第15話 おいた
新型コロナの蔓延で、会合や来客との会食など顔を突き合わせるような機会がめっきり少なくなっていたが、年明けから訪問客が多少増えてきた。
今日も、長年取引いただいている大手製造業の営業部長が来社し、打合せ終了後に山形市内の料亭で会食したが、さすがに二次会は遠慮され、21時を少し回ったころ近くのビジネスホテルに戻ってしまった。
こんな状況なので、そのまま帰宅すれば良いのだろうが、七日町界隈の繁華街はどうなっているのか気になり馴染みの店に行くことにした。馴染みと言ってもここ数年は殆ど顔を出していないので、キープしてあるウィスキーボトルが残っているのかも心配ではある。
信号を左折し雑居ビルの奥を覗くと、見慣れたクラブのネオンが点いている。
ママは元気でいるかなぁ...などと考えながらドアを開いた。
「いらっしゃいませ~ あら~ 常務さん お久しぶりですね!」
「あぁぁ...どうもっす」
「こちらの席にどうそ」
コロナ騒ぎが始まってから来ていなかったのだが、元気そうなママの笑顔に出迎えられ気分も上々になる。
半分ほど残っているボトルを持って、ママと一緒に胸の谷間が半分ほど見えるドレスに身を包んだ満美ちゃんがソファーに座った。
「常務さん どうして来てくれなかったの?」
水割りを作りながら、覗き込むように満美ちゃんが訊ねた。
「んだて コロナで 会合も会食も禁止なんだっけもの」
「あらあら プライベートで来てくれれば サービスしてあげたのにね~」
「ほぉ サービスって 何してくれんのや?」
「えへへ 常務さんHな想像したでしょう?」
「うっ...」
下心を見透かされドキッとする。
すかさずママが口を挟んだ。
「だめですよ 某有名歌舞伎俳優が銀座のクラブで騒いでから この業界でも 過度な行為は厳禁 なんですからね」
「オッ俺は ほだなこと すねよ...」
「あらそうでしたっけ? ずいぶん前ですけど...」
「昔の話は やめでけろずぅ...」
えっ何々?と言いながら満美ちゃんが乗り出してきた。
「常務さんは このお店に来始めたころ 随分おいたをしていたんですよ」
「おいた!? どんな おいた!?」
満美ちゃんは畳み込むようにママを問い詰めている。
「それは ひ・み・つ!」
辛うじて秘密は守られたようだが、頭の上がらないママのお店には当分通うことになりそうである。
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