第2話 ホテル
仕事の関係で長野や高崎方面へ出張することが多い。
新幹線を利用するため日帰りが多くなったが、時には会食などの付き合いで泊まる場合がある。
大抵は翌日の帰りが便利な大宮に宿泊することになる。
先日も取引先の友人に遅くまで付き合い、24時を少し回った頃ようやく大宮のホテルに着いた。
フロントで名前を告げたが、何やら困った顔をしている。
「大変申し訳ないのですが トラブルがありまして...」
「なにしたのや?」
「はい 予約は承っていたのですが 事故がありまして...別の場所を用意しましたので そちらにお泊まり願えませんでしょうか?」
「...んだか いいよ」
「それでは タクシーを呼びますので」
暫くしてタクシーが到着し、フロントマンが運転手に行き先を説明し出発した。
15分ほど走ると、公園の木々に囲まれた建物の前に到着した。
5階建てのマンションのようである。
見上げると、どの部屋にも灯りなど一つもついていない。
本当にこんな所に泊まれるのだろうか...
点滅している常夜灯を頼りに、教えられた管理人の部屋をノックした。
返事が無い。
もう一度ノックしようとした途端、ドアがスッと開いた。
暗闇の中から、目だけが妙にギラギラした老人が音も立てずに現れた。
「あぁぁ あの ホテルがら案内さっで来たんだげど...」
老人は一番奥のドアを指さし、何も言わずに鍵を手渡し、そしてドアを閉めてしまった。
何か異様な雰囲気を感じたが、気のせいだろうと自分に言い聞かせ奥の部屋に入った。
こんな所に泊まれだなんて、全くとんでもないホテルだ、などと思いながら部屋を見渡した。
マンション作りの部屋、壁際のベッドと小さなテレビ...
何の変哲も無い部屋なのだが、ヒンヤリと冷たい空気が不気味さを更に強めていた。
既に午前1時を過ぎていたので、服を脱ぎベッドに潜り込むことにした。
ほろ酔い気分もすっかり醒めてしまい、なかなか寝付かれない。
それでも、何度か寝返りを打っているうちに寝込んでしまったようである。
どれくらい時間が経ったのだろうか...体中の皮膚が何かに怯えるような感覚で目が覚めた。
意識は鮮明なのだが、体が動かない。
辛うじて目を開くことが出来た。真っ暗で何も見えない、しかし闇の中に気配を感じる。
(誰か居る...私をじっと見つめている...)
目を見開いているのだが、暗闇が広がっているだけで何も見えない。
でも、間違いなく誰か室内に居る気配を感じる。
(金縛りなのだろうか? それとも夢を見ているのだろうか?)
とにかく灯りを付けなければと思い、全身に力を入れ起きあがろうとした。
その瞬間、何かが襲いかかってきた。
全身を締め付けられる...気が遠くなる...意識が薄れる...
「ジジジジッ ジジジジッ」
不機嫌な目覚まし時計の音で、意識が戻った。
暑くもないのに、下着が汗でびっしょりになっている。そして、激しい運動の後のような筋肉の痛みを感じる。
ノロノロした動作で服を着替え、迎えに来たタクシーに乗り込んだ。
少しでも早くこの場所を離れたかった。
ホテルに到着し、フロントで精算を済ませながら昨夜の出来事を説明した。
「あの部屋 なんだが薄気味悪くて 寝らんねっけ」
「えっ!?...やはりそうですか...」
「やはりって 何があるんだがした?」
「実は...」
フロントマンは申し訳なさそうに話しを始めた。
そして、話し終わると宿泊料を半額にしますと言いながら数枚の千円札を手渡してくれた。
どんな話しだったのか... それは、これを読んだ方々が想像した通りの...
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