第118話 英雄讃歌 上
そんなこんなで、現在アメリカ合衆国上空。いやー、知ってはいたけどアメリカって遠いね。飛行機でもクッソ時間掛かったわ。
一応、あの配信の後にちょっぱやで動いたんだけどなー。玉木さん経由で偉い人に話を通して、プライベートジェット用意してもらって即出国って流れ。やはり持つべきモノは金とコネである。
まあ、それでも異様なスムーズさだったので、日本とアメリカで手を組んでた感はある。ジェットとかはずっと押さえてたんだろうなぁ。
「てことで、そろそろアメリカにつきますが。お土産のリクエストって何かあります?」
『この状況でお土産をお願いできると思ってんの?』
『無事に帰ってきてくれればそれで良いから……』
『後輩、お前本当にそういうところだぞ……』
『山主君さぁ……』
『気負ってないのは良いことだけど……』
『もうちょっと緊張感持ちなよ』
『昨日の配信との落差が酷すぎる』
味方がいない。デンジラス内でハブですかそうですか。昨日は何があっても味方って電話くれたのに。
まあ、変に遠慮がないだけいっか。移動中に暇ってチャット打ったら、全員快く通話に参加してくれたし。態度に変化がなかったのはありがたい限りである。
実際なー。昨日の配信はちょっと気取りすぎた。存在をあっち側に傾けてたこともあって、ただでさえ精神がちょっとアレな感じになってたのに、そこに悪ノリと雰囲気作りの演技が加わったからなー。
で、ダメ押しでサムおじさんの人柄である。最初は悪くない程度だったのに、会話を進めてくとドンドン面白い部分が見えてきたんだもの。最終的には評価爆上がりからのテンション爆上がりだよ。
向こうは向こうで、俺と似たような心情だったろうし。あとは大衆を味方に付けたかったとか、諸々の事情もあったんだと思う。最終的にはやけっぱちになってた感も否めないが。
結果として生まれたのがあの熱狂だ。正直、めっちゃ楽しかった。一度正気に戻ったら笑ったけど。まさか地上であのノリをやることになるとは。
神様連中とやり合う時とか、まさにあんな感じでなー。無駄に言い回しとか大仰だから、実はあの手のやり取りは慣れてたりするのよね。戦闘モードだと余計に。それも悪さした部分もあると思う。
幸いだったのは、ネット上での反応は悪くなかったってことか。ワンチャン滑ったかなと思ってたんだが、予想に反して、いや予想以上に好印象だったのは驚いた。なんなら絶賛されてた。
てかサムおじさん、いやフィリップ大統領よ。アンタ無理だって。引き摺り落とされるとか絶対に無理だって。調べた限りだと、評価がエグいことになってたぞ。二期目決定おめでとうございます。生きてたらだけど。
「それじゃあ、通話切りますねー。終わったら連絡……いや配信してるから大丈夫か?」
『いやして? 絶対にして? そこで面倒くさがるの、ボタンの悪いとこだよマジで』
『山主君、本当に気をつけてね?』
『しろ! 本人からの連絡はいるに決まってんだろうが!』
『一応、私ら全員ガチで心配してるからね? そこは汲んでね?』
『連絡しなさい。子供じゃないんだから』
『緊張してないのは良いことなんだけど、それはそれとして連絡はして』
『安否連絡で手を抜いてはいけない』
「うっす」
怒涛のツッコミのあえなく降参。こういう時の女性陣には勝てん。
まあ、男ってそんなもんだしね。俺も例に漏れずってことである。こういうのは力じゃないのよ。あと理屈とか効率ね。
実際、通話を終える直前まで何度も念押しされてしまった。俺ならやると思われてるってことだろう。その評価は間違ってないので、笑って誤魔化すしかないのだが。
「……っと、もう着陸か」
機内アナウンスが流れ、いよいよテキサス到着である。なお、今回は空港ではなくテキサスの空軍基地に着陸するそうな。随分な特別待遇である。単純に空港が閉まってるだけかもしれんが。
とりあえず、準備だな。荷物は空間袋に突っ込んであるから良いとして、意識も戦闘モードに。あと重要なのは服装か。
なにせ今回の目的は戦闘である。それも相手の性質を考えると、直前でモタつくのもよろしくない。なので今の内に着込むのが吉だろう。
幸いなことに、このジェットには俺以外に誰もいない。添乗員や、同行を申し出てきた政府関係者は別室だ。故に遠慮なく着替えられる。
『──到着いたしました』
そうして準備を済ませている内に、ついにテキサスの大地に飛行機が降り立った。……同時に鼻につく鉄火場の匂い。
「上空の時点で感じてはいたが、こうして大地の上に立つとやっぱ違うな。流石はドラゴン」
地を蝕む化け物の面目躍如ってところか。ジェットの中にいてなお、足裏からデカイ気配を感じやがる。
これは中々。少なくとも地上に出てきて良いもんじゃないな。さっさと仕留めた方が良さそうだ。
それはそうと、誰かが近づいてきてるな。それもジェットに乗ってた人間じゃない。……いやでも、知らない気配じゃないな。
「まさか大統領自らお出迎えか。どうぞ、ミスター・サム」
『……まだ名乗りどころか、ノックもしてないのだが』
「そんぐらい気配で分かるわ。舐めんな」
「はぁ……。やはり出鱈目だなボタ──ッ!?」
おん? どうしたおじいちゃん? 人の顔見るなり固まって。
「……その格好は?」
「戦闘用の本気装備。私服だと流石に格好つかないし、ドラゴン相手だと服が逝く可能性もあるからさ。……ちとゴツイのは認める。ドロップ品メインだから、仕方ない部分もあるんだけど」
「いや、済まない。質問が悪かった。服装の方は似合ってる。頼もしいぐらいだ。……で、その猪の被りモノは何なんだ? それもまさかドロップアイテムか?」
「あ、コレ? 身バレ防止のために付けてんの。VTuberだし、顔バレは避けたくてさ。何処に人の目があるか分からんし」
「……あくまで素人の意見だが、視界は大丈夫なのか? キミの懸念は分かるが、戦闘に支障が出るのは流石に困るぞ……?」
「視覚情報にばっか頼ってる奴は二流だよ」
「……だからと言って、猪マスクを被るのは違うと思うのだが。その……緊張感的な意味で」
「同期からのプレゼントなんだが? 素敵だろうがよ」
「プレゼントなのか……。今の若い子は分からんなぁ」
多分年齢は関係ない。配信の企画でもらっただけだし。強いて言うなら、VTuberだからだろうか。
「俺からも一つ質問良いな?」
「何だね?」
「その頬の立派な紅葉はどうした?」
「……妻が、な。もしもの時のために会いに帰ったら、『愛した女が泣いたと吼えるなら、私を泣かすようなことをしないでください!』と張り倒された」
「草」
いやまあ、奥さんの立場からすりゃ当然っちゃ当然か。故郷で親族が巻き込まれて悲しんでるのに、追加で旦那が死地に向かう宣言を大々的に、それはもう勇ましく世界に向けてしたわけで。
そら殴られるわ。グーが飛んでこなかったことに感謝するべきだと思う。
「大人しかった妻が、まさかあそこまで声を張り上げるとは……。長い夫婦生活の中で、初めてのことだった」
「ハッ。良い奥さんじゃないか」
「……ああ、そうだな。私にはもったいないぐらいの良い女だよ」
まったく……。現代屈指と評価され始めた傑物も、嫁の前じゃ型なしってわけか。ま、男なんてそんなもんだよな。
「なるほどなぁ。んじゃ、俺も奥さんの顔を立てなきゃだ。配信もあるし、頑張ってアンタを守らにゃいかん」
「力強く宣言しておいてアレだが、是非ともそうしてくれ……。これ以上、アイツに泣かれて怒鳴られるのは堪える。帰ったらまだ話があるとも言われてるしな」
「情けないな。嫌いじゃねぇよ、そういうの」
本当、アンタ最高だよ。アンタの奥さんもな。
ーーー
あとがき
決めた。この話含めて、上・中・下の三話でまとめる。で、最後にスレで締めにする。
あ、それはそれとして。もうちょっとしたらコミカライズするって、こっちで連絡しましたっけ?
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