第16話 初コラボ配信 その三
──人間って美味いもの食べると壊れるよなってのを、改めて再確認した。
「〜〜っ!! うっまっ!? なにこれスゴい! スゴいスゴいスゴい!!」
パタパタと手足を動かし、全身で感想を語る雷火さん。配信画面のモデルも右に左への大騒ぎで、どれだけ感情が爆発しているのかがよく分かる。
そして雷火さんだけじゃない。似たようなリアクションをしているのはマネさんたちも同様だ。なんとか配信に声が乗らないよう抑えてはいるのだろうが、小刻みに震えている辺りがなんとも趣深い。
思わず酢飯を扇ぐ手が止まりそうになるぐらいには、見ていて楽しい光景ですね。
「今まで食べたエビ蟹よりも一番美味しい! それも圧倒的に! スゴいスゴい!!」
︰めっちゃはしゃいでて可愛い
︰本当に美味いんやろうなぁ
︰中層以降のダンジョン食材はな、マジで一度食べるとこれまでの記録を塗り替えるんだ。それこそ、食材のために命をかける探索者が出るくらいには
︰人類がせこせこ品種改良してきたものが、ガチのファンタジー食材に勝てるかと問われるとね……
ふむふむ。やはり探索者クラスタは分かってるなぁと、一部コメントを見て思う。専業でやっていると、必ず何処かでダンジョン産の食材を食べる機会があるから、大抵の専業探索者はあの感動を知っているわけだ。
だからこそ、見てて凄い愉しい。ダンジョンと基本的に関わりのない人が、ダンジョンの美食に堕ちていくのは最高に面白いんだ。実際、コメントの文面からもう愉悦の感情が伝わってくるもの。
「ボタン! なんでこれはこんなに美味しいの!? 完全にエビと蟹のいいとこ取りみたいな味なんだけど!? それもめっちゃ高級なやつ!!」
「ダンジョン食材だからだね。そもそも元が既存の生物とは違うから、味もまた未知の旨味が襲ってくるのよ」
「そんなのズルくない!? レギュレーション違反だよこんなの!! 私、もう普通のエビ蟹に戻れなくなっちゃうよ!?」
「それでも箸を止めないのは草なんですよ」
「止まんないんだよぉ……!!」
︰わりと悲痛な叫びをあげてて草
︰そこまでなのか
︰やっぱり最初はそうなるよなー
︰多分頑張って静かにしてるだけで、スタッフも似た感じになってるぞ
︰ファンタジー食材だから、既存の味に囚われないんだよなぁ。だから世の美食家がこぞって熱望するわけだし
凄いよね。パクパクと箸は止まらず、でも一口一口を噛み締めてるのが分かるもん。てか雷火さん、よくみたらちょっと涙目になってない?
テンション高い人だとは思ってたけど、ここまでなのか。まだそれお通しだし、中層のアイテムだから食材のランクとしても、メインよりもずっと下なんだけど。
「雷火さーん? 今からメインなんだけど、その調子で大丈夫? 涙目になってますけど、このあと感動でガチ泣きしたりしない?」
「しないよ!? というか今も泣いてなんかないよ!? そういうデマはいけないと思う!」
「いやデマでは……」
「デマ!」
ああ、うん。はいはい黙ります。じゃあ、大人しく次に行くので、ちょっと箸止めてね。……いや、そんな名残り惜しそうな顔しないでくれません? 別に取り上げるわけじゃないんだからさ。
「で、メインってなんなの?」
「……そんなムスッとするレベルで美味しかった?」
「してない! で、メインは!?」
︰してるんだよなぁ
︰草
︰可愛い
︰子供かw
︰これはお子ちゃま
︰ロリverのファンアート期待だな
「ちょっと!? ボタンのせいで変なこと言われたじゃん!?」
「ゴメンネ」
妥当な評価では? と思ったのは黙っておくことにします。話が進まない。
てことで、メインを出して無理矢理にでも話題を修正。はいドンッ。
「……なにそれ?」
「ダンジョンでドロップするマグロ。正確に言えば、マグロっぽいやつ」
「……ぽいやつ?」
「モンスターだからね。【砲弾マグロ】っていって、文字通り海中から砲弾みたいに音速で突進してくる、牛ぐらいのサイズの魚型モンスター」
「ひえっ……」
︰それ普通は死ぬよね?
︰なにそれ怖い
︰それはもう砲弾ではなくミサイルでは?
︰牛サイズの魚が音速で突っ込んでくるとか、かなりエグい威力にならない?
そうね。家が三軒ぐらいまとめて吹っ飛ぶ威力だと思うよ。ちなみにマグロって名前がついてるとおり、コイツは群れます。
「まあ、とりあえずトロだよ。部位的には大トロ、中トロが混ざってるお腹のところだね。重量的にな、大体10キロぐらいかな」
「……写真撮っていい?」
「どうぞ。ついでにツイートしといて」
「うん」
今回はコラボの関係で、映像は出せないからね。なので写真撮って、Tweeterで拡散してくれると助かります。
︰ツイート見てきたけど、なにあれデッカ!?
︰一目で分かる高いやつ!
︰これ10キロあるってマジで言ってる……? 何人分よこれ
︰うわ凄っ。ここまで瑞々しい赤身、そうそうお目にかかれんぞ。しかも大トロまでのグラデーションも鮮やかすぎる
︰これは確かに最低でも400万はするわ。いや、その倍額でも全然おかしくねぇ
︰調べてみたけど、最高級のクロマグロがキロで7万とかだもんな。初競りとかだと億とかいった事例もあるとか。……ダンジョン産のマグロとなると、これ値段的にヤバいのでは?
あ、ふーん。クロマグロってそれぐらいの値段なんだ。じゃあ確かにもっとするかも。全身じゃなくて、腹肉だけで10キロとかだし。競りに出せば普通に8桁はいきそうな気がする。
「……お祭り価格なしだと、3000万ぐらいかな?」
「待って今スゴい怖いこと聞こえた! ボソッて怖いこと言った!?」
「はいはい、落ち着いて。値段とか細かいことはいいの。ほらこれ、酢飯と海苔。あとザリガニの味噌汁」
「いやだから細かくないと……! で、酢飯ってことは、やっぱり寿司? お寿司なの?」
「ちょっと惜しい。家でやるタイプの手巻き寿司だね。流石に寿司は握れないし」
捌いたりとかはね、ダンジョンでの戦闘とかで慣れてるんだけどさ。握るとなると話は別というか。刃物とかを使わない系の職人技は、修行でもしないと再現とか無理です。
ただやっぱり、海鮮系の料理の王様と言ったら寿司なので、手巻き寿司でお茶を濁しました。……海苔の上に、自分でシャリとかネタとか載せるのも楽しいと思うので、その辺りは勘弁してください。
「……じゃあ、これ全部をネタにするってこと? マグロだけ?」
「うん。スーパーとかでマグロの握りオンリーのパックとかあるし、その延長だよ。ドンドン捌くから、好きなだけ食べていいよ。もちろん、スタッフさんたちも」
「これもう、細かいこと考えない方が、幸せになったりするのかなぁ……?」
「断言するけど、どうせ細かいことは考えられなくなるよ。中層のザリガニなんかより、こっちの方が遥かに美味いから」
「なんか嫌だなぁっ、その断言!」
はいはい。それじゃあ、捌いていきますよー。
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