第46話 目玉焼き配信 その二

「──んじゃ、調理に取り掛かりましょう。今日は目玉焼きとパンということで、材料はとてもシンプルだったり」


 覇軍鶏の卵。出先で買ったパン一斤。マーガリン。塩コショウ。使うのはこれだけ。香味野菜やら付け合せの食材とかもない。


「ちなみにマーガリンだけど、これは個人的な好みの問題なので別にバターでも大丈夫だったり。……マーガリンのが美味いと感じる人ってどんぐらいいる?」


:マーガリン派

:個人的にはバターのが好き

:まあ諸説よな

:バターのが高級的なイメージあるよね

:用途によるとしか

:バター派

:パンにはバターやろ

:マーガリンのが安いからマーガリンです……

:マーガリンが身体に悪いのはデマなんだっけ?


 んー。やっぱり派閥としては半々ぐらいな感じかなぁ。まあ、こういうのって値段やらの問題はもちろんあるんだけど、実家で長年使ってたかどうかが結構大きかったりするからね。

 食にこだわりがある人なら、細かい部分までしっかり気を使ったりするんだろうけど、大半の人間はそうじゃないし。大抵は慣れ親しんだ方を使うんじゃないかなと予想。俺は実際それでマーガリン派だし。


「ま、それはともかく。まず目玉焼き……の前に、こっちのパンをざっくりカットしていきましょうかね。大体六等分ぐらいかなぁ」


 ある程度の厚さを決めたら、いつも通り包丁でスパパッとカット。食感の違いを楽しむために、半分はトーストしていただきましょう。

 ただどうしよっか? 流石にトースターのサイズ的に三枚は入らないし、かといって二回に分けるのはテンポも……ちょっと斜めに重ねるか。ざっくり焼き目がつけばそれでいいし、一枚が多少分厚くてもいけるだろ。


「……うし。なんとか入った。それじゃあタイマーセット。──ではでは、お待ちかねの目玉焼きに移りませう」


 まずはフライパン。サイズの問題もあるので、前にも使用した中華鍋でやっていきましょう。そんで強火にかけて、湯気が出てくるまでチンチンに熱したら、と。


「最初は油。つまるところマーガリンです。そして量は……全部じゃい! はいドボン!」


:草

:全部!?

:俺の気のせいじゃなければ、今のマーガリンほぼ新品じゃなかった?

:えぇ……

:いきなりとんでもないことして草

:カロリーがががが

:いやまあ、卵のサイズ的に結構な油がいるのは分かるけども……

:うわぁ。鉄鍋の中にマーガリンの泉が出来てるやんけ

:草ァ!


 うーむ。いい感じにコメント欄からドン引きの気配が漂ってますねぇ。映像がもう不健康極まりないと言われればそれはそうなのだけど。

 ただ勘違いしてほしくないのは、これは別に悪ふざけでやったわけではないということだ。大量にマーガリンを投入したのには、しっかりとした意図がある。


「えーと、簡単に説明するとね。今回の目玉焼きの調理法なんだけど、単純に普通に焼くより油を使うんだよね。前にチョロっとどっかの料理チャンネルでやってるのを観て、それ以来やってる目玉焼きの作り方なんだ。こう、油に浮かべながら、熱した油を回しかけるんだよ」


:なにそのシャレオツな作り方

:ちょっと美味そうなのやめーや

:あー、やっぱりか。そんな気はしてたわ

:へー。今度ちょっとやってみよ

:なんだかんだ言いつつ、山主ってちゃんと料理詳しいよね

:目玉焼きにそんな焼き方あるんか

:普通に油ひいて卵割って、ちょっと水加えて蒸すだけかと思ってた

:海外の調理法かな?


 なんだっけ? ポワレ……いやアロゼ? 詳しい名前は忘れたけど、欧州の方の調理法だったような気がする。

 まあ、揚げ焼きの一種という奴だ。件の動画ではオリーブオイル、それもニンニクやら鷹の爪を突っ込んだ奴を使ってたのだけど、それのマーガリン版。美味ければ細かいことはどうでもいいのだ。

 とにもかくにも、大量のマーガリンに浸して加熱するのがこの調理法のキモ。卵のサイズがサイズなので、使用するマーガリンがとんでもない量になってしまったが、その辺りはご愛嬌。

 普通の人間ならいろんな意味で早死にしそうな光景ではあるけれど、アホみたいに動いてエネルギーを消費し、体調関係は常備しているポーションで整えている俺にとっては関係ない。ジャンクフード万歳。


「うん。マーガリンもいい感じになってきたから、火を弱くしてと。じゃ、そろそろ卵も入れようか」


 なお、普通の卵みたいに割るのは無理なので、動画とかでよくあるダチョウの卵と同じ方法で処理していきましょう。

 卵を縦にして、中の黄身を傷つけないよう下に移動させる。で、てっぺんの部分をハンマーかなんかで叩いて、ぐるっと罅を一周させるアレだ。……まあ、俺の場合は包丁で上の部分をスパッと切り飛ばして終わりなのだけど。


「えっと、油が跳ねないようにゆっくり……ととっ! ヨシッ、黄身も無事にいけたわ」


:予想してたけどデッカッッッ!?

:うわスゲェなオイ

:この油の音ォ!

:もう画面で分かる美味いやつ

:卵の黄身もめっちゃ濃いやん。絶対に濃厚じゃん

:これは飯テロ

:油で揚げる音ってなんでこんなに素晴らしいんだろえねぇ……

:明らかに身体に悪い。そして確実に美味い


 バチバチ、ジュージュー。……なんだろうね。口で説明する、文字に起こすと頭の悪いことこの上ないけど、実際に体験するとやっぱり攻撃力が違う。

 油の音だけで美味いと分かる。目に入る光景だけで食欲が掻き立てられる。香りだけでどんどん幸福度が上がっていく。

 火が通っていくことで、徐々に色づく白身。さらにスプーンで熱々のマーガリンを何度も回しかけることで、全体がぷくぷくと膨らんでいく。


「この調理法のなにがいいって、簡単に黄身がトロットロに仕上がることなんだよね。加熱した油をかけることで狙った部分に熱を通せるから、焼きすぎたりを防げるのよ。特にこのサイズのクソデカ卵だと、こうしないと多分半熟とか無理だからさ」


 俺は目玉焼きは半熟が好きだ。それも割と生よりの奴。トロットロの黄身をパンに絡めるのが堪らない。

 だからこそのこの調理法。自分の手で加熱具合を操作するこの方法。白身はしっかり熱を入れつつ、黄身の部分を半熟に保てるこの方法が好きなのだ。


「──はい。後はこれを大皿に移して、最後に全体に塩、粗挽きのブラックペッパーをかけて完成です」


──さてさて。それじゃあ実食といきましょうか。




ーーー

あとがき

遅れました。すんまんそん。

そんで確定申告終わっぞオラァァァ! 会計ソフトって偉大ですね。

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