第16話 返事

 山形県は豪雪地帯であるとの認識が一般的であるが、県内全てが豪雪な訳ではない。雪の多い場所は工場のある県北部と南部、それに山沿いなどで、本社のある内陸部は比較的積雪の少ない地域である。

 今シーズンはクリスマス寒波で根雪になったものの、その後はあまり降雪がなかったので暖冬かと思っていたのだが、大寒を過ぎた途端本格的な雪が降ってきた。

県内に点在する工場への行き来も大変になってきたうえ、構内や駐車場の除雪もピークを迎えている。


 工場では、朝きれいに除雪された駐車場に車を停めても、帰る頃には自分の車が識別できないくらいの積雪になる。仕事を終え、駐車場に向かうときには、全員が「防寒具」「膝上までの長靴」そして、スコップを担いで「車掘り」に行くのである。

この辺の人達は「雪はき(掃き)」などと優雅な言葉は使わず、「雪掘り」と言うのである。雪は、掃ける程度でとどまることがなく、必ず掘り出すくらいの量になるからなのであろう。

 毎朝、多いときには50cm以上も積もった雪を黙々と片づけ、週に何度も屋根の雪を下ろし、時には雪と共に屋根から転落しながらも雪と戦っているのである。


 除雪費用が当初の予算からはみ出しそうとのことで、工場の総務部で除雪も担当している西尾君が吹雪の中稟議書を持ってやってきた。

「常務 除雪費がなぐなて しまたんだずぅ」

「あぁ 今年も 雪多いがらなぁ しょねべした」

「オレの家は 雪下ろし 3回もしたんだじゃぁ」

「あららら たいへんだずね~」

稟議書に捺印しながら誰に言うでもなくつぶやいた。

「こだな大変などごさ住んでねで もすこす 雪の少ないどごさ 引っ越したらいいんねがっす...」

間をおいて西尾君がつぶやいた。

「こごで んまっで こごで 暮らして こごで死ねる...これが幸せだべ...」


なんとも言えない暖かい返事だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る