第4話 嗜好

 自宅本棚の整理を始めた。

雑誌や週刊誌、文庫本や単行本など、上下左右の隙間に押し込められた状態で体裁が悪い。

 不要なものはブックオフにでも出そうと思いながら引っ張り出していると、棚の奥から懐かしい本が出てきた。

渡辺淳一 著による「失楽園」上下巻初版本である。

そう言えば、30年近く前になるのだろうか日本経済新聞に連載されていた頃、事務所に配送されてくる新聞を真っ先に読むのが密かな楽しみになっていた。


 互いの股間をしかと合わせ、前後へゆるやかに動かしながら、男の腰を落とし気味にするのが、このときの要諦で、それをくり返すうちに、女体は急所をつかれて次第に悶えだす。

初めは恥じらいを見せて動きも控えめであったのが、花芯を下から突きあげられ、こねまわされる感覚にたまりかねたのか、女はまろやかな唇を軽く開いたまま次第に息を弾ませる。

 情事のきっかけはさまざまだが、終わりは常に男が女の軍門に下る形で終る。

今度も、初めは男が全裸の女体を睥睨し、威丈高に漲っていたものが、結合し、駆動し、相手を揺さぶるうちに、自らも耐えきれず放出し、その瞬間から、雄々しかった男という山はにわかに緊張を失い、瓦礫のように女体の上に崩れ落ちていく。


 手に取って読み始めた「失楽園」の一節であるが、想像を掻き立てるような描写の連続で妄想が広がっていく。

アダルトDVDなど足元にも及ばない。

このまま妄想を続けたら、刑法第百七十五条(わいせつ物頒布等)に抵触しそうである。


 久しぶりに読み返し放心状態になった。

だが、この鮮烈な小説を独り占めしてはいけないと思い、私の父にも読ませようと思った。

「これ おもしゃい本だがら 読んでみねが?」

「どだな本や?」

「渡辺淳一の失楽園て ゆうんだ」

「なんだ オレも持ってるじぇ 5回くらい 読み返したじゃ」

親子してこの辺の嗜好は似ているのだろうか...


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