第10話 悪夢
ポロロロ ポロロロ
机上の電話が鳴った。
「もしもし」
「おっ 常務だが? わたしじゃ」
「はっ! おはようございます」
始業のチャイムが鳴る前だというのに、社長からの電話である。
「今度の木曜日 時間あっか?」
「はい 多少スケジュールあっけんと 調整するいっす」
「んだが んだら私と名古屋に付き合ってくれ」
急な話で戸惑ったが、名古屋近郊にある自動車の関連企業へ、社長のお供をすることになった。
山形は暖房が必要な季節だが、名古屋は春を思わせるような陽気である。
訪問した会社も、急な気温の上昇で冷房への切り替えが間に合わなかったらしく、工場内は熱気が溢れていた。
汗だくの視察と打合せもようやく終了し、我々は宿泊先の『名古屋東急ホテル』へ向かうためタクシーに乗り込んだ。
「常務 名古屋の名物は何だべ? やっぱ『ういろう』だが?」
「んだなぁ あどは『みそかつ』とか『手羽先』だべね」
「んだが...」
コロナが蔓延し始めてからは取引先へ出張しても会食は殆ど無くなってしまい、自前での食事が珍しくなくなってしまった。
若い人たちはドライに割り切っているが、昭和世代には何となく物足りない心境である。
「ところで社長 夜は名古屋の街に出かげっかっす?」
「んだなぁ せっかく来たんだがら 行ってみっべ」
ホテルにチェックインし荷物を置き、ホテル前のタクシープールに向かった。
しかし、名古屋の夜を散策するのは初めてである。困ったなぁ...
(そうか!こう言う時はタクシーの運転手に訊くのが一番だ)
「運転手さん どっかおもしゃいどご しゃねがっす?」
「あぁ そうですね...ところで何歳ですか?」
(何歳? 何で年など聞くのだろう...)
「65だけど...」社長が答えた。
「65ですか! 最近そういう好みの人も居るんだよねぇ ハハハ 了解です 案内しましょう」
タクシーを降り、運転手から聞いた路地裏のネオン輝く店のドアを開けた。
「いらっしゃ~い!!」
厚化粧と、はち切れそうなドレスに身を包んだオバサン達が一斉に声を張り上げた。
ドリフターズが女装したようなホステス集団に囲まれ、悪夢のような名古屋の夜は更けていくのであった。
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