてボタンも歌わないと」
「素人に毛が生えた程度の歌なんか、微妙な空気にするだけだと思うけどなー」
「今から歌うのに、ぬけぬけと言いおるな。てか、ボタンちょっと謙遜しすぎじゃない? ボイトレの先生、爆速で上達してるって褒めてたけど」
「あー、それは確かに言われるけど。でも、自分の歌ってぶっちゃけ評価の対象外じゃない? 音程云々ぐらいでしょ、判断付くの」
「まあね。それじゃあ、第三者の意見を聞いてみましょう。てことで、ボタンさん。準備お願いしまーす!」
「あ、この流れで始めんのね。別に良いけど……」
やっぱり妙な気分だなぁ。ま、やるからには全力で臨ませてもらいますけどね。
ーーー
あとがき
これ三話じゃ無理かな? 四話いくかも。
にしても、皆さんアレね。推しに関しては主張強いね。書かんでいいって言ったのにもう……。
まあ、仕方ないね。好きなものの話は熱くなるさ。ならコメントしんしゃい。常識の範囲内、感想とかでカモフラージュした布教なら目を瞑るとも。
ただし場所代は払えよな! 具体的に言うと、書籍版買えな! 一巻二巻セットやぞ! 絶対やぞ! 無賃乗車は許しまへんで!
よろしくて!?
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