第3話 尻
物珍しそうな顔をして所長が部屋に入ってきた。
大部屋から引っ越したので顔を合わせる機会が減ってしまい寂しい限りだ、などと心にも無いようなことを言いながらデスク前の椅子に座った。
「常務 一人で部屋さ居んの やんだべ?」
「んだね 大部屋で皆ど ワイワイやってる方が 好ぎだなぁ」
「んだべ? んだら 時々顔を見に来てけっからな」
「んだが 来る前に携帯さ 電話してけろな」
分かったと言いながら所長はニヤニヤしてポケットから携帯を取り出した。
「おぉぉ! ガラケーやめでスマホにしたんだどれ!」
「んだのよ!」
携帯も頭もガラケーだ、などと若い社員たちから揶揄されていた所長だったが、ようやく最新のiPhoneに取り替えたようである。
「使い方 わがるんだがや?」
「ん~ 娘がら セットしてもらたんだけど 良くわがらねんだずぅ」
「音声電話のやり取りは 大丈夫だべ?」
「うん それは大丈夫だ」
何とか電話帳の使い方と電話のかけ方が分かるようになったようである。
「分からね事 有ったら娘さんに聞けば良いべした」
「それがよ 娘が言うには 尻に聞けば 分かるって言うんだず 誰の尻に聞けば良いんだ?って 言ったら ゲラゲラ笑って 相手にしてけねのよ」
「ハハハ ハハハ ウッハハハ」
初めてiPhoneを手にした所長が、誰かの尻(Siri)に向かって質問している姿を想像したら笑いが止まらなくなってしまった。
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