第3話 心残り




 心残りと言える代物ではないだろうに。

 唯ふと何となく。

 山茶花のはなびらを一枚掴んでみたいなと思っただけだ。

 他愛もない、願望。

 叶っても叶わなくても構わない。

 はずだったのに。


(そんなに未練があったなんてなあ)


 死んでから、幾度眠って、幾度起きたのだろうか。

 山茶花の花が咲く頃に目覚め、すべてが散る頃に熟睡する。

 幾度。

 幾度目、だろうか。

 本当に。


「あんたたちに捕まってから幾度目の初冬を迎えたんでしょうかね?」

「「知らない。どーでもいい」」

「そーですよねえ。僕もどーでもいいんですけど」

「「なら訊くな。それよりも山茶花の花が全然落ちて来ないぞ。落ちて来ないと特訓できないぞ」」

「山茶花が花と離れたくないんですよ。じっと待ってましょうや」

「「そうか。それならしょうがない。待とう」」


 あっさりしている処もあるのになあ。

 何故。


「僕は離してもらえないんでしょうねえ」

「「山茶花のはなびらを掴みたい同盟を結んだからだろう」」

「結んだ覚えはないんですけどねえ」

「「忘れているだけだ」」

「へー」

「「じっと待てと言っただろう。静かにしろ」」

「はーい」


 本当に忘れているだけだとしたら。

 僕は何故、雪男と炎女と同盟を結んでしまったのか。

 甚だ疑問。では、ない。

 きっと。











(2022.11.13)


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