第49話 同期の暴虐を見守る枠 その二

 海に道ができた。比喩でもなんでもなく、目の前の光景を表現するとそうなってしまう。


「……え、あ……へ?」


 あまりにも理不尽で、あまりにも現実離れした光景。そのせいで上手く言葉がまとまらない。配信中ということを忘れて呆然としてしまう。

 一瞬、フィクションという言葉が頭を過ぎるも、すぐに意識がそれを否定する。だってリアリティがありすぎる。現実離れしているはずなのに、リアリティがありすぎて否定できないという矛盾が起きている。

 それぐらい画面に映る映像は凄まじかった。加工などで生じるはずの違和感が皆無で、真に迫っている。……いや違う。そんなんもんじゃない。この感覚はもっと明確で……。


「怖っ……」


──無意識のうちに漏れ出た呟きが、ストンと胸の中に落ちた。……ああ、そうだ。怖い。怖いんだ。私は、この映像に恐怖してるんだ。


「……分かった。これ、アレだ。Tweeterとかでたまに流れてくる、災害の動画とか観てる気分だ」


:あー……

:なんか分かる

:それだ!

:実際これ災害やろ

:地上なら大災害定期

:信じられないことに人災なんだよなぁ

:リアルモーセは今の時代アカンのよ

:ちょっと前にあった外国の土砂災害と同じベクトルの怖さがある


 私の呟きに反応して、止まっていたコメント欄が再び流れ始める。衝撃でどこかに行っていた意識が、共感を切っ掛けに戻ってきたんだと思う。

 そして一度頭が動き始めれば、そこからはもう止まらなかった。色んな感情や疑問が溢れて、気がつけば口から零れ出ていた。


「てか、今のなによ? 探索者ってあんなことできんの? あんなアニメみたいなことできるの? 今のアレだよね? さっきからチラチラ映ってる刀っぽいやつでやったよね? 一瞬銀色が光ったし、絶対に海を斬ったやつだよね!?」


:気持ちは分かるが落ち着け

:できるわけがないんだよなぁ

:探索者じゃないけど無理だって分かるわ

:探索者をなんだと思ってらっしゃる?

:海を斬るとかそんな漫画みたいな……HAHAHA

:斬っただけにしてもああはならないんだよ

:やっているのあなたの同期です。本人に訊きましょう

:モーセだって魔法的な奇跡で海を割ったのであって、刀を使ってぶった斬ったわけでは決してないのよ


 分かってはいたけど、誰も私の疑問に答えることはできなかった。本人に訊けと言われたらその通りなのだけど、正直今の混乱状態で訊ねにいったところで、上手く答えを消化できる気がしない。


『……さて。宣戦布告はこれにて終了。さあ、お前を殺す敵はここにいるぞ』


 そんな中、画面の中でボタンが喋る。気取ったような言い回しではあるけれど、それを笑うことは私にはできなかった。

 私がVTuberだから、というわけではない。確かにVTuberは役者の亜種みたいなものだし、私も配信中にいろいろと意識した言い回しをすることはある。

 でも今回に限っては違った。その理由は至ってシンプルで、映像に大きな変化が訪れたから。


「海が、盛り上がっていく……?」


 リゾートを連想させるような綺麗な海。それが今や見る影がない。ボタンによって海が割られただけでもありえないのに、さらに常識を塗り潰すかのような光景が発生する。

 海が隆起し、生物のように蠢いたんだ。それも生半可な規模ではなく、それこそ山に見紛うほどの大きさで。


『ザッと見た感じだと、縦に800メートル、横に1.5キロってところか。……今回は小ぶりだな』


 ちょっと何言ってるか分からないですね。……いや冗談じゃなくて本気で。


「ねえ今キロって言った? ボタン今キロって言ってた? 私的には重さの単位だと思いたいんだけどさ」


:んなわけ

:現実を見ろ

:あのサイズで重さ数キロはありえんのよ

:明らかに山サイズですねありがとうございました

:今凄い怖いこと気付いたんだけど。スタンピードとか起きたら、ワンチャンあのクラスが出てくるってことよね?

:特撮怪獣よりデカイのはなんの冗談なんですかねぇ……

:ドン引きすぎてちょっと……

:もうこの時点で理解したくないんだけど、山主さんあのバケモノに対して小ぶりって言ってんのマ?

:現実にいていい存在じゃないやろアレ

:チラッとおっそろしいコメントがあったぞ今

:スタンピードとか洒落にならんこと書くな


 コメント欄、ちょっと本当にやめようね? 人類滅亡がワンチャンありえるような大災害を想像するのは、流石にライン越えだから。コンプラ云々じゃなくて、ガチの恐怖的な意味で。


「……え。てか待って。この流れってアレだよね? アレとボタンが戦うってことだよね!?」


 いや、動画にしてるってことはそういうことなんだろうけどさ! それにしたって限度があるというか、流石に冗談だよね!? もしこの映像がリアル……いやリアルなんだろうけど! だからと言ってやって良いことと悪いことがあると思うんだ私は!

 映画とかなら明らかに最終決戦だよ!? それも人類の命運が掛かってくるような! VTuberのプレミアム配信で映していい内容じゃないって絶対!


『さてと。それじゃあ動画用ということで、サクッと今回の標的の説明といきましょう。──アレの名前はウミフラシ。海水で構成された肉体を持つ、分類的には精霊とかのそっち系。いわゆるアストラル体って奴ですね。まあ、海水でできた超大型のアメフラシとでも思ってもろて』


 ノリが軽いんだよなぁ本当に! 『もろて』で済ませていい存在じゃないんだよソイツは!


『ちなみになんでウミフラシかって言うと……あ、ちょうど由来となった行動をし始めたので、実際に見て貰った方が早いか』


 そう言うや否や、カメラが上を向く。そして映し出された空には、


「ひっ……!?」


──新たな海が存在していた。


『……とまあ、あんな感じでね。膨大な海水を操って、からウミフラシ。単純ですね』


 いや、そんなの単純なんてもんじゃ……!?


『それじゃあ開幕大質量攻撃からの、超大型モンスター討伐、はーじまるよー』



ーーー

あとがき

遅れましたぁぁ! でもギリギリ、ギリギリ日曜中に投稿できました! ……だから許して?

ちなみに遅れた理由は違うシリーズ合わせて一日で二話書いてたからです。サボりではないです。


ちょっと修正。800⇒800メートル。単位抜けてました。

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