第127話 足元に火種
四谷先輩が炎上した。求婚発言はユニコーンには刺激が強すぎたみたいだ。酔っ払いの戯言を真に受けちゃうとか悲しい奴らだこと。
あとはアレか。登録者数爆増の影響で、注目度が上がってる状態だったのも響いたか。この業界、注目度はそのまま火種に転じること普通にあるからね。タチの悪いことに。
「にしても、過剰反応しすぎよね。そりゃ結婚云々は失言だけど、あんなのネタの範疇でしょうに」
「んー、どうだろ? ガチ恋勢的には、四谷先輩の発言はかなりアウトだったんじゃない? だからああして燃えてるわけで」
「まあ、そうなんだろうけど。でも、そんなこと言っても今更じゃない? ユニコーンからすれば、そもそもオフコラボの時点でアウト判定だろうし」
「いや、そっちではなく……」
「おん?」
雷火さん? 何その微妙な表情。『コイツ、何も分かってねぇな』って視線が凄いんだけど。
俺、変なこと言ったか? わりと普通なことしか言ってなくない? 自分で言うのもアレだけど、ユニコーンの生態には一家言あるつもりだよ? なんせデビューしてからずっと関わってきてるし。
「はぁ、仕方ないなー。今度またオフコラボするわけだし、打ち合わせの意味も込めてボタンに教えてあげるよ」
「もう終わったけどね? 打ち合わせ」
一通りやるべきこと終わらせて、のんびり雑談タイムだったでしょ。外も暑いし、このまま夕方になるまで事務所でだべろうかってなってたでしょ。
「あのね? ボタンは大きな勘違いをしております。四谷先輩が燃えたのは、ユニコーンのせいではありません」
「え? ユニコーンでしょ? 結婚云々で騒ぐのなんて、ユニコーン以外にいないでしょ?」
「ちーがーいーまーすー! てか、ボタンちゃんと調べた? 検索して呟き見たら違うって分かるはずだよ?」
「いや、燃えてるのは把握してたけど、わざわざ検索はしてない、かな? それでも一応、いつもの面子が騒いでたのは確認したよ? そんでお気持ち投下しまくってたから、またユニコーンかって思ったわけだし」
「これはバイアス掛かってますねぇ……。ピントがずっとユニコーンに向いてる」
「アンチの存在もちゃんと憶えてるけど」
「違うそうじゃない。そうじゃないんだよボタン……」
おーん?
「ボタンさんや。ユニコーンは、何で男性ライバーに噛み付くのかな?」
「そりゃ、推しに男の影がチラつくのが嫌だからでしょ」
「うん。なのでユニコーンもまた、ファンの一種ということになるね。厄介って頭に付くけど」
「そうね」
「それが答えだよ、ボタン」
「どれが?」
「四谷先輩が燃えてる原因。ボタンのガチ恋勢」
「はい!?」
ガチ恋勢? ガチ恋勢!? 誰に!? ……俺に!?
「いや……いやいや。いやいやいやいや!」
「何をそんなに否定してんの?」
「そんなのいるの? そんな強火のファンとかいるの? 俺に?」
「むしろ何でいないと思っているのか……。二億もチャンネル登録者いるんだから、そりゃガチ恋勢だってうようよいるに決まってんじゃん」
「……そうなん?」
「そうだよ!? さっきからどうしたのボタン!? 何か鈍感キャラみたいなリアクションしてるよ!?」
「いやだって、俺ってライバーとしてはネタ枠のつもりだったし……」
「何処が!? 日々美味しそうな料理作って、お金持ちなの確定してて、挙句の果てにはアメリカ救ってる人間がどうしてネタ枠に収まると思ってたの!? ボタンそんなにお馬鹿だったの!?」
「だ、だってそれ以上にやらかしてるし……」
「そこは本当に自重して」
「ア、ハイ」
流石は全米に『猪マスクの女』と認識されたライバーである。言葉に込められた重みが違うぜ。
「でも、そっかぁ。俺、ガチ恋勢とかいるのか……」
「そんなに? そんな意外に思うほど? 何度も言うけど、いない方がおかしいからね?」
「あー、そうじゃなくてさ。ガチ恋勢自体はいると思ってたけど、そんな強火なタイプが存在してたとは……」
女性ライバー程のイメージはないが、男性ライバーにだってガチ恋勢は存在している。それは俺も理解している。
だからこそ、俺にもガチ恋勢がいるだろうとは思っていた。思ってはいたのだが、そんな結婚発言で燃え上がるようなタイプがいたことが予想外すぎた。
だってずっと相手にしてたのがユニコーンなんだもん。あとアンチね。
なんて言うか、コラボ相手側に属してる奴から嫌われるか、シンプルに俺のことを嫌ってた奴しか目に入んなかったからさ。自分のファンとか頭の中からすっぽ抜けてた感じ。
「んー、これはあくまで個人的な印象ではあるんだけどさ。正直、ユニコーンが悪目立ちしてるだけで、タチの悪さでは女性の厄介ファンもどっこいどっこい……いや、むしろ上回ってたりすると思うよ?」
「そうなん?」
「うん。男性の厄介ファンの場合、ファンの立場のまま悪化するパターンが多い印象。ユニコーンとかもそうで、推しに異性の影がチラつくことを嫌がってる場合が多いじゃん? こう、ライバーからちゃんと線を引いた上で、自分たちで囲ってる感じ。全体の割合としてね?」
「あー。なんか分かる」
一部の例外を除いて、基本的にアイドル扱いに終始してるイメージではあるよね。少なくとも、ライバーの厄介ファンになる層は大体そんな感じ。
「それに対して、女性の厄介ファンって全然違うんだよね。なんかね、勝手に身内面してくる人が多い印象。自分自身を身近に置いて、訳知り顔でアレコレ指図してくる感じ? アドバイス的な言い回しだったり、さも私が代弁してあげてる、みたいな雰囲気出したり」
「お、おう……」
やけに具体的かつ、実感のこもった言葉である。なんかあったの? それとも、女社会ってデフォルトでそんな感じだったりするの?
「んで、これのタチの悪いところは、結構な確率で本人は良かれと思ってやってることなんだよ。身内……味方? まあ、そんな認知になってるから、一度動き出すと暴走しがち。しかもライバーが制止しても止まらない。『あの子は奥手だから……』とか、そんな風に超解釈した上で無視する」
「どうしてそんなに解像度が高いんですのん?」
「私、友達にドルオタいるんだよね。その関係で」
「アイドルかー」
アイドルとライバー……まあ、似たようなもんか。少なくとも、ファンの傾向としては近しくあると思う。
故に解像度が高いのは納得。雷火さんのリアルのコミュニティがギスってるわけではなさそうなので、ホッと一安心である。
「ま、そんなわけでよ。ボタンも気を付けなきゃ駄目だよ? 相手の厄介ファンやアンチだけじゃなく、自分のファンにも目を向けなきゃ。必要なら釘も刺してね?」
「既にゴン太の釘刺してるつもりだったんだけど。法的措置って名前の」
「それでも暴走するから厄介ファンなんだよ。なんなら、そいつら迷惑行為してる自覚ないよ? 多分だけど」
「えぇ……」
そんなことある? ……雷火さんの認識だとあるのか。いや、女性の厄介ファンとか詳しくないからさ。専門外の生物の生態を目の当たりにしてる気分。
だって男性ライバーのガチ恋勢とか、わざわざ調べたりしねぇもん。女性ライバーのガチ恋勢を調べるのだって、ユニコーンとかそういう懸念があるからだし。
コラボの障害にならない時点で、完全にアウトオブ眼中だったのよね。理由がなければわざわざ調べることもしないし。業務関係以外で、他人、しかも同性のガチ恋勢を調べる理由isナニって話である。
でも、そっかー。今までは相手側のファンをメインに見てたけど、今度から俺自身のファンにも目を光らせないといけないのか。……シンプルに面倒くせぇな。
「仕方ない。雷火さんの忠告通り、タイミングを見計らって、リスナーたちには改めて釘を刺しとくよ」
「うん、そうするべきだと思う」
「あと、四谷先輩にも謝らなきゃなぁ。草生やしてたけど、悪いことした」
「それは普通にどうかと思う」
いや仕方ないじゃん。炎上とは言ったものの、そんな大事に捉えてなかったんだもん。たまにライバーがやるプチ炎上の類いかなって思ってたんだもの。理由が理由だし。
それがまさか、俺の厄介ファンの暴走だったとは。世の中って分からないものである。酔狂な奴らもいるもんだね。
「んー、これは違う方面でも釘を刺しとくべきな気がする。雷火さんの見立て的に、忠告だけじゃ聞かなさそうだし」
「と言うと?」
「女性ライバーとのオフコラボを増やす。んで、厄介なガチ恋勢を焼き払う。そんで動いた馬鹿たちを見せしめにして吊るす」
「ボタンって見せしめ作るの好きだよね」
「凄い語弊のある言い方」
単にそれが一番手っ取り早いからやってるだけだからね? 好きでやってるわけじゃないからね?
ーーー
あとがき
すまんの。昨日が日曜ってことを忘れておったんじゃ。
それはそうと、引き続き購入報告ありがとうございます。でも、もっと買って! 一巻と二巻ももっと買って!
一応、紙版だと紀伊国屋のウェブストアとか、まだ八十冊ぐらい残ってたのでね。他にもサイトによっては在庫も残ってるっぽいです。
なので買って。本当に買って。三巻出したいし。……ちなみに補足すると、Webに沿うならアメリカは四巻目に当たるかなと。あくまで沿うなら、ですが。
つまりアレを見たい方は、購入と宣伝を引き続きお願いします。あとレビュー評価とかね。
よろしくお願いします!!!!!!
それはそうと、我が家の車の下で鼠が一匹死んでたんだけど。なお、アレが侵入した畜生なのかは不明。故に冷戦は継続中。
なんで報告一旦打ち切ったあとに、こんな判断に困ることが起きるんだろうね?
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