第6話 山茶花




「なあ」

「「………」」

「なあなあ」

「「………」」

「なあなあなあ」

「「………」」

「すごい集中力ですなあ」


 横向きに寝そべって、山茶花のはなびらが落ちて来るのを待つ炎女と雪男を見ていた人間の幽霊は、仰向けになって見た。

 うろこ雲が支配している空を。


 焼死と凍死。

 どっちが痛みが少なく死ねるかな。

 ぼんやり思う。


 繰り返す。

 目覚めと眠り。

 ぼんやりと支配される。

 はなびらを掴みたいという願望に。


 繰り返し、繰り返し。

 終わりのない世界。

 苦痛はそれほどない。

 別段、このままずっと続いてもいいとも思うが。

 同時に疑問を抱くのだ。


 成仏するとしたら。

 

 願望を叶えた時か。

 炎女に焼かれた時か。

 雪男に凍らされた時か。

 予兆もなく突然何ともない時にか。


(まあ、妥当なのはこの山茶花が死ぬ時、だろうなあ)


 確か、数百年を超える、と何処かで聞いた事があるような。

 けれど、妖怪にずっと付き纏われているのだ。

 人間の幽霊にだって付き纏われているのだ。

 もしかしたら、途方もない寿命を会得しているのかもしれない。


(苦痛に感じ始めたら)


 頼む、だろうか。

 炎女に。

 雪男に。

 殺してくれ、と。


(うーん。想像できん)


 ごろごろごろごろごろごろごろりん。

 地面の上を右に左に上に下にと転がっていたら、黙って座って見ていろと熱血指導者たちに言われてしまったので、へいへいとおとなしく横向きに寝そべった。


「あ、燃えた」

「あ、凍った」

「あ、すり抜けた」











(2022.11.16)


  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る