第4話 心待ち
「助けてくれてありがとう」
蕾はまだなく、艶やかな青葉が生い茂る山茶花の下を通った少女は、その鮮やかさに見惚れて足を止めたのだが、災難が降りかかった。
一陣の風が通り過ぎたかと思えば、山茶花の葉を食べていた毛虫の毛が降り注ぎ、触れてしまった顔や腕に激しい痒みが生じたのだ。
少女は一人だった。
何が原因かも分からず、ただ不安と苦痛に苛まれて山茶花の下で泣く事しかできなかった処を、炎女が通りかかり山茶花から遠ざけて少女に治療を施したのだ。
「うむ。毛虫はちっこくて分かりにくいからな。あまりこの時期の山茶花に近づかない方がいい」
「うん」
「痒いか?」
「うん」
「じきによくなる」
「お姉ちゃんは大丈夫なの?」
「ああ。おれは大丈夫だ」
「太陽の神様だから?」
「おれが神様?」
「うん。だって髪の毛と目が赤いから」
「いや。おれは神様じゃない。まあ、人間でもないがな」
「そうなんだ」
「そうなんだ」
「あの山茶花が好きなの?」
「どうしてそう思うんだ?」
「山茶花見ている時のお姉ちゃん、すっごく嬉しそうだから」
「ああ。まあ。うーん。分からん。次に会った時まで考えておく」
「ふふ」
「ん?どうした?」
「んーん。何でもない。じゃあ。お姉ちゃん。私、行かなくちゃ。本当にありがとうございました」
「ああ。じゃあな」
「うん。またね!」
炎女は少女を見送ると山茶花に近づき、毛虫を一匹残らず視認すると跡形もないように一気に小さな炎で燃やしたのち、幹に背凭れてその場に座り込んで目を瞑った。
「雪男も人間の幽霊も早く目覚めろよな」
(2022.11.15)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます