第130話 長女コンビと末っ子長男コラボ(なお次男) その二

「えー、はい。どうも、こんばんは。デンジラス所属のスーパー猟師、山主ボタンと……」

「イッカの皆、オハナしよーね。デンジラス一期生、天目一花です」

「はいどうもー! 皆を引っ張っる私はリーダー。デンジラス一期生、常夏サンだよー! 今日はヨロシクねー」


:きちゃ

:待ってた

:きちゃぁ!

:コラボ助かる

:今日はなにやるのー?

:待ってた

:オハナしだー!

:きちゃ

:オフコラボや!

:早速やっておるな

:待ってた


 さて、配信である。さっきまでの雑談は普通に終わった。何もなかった。順当に終わった。いいね? ……だからその生暖かい視線はそろそろ止めてくれませんかね?


「オホン。えーと、そうですね。まずは本日の企画説明……と行く前に、軽くお礼をば。先輩方、今日はわざわざありがとうございます。女性ライバーとのオフコラボ強化月間なんていう、客観的に見て大分アレな宣言に付き合っていただき、感謝の次第もございません」

「あはは。そこはまあ、ね? 大事な後輩だし、目的もちゃんと聞いてるから。……過激すぎてちょっと笑っちゃったけど」

「うん。山主君のことはちゃんと信じてるもの。それにようやく私たちとのコラボに積極的になってくれて、先輩の一人としては嬉しいからね。何回だって付き合っちゃうよ」


 うし。これで対外的なアピールは完了。ついさっき似たようなことを話してはいたが、それはそれ。やはりリスナーの目があるところで、もう一度話題に出すべきだろう。これがリスクヘッジである。

 先輩たちもそれは分かっているようで、素知らぬ顔で乗ってくれたのは助かった。おかげで自然な感じに持ってけた。コメント欄に『てぇてぇ』が溢れているので、演技っぽさは最小限に抑えられたっぽい。


「はい。では、改めて企画説明に入ります。本来なら、先輩たちのやりたいことに俺が付き合うのが筋なのですが……」

「私としては、山主君の凄いところが見たいかなぁと」

「んー、私は絶対にコレ、ってのはないし、サンちゃんもこう言ってるから、ね?」

「……とまあ、こんな感じのことを言われてしまったので、常夏先輩のオーダーを軸に、俺の方で企画を考えさせていただきました。若干、企画立案の仕事を押し付けられたような気もしなくもないですが」

「ソンナコトナイヨ?」


:草

:草

:草

:そんなことあるな

:草

:声震えてんぞ

:サンちゃんさぁ……

:草

:後輩に仕事押し付けて恥ずかしくないの?

:草


 コメント欄でも言われてますよー? ほら、天目先輩と一緒にクスクス笑ってないで、何か言ったらどうなんですか?

 いや、別に良いんだけどね? 企画考えるのも面倒……まあ面倒っちゃ面倒か。ただそれでも、オーダーをこなすぐらいはできる。

 特に今回は、わりとあっさり思い付いたしね。そういや、この方向性で攻めたことはなかったなと、ふと気付いてからはトントン拍子だった。


「まあ、そんなわけで。本日の企画は、不思議方面のドロップアイテムを体験していただこうかなと」

「ほん?」

「不思議方面?」

「はい。今までの配信では、美味い食材を振舞ったり、クソ高いアイテムを見せびらかしたりしてきたわけですが、ダンジョンのアイテムはそれだけじゃないですからね」


 むしろ本領はこっちまである。『高い』はデフォみたいなもんだし、『美味い』は異端だからね。

 ダンジョン産、特にドロップアイテムの魅力はファンタジー要素だからね。その浪漫に人は惹かれるわけで。


「皆さんもご存知の通り、ダンジョンのアイテムには、科学的には説明できない効力を持ったものが多々あります。代表的なのはポーションとかですね」

「まあ、確かに。ゲームとかではメジャーだけど、現実で考えると普通に意味不明だし」

「んー……言いたいことは分かるけど、それ大丈夫なの? 山主君も前に言ってたけど、ポーションって医薬品なんでしょ? こういうことで使っちゃ駄目なんじゃないの?」

「そこはご心配なく。法的にアウトなことはしませんよ。あくまで遊びで済ませられる範囲の物です」


 まあ、抜け穴なんていくらでもあるのだが。ウタちゃんさんの時の偽仙桃みたいに。

 ダンジョン関係の法律は、どうしても現実に対応しきれないことがままあるからね。最初の一発はわりとセーフになりがち。

 と言っても、流石に今回はやらんが。配信の場でそんなアホなことはしない。法的にはセーフであっても、率先して法の抜け穴を潜りにいくのは印象が悪すぎる。

 なので今回は、ガチでセーフな範囲です。それで十分すぎるってのもあるが。……てか、ぶっちゃけ食材のパンチが弱い。値段と見た目と味ぐらいしかないからな、アピールポイント。

 食品枠ではなく、純粋なアイテム枠ならもっと凄いのよ。それを前面に押し出せればなと。


「じゃあ、お二人とも。手始めにこちらをどうぞ」

「……コレは? なんだろ、白い石?」

「わぁ、結構綺麗。……もしかして宝石?」

「いえ。飴、てか砂糖の塊ですね。ちょっと不思議な効果を持った」

「不思議な砂糖?」


:砂糖

:結局食い物かい!

:不思議な効果isナニ

:草

:それ本当に食べられるやつ?

:飴ですらないんか

:草

:角砂糖的な?

:山主さんが言うと無駄に怖いのよ

:一瞬宝石と勘違いしたってことは、琥珀糖みたいな見た目なのかしら?

:また高いやつなんじゃねぇの?


 コメント欄シャラップ。結局食い物とか言うんじゃないよ。取っ掛りとして良さげなのがコレだったんだよ。だから仕方ないの。

 それに今回はグルメは控え目よ。ダンジョンのアイテムって、地味にリソースみたいなのあるから。同じ食品でも、特殊な効果があるやつはそっちに重きを置かれて、味は控え目になりがち。

 食料としてのアイテムが美味いのは、それが理由。内部リソースが味の方に傾いてるから、余計に美味くなってるのよね。

 もちろん、深いところのアイテムは別だが。別というか、単純にリソースが増えて両立できる感じか? まあ、付属する効果の内容にもよるけど。


「ざっくり言うと、それを食べると身体にちょっとした変化があります。悪い変化ではないので、よろしければどうぞ。もちろん、嫌なら食べなくても大丈夫です」

「……何が起こるの?」

「そこは食べてからのお楽しみですね」

「美味しいの?」

「味は普通の砂糖です。クソ甘いだけです」

「地味に食べ難くなることを……」

「あはは。山主君のことは信じてるけど、流石にちょっと怖いね? まあ、食べるけど……」


 眉間に皺を寄せつつも、やがて覚悟を決めたのか、二人揃ってパクリ。……そんなに怖いかしら?


「うわ甘っ……。ん? んー? 何か変わった?」

「んみゃぁ……。えーと、体感だと特に? 変な感じもしないし」

「だよ、ね? 山主君、こうして食べたわけだけど、アレは結局なんなの?」

「えーと、ダンジョン産の美容品ですかね?」

「へ?」

「美白糖って名前のアイテムなんですけど、それ食べると全身のシミが消えて美肌になります」

「「……」」


:は?

:え、ナニソレ

:草

:普通にヤバない?

:美白糖!? あの入手困難な美白糖!? セレブ御用達のアレ!?

:急に無言になって草

:なにそれ羨ましいんだけど!

:エグない?

:オークションが毎度白熱する神アイテムやんけ!

:草


 わぁ凄い。二人とも無言で自分の肌をチェックし始めた。……あの、そんな勢いよく袖とか捲らんでもらっていいすか? 俺、目の前にいるんですけど。


「……山主君」

「はい」

「ちょっと全身確認したいから、トイレ借りて良い?」

「え」

「あ、私も。サンちゃん終わったら入れ替わりで行きたい」

「え」

「「良いよね?」」

「ア、ハイ」


 あ、圧が強い。えぇ、そんなに? ちょっとしたドッキリ&サービスのつもりだったのに……。







ーーー

あとがき


前回のあとがきで、私が都民なんじゃないか的なコメントがいくつかありましたが。……七夕選挙は東京だけじゃないのですよ。

まあ、都民なんですけど。なお、東京住みであることはインタビューにも載っている情報ですので、ご安心くださいませ。住所バレってほどでもないですし。

あと冷蔵庫の故障は、ネズミじゃないです。普通に壊れました。そんでネズミは多分逃げてます。マジで見当たらないんで。痕跡もないので、ほぼ間違いないかなと。


てことで、人鼠冷戦の終戦を宣言します。お疲れ様でした。また勃発した時はよろしくお願いします。


そして終戦宣言につきまして、記念品として本作の一巻と二巻をご購入ください。……私からはあげません。皆さんの方で買ってください。


追加のご購入報告、心よりお待ちしております!!!!

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