第48話 同期の暴虐を見守る枠 その一

 機材チェックOK。諸々の設定も問題なし。配信画面も確認……コメント欄も含めて異常なし。準備完了。それじゃあ、配信開始。


「やっほー! デンジラス四期生の雷火ハナビでーす! 事前に告知してたとおり、今日は同時視聴する配信だよ!」


︰きちゃ

︰こんぱちー

︰こんぱちー

︰こんぱちー

︰待ってた

︰同時視聴楽しみ


 恒例となった挨拶をしつつ、チラッとコメント欄を確認。……とりあえず、荒らしの類いは今のところいなさそうでホッとする。

 今日の配信は普段のそれとは違くて、間接的なコラボみたいなもの。そして相手はいろんな意味で注目され続けているボタンだから、面倒な手合いが湧かないか不安だったんだよね。

 でもひとまずは大丈夫そう。なら予定通り、今回の配信の趣旨の説明に移ろっかな。


「それじゃあ、まずは企画の説明から。ツイートで軽く説明してはいるけれど、知らない人もいるだろうしね。今回は私の同期、山主ボタンが手掛けたダンジョンのムービーを同時視聴する枠だよ。なお、これはボタン本人からお願いされたことなので悪しからず」


 ちゃんと予防線を貼りつつ、ことの経緯を含めてリスナーの皆に配信内容を語っていく。じゃないとちょっとイメージしにくいからね。

 実際、私も最初はビックリしたし。まさかボタンからこんな依頼がくるなんてさ。本人曰く『知り合いのリアルタイムな反応が見たい』とのこと。気持ちは分かるけどどうなのそれ?

 いやまあ、ボタンのダンジョン動画は普通に興味あったし、元々私的に動画は観るつもりではあったから良いんだけど。それが大手を振って配信に絡めることもできたんだから、私としてはありがたい限りだ。

 なにせボタンは、今やデンジラスの頂点の数字を抱え、業界の最前線をひた走るトップVTuber。打算的な話になるけれど、彼と絡むとそれだけで数字がアップする。特にダンジョンに関わることだと、その注目度はVTuber業界すらたやすく飛び越える。

 だから今回の話に私は乗ったわけだ。公私ともにメリットがあって、なおかつボタンの方からの『お願い』だから。断るという選択肢なんてなかった。


「注意事項として、流石に向こうの映像を流すことはできないから、リスナーの皆は各自で二窓とかしてもろて」

 

︰りょ

︰いやー、どんな映像なのか楽しみですなぁ

︰向こうの待機人数がエグいことになってるんですが……

︰配信開始十五分前で5万オーバーってマ?

︰相変わらずやべぇなボタンニキ

︰絶対にV界隈以外の奴らも観てるぞアレ

︰まあ結構な確率で世紀の大発見クラスだろうし……

︰速報 ボタンニキの告知ツイート、各国のダンジョン系インフルエンサーたちにこぞってRTされてる模様

︰なんかどんどん待機人数が増えていってるんですが


 んーむ。分かってはいたけど、本当に凄いことになってるなぁ……。コメント欄は国際色豊かなんてレベルじゃないし、えげつない勢いで視聴回数が増加していってる。ワールドカップのライブ放送かなにかかな?

 ここまで来ると、シンプルに笑うことしかできないよねぇ。同期だけど嫉妬すら湧かない。配信内容が異色すぎて、そもそも比較対象にカテゴライズされてなかったりするのだけれど。

 そのお陰というべきか、案の定私の配信にも人が流れているっぽい。ご丁寧なことに向こうの動画の概要欄にも、こっちの配信のリンクを載せてくれているためか、普段の配信よりも視聴者数はずっと多くなっている。

 なんともまあ、我ながら見事な虎の威を借る狐だなって思う。正直、おこぼれを与っているようで微妙な気持ちになるけれど、この世界はツテもまた重要な人気商売なのも事実。趣味ならともかく、企業に所属する立場でもあるので、そこはもう仕事と割り切るべきだろう。

 同期によるキャリー。そう言いたいものは好きに言えばいい。その手の批判も全部呑み下した上で、私はこうして増えた視聴者の中から新規のファンを獲得してみせる。──だって私の同期は、ボタンは、理不尽な批判の嵐に晒されながら、真っ向からそれを打ち破ったのだから!


「……もうすぐ時間だね」


︰はじまるぞー

︰なにが出るかな?

︰無駄に緊張するなぁ

︰楽しみやの

︰山主なら絶対にやらかすという確信がある

︰どんなモンスターとか出てくるんやろなぁ

︰正直、リアルなバトルとか観たいです

︰山主さんクラスが探索するダンジョンとか、まったく想像つかんのよな

︰はじまた


 どんな映像なのかと、年甲斐もなく胸を高鳴らせていると、ついに配信画面に変化が起きる。

 まずは暗転。そして映るは白の文字列。パッと目で追ってみると、どうやらゲームにありがちな注意事項のようだ。『刺激的な描写が~』的なやつ。ご丁寧にオリジナルだと思うロゴもセットで。……よく見れば山主ボタンって書いてあるし。


「随分と手が込んでるけど、ボタンのお茶目かな?」


︰どっかの狩りゲーかな?

︰無駄に凝ってるな

︰なんか懐いんですが

︰うーんファンタジー

︰あの起動音を思い出す

︰ハチミツください

︰宝玉がでないのぉぉぉぉ!!

︰妖怪一足りないガガガ


 ゲームのPV風に編集したのか、どことなく既視感がある冒頭。どうりでお披露目まで時間がかかったわけだと納得していると、また画面が暗転。

 そして映し出される、一人称視点の映像。多分ヘッドカメラかなにかを使ってるのだろう。場所は……海岸かな? 後ろの方には鬱蒼とした木々で、前には果てしない大海原。それこそ、どっかのリゾートとでも思ってしまうぐらい澄み切った海だ。


「……これ本当にダンジョン?」


 いやまあ、ボタンがたまにSNSに上げる写真とかで、ダンジョンの中にも自然があるってことは知ってるんだけどさ。……それでもやけに穏やかというか。

 なんか予想と違うと私が戸惑っていると、おもむろにボタンの足が波打ち際で止まる。そして見せつけるように銀に光るナニカをカメラの前に持ってきて……


「……へ?」


──キンと鈴のような音とともに、目の前の海が水平線の先までいた。




ーーー

あとがき

またしても遅れました。ごめんなさい。

というわけで、待望のダンジョン映像は同期視点でお送りします。

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