第116話 ご照覧あれ その三

 まさかまさかであった。俺と話すためだけに、アメリカ政府がVTuberに手を出すか! それもアンクル・サムを使って!


「随分と愉快なことをするなぁ! 俺を呼び込む交渉を、このネットの表舞台でやるってか!? ……その意気や良し!! どうせ関係者がこの配信見てんだろ? 今からDM解放してやるから、ホワイトハウスのアカウントで送ってこい。Tweeterだ」


 あー、クッソ。してやられたぞこんちくしょう。お陰でテンション爆上がりだわ。さっきまで騒いでたアホどもとかどうでも良くなったわ。

 にしても、アンクル・サムかー。チョイスも渋い。そして分かってる。ああ、そうだよな。この状況で選ばれるなら、確かにサムおじさんしかいねぇ。ガワとしてはこの上ない!

 いやはや、楽しみだ。内容については脇に置くとしても、ガッツリ覚悟をキメてきているのは間違いない。その時点で面白い。良い感じに会話がヒリつきそうで……。


「チッ。オイ馬鹿ども。関係ねぇ奴らはすっこんでろ。ここぞとばかりにDM送ってくんじゃねぇよ。状況考えろ。今送ってきた奴ら、全員魚拓取ったからな。妨害行為してきた奴らって、アメリカ政府の方にも渡すから覚悟しとけよ」


:草

:ヒエッ

:馬鹿って何処にでもいるのな……

:これはキレて良い

:ガチめに消されかねんやつやん

:アメリカブチ切れ案件やんけ

:ゴメンなさい許してください!

:マジで状況考えろよ

:あーあ。これは終わった

:山主さんクソ怖やん……

:法的にも物理的にも消されちまえ

:この状況でふざけるんじゃねぇよ


 はぁぁ。ったく、本当にさー。DM送ってきた奴らは馬鹿なの? しかもめっちゃ数いるし。酷い奴らとか、アメリカ政府のアイコンと名前騙ってるし。

 埋もれてた中からちゃんと見つけたけど。DM欄も閉じてからスクショで証拠確保したけど。この手の奴らって何がしたいんだろうね?


「一応言っておくけど、今回ばかりは流してやんねぇからな。今の俺はVTuberじゃない。探索者だ。そしてこれからやるのは、一つの国の趨勢を賭けた大一番だ。ここで水を差すってことは、これから交渉を行う両方に喧嘩を売るに等しい。よく考えろ」


:こっわ……

:ガチトーンやん

:これは珍しくブチ切れモード

:マジで弁えろよ

:本気で消されかねんぞー。ネタじゃないぞー

:了解です

:はい!

:洒落にならんやつ

:全員ステイ

:ネタじゃないぞコレは

:これは武闘派ですわ


 うし。これで釘刺しは完了。ここまで言って分からん奴はもう知らん。さっさと破滅してしまえ。

 てか、いっそのことコメント欄を閉じる……いや、それは止めとくか。せっかくの大舞台だ。その場で騒げる場所を取り上げるのは、流石に無粋ってもんだろう。

 視聴者はただの観客。ラインを越えさえしなければ、俺が無視すれば良いだけだ。許される範囲で、面白おかしく騒いどけ。


「──あ、あー。これは聞こえているのかな?」


 っと、どうやら向こうの準備も整ったようだ。マイクもちゃんと声を拾っている。

 それじゃあ、切り替えよう。せっかく向こうがにくい演出をしてくれたんだ。それに相応しい、アメリカンな感じでいこう。ここはそれっぽく気取っていこう。

 さあ、よく見ておけよ視聴者諸君。今日のこの場は、間違いなく歴史に残るぞ……!!


「オーケーさ。音量含めて問題なしだよ、ミスター」

「……そのようだな。では念のため、もう一つ確認を。英語は通じているかい?」

「ああ。今の俺は特別でね。あらゆる言語をネイティブのように聞き取れる。さながら、塔が壊れる前の古代人さ」

「……創世記か。なるほど。確かにキミにはお似合いだな」


 へぇ、即座に分かるか。流石は向こうの宗教圏のお偉いさんだな。バベルの塔の伝承をもじった、ウィットに富んだジョークだからね。伝わって嬉しいよ。


「凄いだろう? ま、副作用でちぃとばかし偉そうにしちまうんだが……そこは目を瞑ってくれると助かるよ。孫世代のやんちゃとして、生暖かく見守ってくれや。なぁ、おじちゃん?」

「HAHAHA。そんな細かいことは気にしないさ。なにせ私がキミに頼む側だ。むしろ、こちらが敬語を使うべきだろう」

「オーケー。ならお互いフランクでいこう。そうだな、そのためにはまず自己紹介から始めたいんだが、どうだい?」

「もちろんだ。相互理解の第一歩は、互いの名前を知ることから始まるからね」


 かぁーっ! 堪んねぇなこの感じ!! 最の高だよ本当に! やっぱりアメリカンなやり取りってカッケェよなぁ。

 何が良いって、俺は悪ふざけであるのに対して、向こうはガチでやってるところだ。俺のノリに合わせて付き合いの良さを醸し出しつつ、その裏ではバッチバチに思考を巡らせているのが分かる。

 マイク越しですら伝わってくる必死さ。崖っぷちで足掻く人間特有の猛々しさ。これぞまさにオール・オア・ナッシング。一世一代の大一番。


「それでは俺から。はじめまして、ミスター。山主ボタンだ。好きに呼べ」

「では親しみを込めてボタン君と。はじめましてボタン君。私はフィリッ……っと。今はこうして名乗るのは間違いか。すまない、まだ慣れていないんだ」

「構わないさミスター。最初は仕方ないことだ。次から気を付ければ良い」


 にしても、フィリップか。予想はしてたが、やっぱり大統領その人が演じているらしい。トップが直接挑みにくる姿勢は好感が持てる。


「では改めて。私はサム。ただのサムだ。職業は……まあ、アメリカの代表とでも言っておこう。これなら嘘にもならないだろう」

「そうか。ではミスター・サム。あなたはアメリカの代表者らしいが、そんな重要人物が何用かな? わざわざ名指しでお声を掛けられると思ってみなかったからね。俺も驚いてしまったよ」

「HAHAHA。また随分と白々しいことを言うじゃないか。我が国が現在陥っている状況を考えれば、話す内容など一つしかあるまい?」

「……だろうな」


 早速本題に移ってきたか。まあ、向こうからすれば一分一秒を争う状況だ。長々と雑談をするわけにはいかないか。


「先に断っておくが、モンスターが暴れているから助けてください、なんてつまらないことは言ってくれるなよ? そんな安っぽいお願いで動くと思われているなら、とても心外だ。とてもとても心外だ」

「分かっているとも。これでも私はキミのファンでね。日夜注目しているんだ。ボタン君の人となりぐらいは理解している」

「それは良かった」


 ハッ。随分と白々しいファン宣言だことで。上手く隠してはいるが、残念なことに相手が悪いな。苦い顔を浮かべているのが目に浮かぶぞ、サムおじさん。


「キミはVTuber、つまるところエンターテイナーだ。故にその立ち振る舞いには、劇場型の人間特有のものがある。それが意識的なものなのか、無意識でのことなのかは脇に置いておくがね」

「まあ否定はしないよ。だからこうして、気取った言い回しをしているわけだし。これ、日本人がイメージするハリウッドっぽさなんだが……どう思う?」

「悪くはない、とだけ言っておこうか」


 あ、そう? 良かった。アメリカの象徴が認めてくれたのは嬉しいよ。絶対に嫌味だろうけど。


「ま、ともかくだ。そういう人種は、総じて気難しい。こだわり、いや独自の美学の持ち主だ。その美学を刺激できなければ、協力を取り付けることは不可能。そうだろう?」

「そうだな。うん、そうだ。分かっているじゃないか、サムおじさん」

「ドレスコードは紳士の嗜みだ。相応しく着飾ることなどわけないさ」


 ああ、だろうな。アンタは粋ってものを理解している。じゃなきゃガワにアンクル・サムなんて選ばない。そのセンスは素直に認めてやるとも。


「必要なのは劇的さだ。だから私はこう提案する。コラボをしようじゃないかボタン君。我が国で暴れているドラゴン。アレを倒すという企画でな」

「プレゼンかな? 良いぞ。続けて」

「敵は民衆を苦しめる悪しきドラゴン。相対するは現代最強の探索者。もっとも新しき竜殺しの英雄譚を、配信として全世界に知らしめよう。これぞ最高のエンタメだろう?」

「……なるほど」


 エンタメ。確かにそれはエンタメだ。企画としてはこれ以上ない。実現すれば世界が熱狂すること間違いなしだ。


「──だが断る」







ーーー

あとがき


本心からニッコニコの主人公 VS 表面上は笑顔だけど、内心ではめちゃくちゃヒリついてるサムおじさん。



 それはそれとして、二巻の書影が出ましたね。発売は六月二十八日です。


 なのであえて、この場で言いましょう。まず二巻の前に一巻を買うのです。

 現状での前話のPVが約三万。つまり、この最新話まで読んでくれている方たちは、それぐらいいるということです。

 そんな熱心な読者の皆様が、全員一巻を買ったらどうなると思いますか? 私が飛び跳ねて喜びます。

 あと多分ですが、重版とか普通にいきます。そして重版したら、シリーズの続刊が決定します。次の巻どころか、次の次の巻ぐらいまでなら保証されるかもしれません。知らんけど。


 昨今Xでは、ラノベは初動が第一というポストが話題になっていましたね。

 あれ、作家側から言わしてもらうと『ガチ』です。初動で全てが決まると言っても過言ではないです。

 なので私は二巻を一週間、いや二週間以内に買って欲しいのですが、二巻を買うなら一巻も必要でしょう?

 だから二巻の初動を増やす意味でも、まだ書籍版を買ってない人は買ってください。


 てか、この際だから言うけども。『この本、まとめて出たら買おうかなぁ……』って考えてる人、その考え方だとまとめて買うことできんからね!?

 そう考えてる作品、大体その巻で終わるから! これ、ラノベ読みなら全員心当たりあるでしょう!?

 私の本とか関係なしに、これは全ての商業書籍に当てはまる絶対の法則だから! 特に新シリーズの場合は、その考えってマジで致命的なの!

 むしろ新シリーズなら、最低でも一、二巻までは積極的に当日に買うぐらいしないとダメよ! せめて数巻出たのを確認してから、静観フェーズに入りなさい。……これも売上げ下がるってことだから、あんまよろしくないけど。


 特に昨今は、通販サイトも充実してるし、電子の選択肢もある。事前に予約してたり、発売日が来たらすぐAmazonとかでポチったりすれば、本屋で探したりする手間もないよ。

 私も最近、漫画をAmazonの通販で買うようになったけど、マジで楽よアレ。あと購入履歴が電子データで残るので、確定申告もクソ楽。

 ともかく、そんな小さなひと手間で、打ち切られる本はグッと減るのです。なのでどうか、気になる本が出たら即日でポチリましょう。

 最近のサイトによっては、試し読みもできるからね。それで自分に合うかどうかも判断できるし。


 さて、長々と語りましたが、そろそろ結論に移りましょうか。……今度発売される二巻買って! その前に一巻も買って!!!!


よろしくお願いします!!!!!!!

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