第15話 初コラボ配信 その二

「──同期が予想以上にぶっ飛んでた。もうちょっと常識あると思ってたんだけどな」

「そういうのいいから。あ、今から俺は調理に入るから、進行の方は任せるよ。適当に回しといて」

「だから、そういうので片付けていい領域じゃないんだって。やっぱりボタン、頭おかしいんじゃないかな?」


︰草

︰これはハナビが正しい

︰そもそも論として、ソロでダンジョン下層以降を潜る時点で正気じゃないし……

︰マジで山主にとっては趣味で釣った魚と大差ないんだろうな。三桁万円のアイテムでも

︰わりと先輩たちを振り回す側のハナビが、見事に振り回されてるw

︰サイコ寄りと真性の狂人には越えられない壁があるからね。仕方ないね


 なんか辛辣なコメントが流れてるなぁ。調理に入りはしても、配信用のスマホでコメントの確認はできるのじゃが。今日はコラボってことで、手元映像とかなしの普段とは違う配信形式だけど、その辺りは一緒なんだよ?

 ……まあ、指摘するのも面倒なんでスルーするのだけど。指摘したところで、どうせ止まりはしないだろうし。

 それよりも、サクッと調理に取りかかってしまいましょ。まずは袋から食材を取り出して──


「はいストーップ! ボタンさん、今それどっから出しました?」

「ん? どしたの?」

「いや、どしたのじゃないんだ。私の目がおかしくなってなければ、その小さい皮袋からなんか出てきたよね? それ、最初のテコ入れ配信の時の残りだよね?」

「うん」


 確かに今取り出したのは、前に使ったザリガニの半身だね。魚介類ってリクエストだったから、ついでに残り物も処分しようかなって。


「……あ。もしかして鮮度とか気にしてる? 大丈夫だよ。ちゃんとから。新鮮なまま」

「ちっがーう!! てか、ツッコミどころ増やさないでくれる!? それ明らかにサイズあってないよね!? そのサイズの袋に入ってていいやつじゃないよね!?」

「【空間袋】だからね。いわゆるアイテムボックス的な、亜空間にいろいろ突っ込めるやつ。しかも時間停止機能つきの優れもの」

「そんなのあるの!?」


︰アイテムボックスって、それ実在していいやつなの!?

︰おまっ、空間袋まで持ってたんか!?

︰国動くやつじゃねぇかそれ!! なんで個人所有してんだよお前は!?

巫女乃美琴︰後輩さん……?

︰……前に出てたニュースの、アメリカが買い取ったってやつだと、どんぐらいだったっけ? 確か日本円換算で400億とかだったような……

︰探索者らしきリスナーが大絶叫してるぅ

︰400億!?

︰フィクションとかで考えると、確かに納得したくなるけども……

︰怖い怖い怖い怖い


 なんかコメント欄が阿鼻叫喚になってて草ですわよ。ちなみにスタジオの空気も石化レベルで凍りついてて居心地最悪ですわよ。


「……ボタンさん? なんか凄い怖いコメントが散見されるのですが。その無造作にポケットに突っ込んでる皮袋、配信で言っちゃ駄目なやつなのでは?」

「いや別に? これユニークアイテム、特殊なモンスターを倒したりすると手に入る、獲得者専用のアイテムだし。俺以外には使えないし、そもそも触れない。だから資産価値もゼロなの。汎用だったらめっちゃ高いのは間違いないんだけどね」


 残念なことに、ユニークアイテムは半分スキルみたいなものだからなー。

 非生物しか収納できない代わりに容量はデカいし、時間停止機能もついてるしで、世界でも最高峰の空間袋だとは思うんだけどさ。俺にしか使えないから、売買とか完全に不可能という。売れたら兆単位の金額にはなってたはずなんだけどなぁ。


︰なんてことないように言ってるけど、身の安全には注意しろよ山主

︰馬鹿はどこにでも湧くからな

︰陰謀論になるけど、下手したら外国のヤバい奴らとかも狙ってくるかもしれんし

︰悪用の幅がデカすぎるんだよなぁ

︰これ本当にVTuberのコメント欄なんですかね(震え声

︰山主さん、あなた表に出ていい人種ではなかったのでは……?


「あー、その辺りは大丈夫よ。ご心配なく」


 包丁でザリガニを捌きながら、コメント欄の発生した杞憂民たちを宥めていく。

 俺はなにされようが自力でどうとでもなるし、家族や友人にはそれとなく警護がついてるっぽいから、本当に心配ないのよね。会いにいったりすると、大抵見知った気配が近くで窺ってたり。

 まあそもそも、多少縁のある公安とかそっち系の人いわく、極まった探索者を相手に喧嘩を売るような組織は、今の時代にはほぼ存在しないそうなのだけど。

 復讐心から無敵の人になった時点で、やらかした側は完全に詰むからだとか。中東のダンジョン将軍の事例とかを考えれば、さもありなんというやつだろう。

 武力じゃ勝ち目はないし、それでいて日々モンスター相手に殺し合いをやっている人種なので、覚悟完了からの襲撃が簡単に想像できる恐怖よ。これぞまさに抑止力。むしろ暴力に慣れている無法者の方が、この手の想像は容易だったりするのですよ。


「ま、そんなことはさておき。──はいコレ。お通しの刺身と焼き。刺身はこっちの調味料をお好みで。焼きの方はこのガスコンロで。魚介類をリクエストしたってことは、甲殻類も食べられるよね?」

「あ、うん。それは大丈夫。……いや違くて。さておきで流せる話題じゃないんだわ。なんかもうずっと予想外が連続してるせいで、心臓に悪いんだよ。コラボを少し後悔してるレベルだよ」

「なら、美味いものでも食べて落ち着きな。それを食えば、些細なことなんて気にならなくなるよ」

「些細じゃないと言ってるでしょうが」


 ジト目を向けてくる雷火さんに、いいから食べなとジェスチャー。

 食べてリアクションしてもらってる間に、こっちは汁物作ってるから。野菜を切って、ザリガニも殻ごと刻んで一緒に煮込む。頃合になったら味噌を溶こうか。

 んー。それでもそこそこ残ったな。やっぱり元がデカいから、お通しとかに流用しても使いきれない。メインではないので、出しすぎるのもアレだしね。

 とりあえず、スパッと柵取りして、切り落としにしてお皿にポイポイと。


「……どしたの雷火さん。人のことジッと見つめて。お通しなんだから早く食べな?」

「目の前でアニメみたいな調理シーン見せられて、スルーしろって方が難しいと思うんだ」

「俺の配信だとよくある光景だよ。一瞬で食材が刻まれてたりするのは」

「実際に目にするのは違うじゃん。……で、その山盛りのお刺身はどうするの?」

「余ったからスタッフさんたちに差し入れ。雷火さんはさっさと食レポする」


︰気を遣えてエラい!

︰スタッフちょっとザワついてて草なんだけど

︰そりゃ料亭とかだと、ほんの数切れで万とかいきかねない刺身だし

︰急に差し入れられたら、そりゃ嬉しいだろ

︰これは現場における山主の好感度がうなぎ登り


 いうてコレ、ガチの余りものなんだよなぁ。なんかマネさんが凄い恐縮そうに受け取ってくれたけど、逆にこっちが申し訳ないというか。頼んでること残飯処理だし、盛り付けも超雑盛りだし。


「んー、よし! スタッフさんたちにも行き渡ったのなら、一緒にいただきますしよっか! こういうのは、皆で食べる方が美味しいだろうし」

「あー、それはいいかもね」

「ボタンも一緒にやっとく?」

「いや、シェフなので。食べるにしても裏でかな。ま、お構いなく」


 こっちはメインで使う用の酢飯を作っておくから。是非とも気にしないでください。……あと、他人のリアクションを、冷静な状態で観察してたい。絶対に面白いことになるから。


「OK。──それじゃあ皆さん、お箸は持ちましたでしょうか!? それではご唱和ください。いただきます!」

「「「いただきます!」」」

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