常務の独り言

@bucyo2021

第1話 酷使

 株主総会の承認を得て、正式に常務取締役に就任した。

六坪ほどの個室を与えられたが、長年大部屋仕事に慣れ親しんでいたため、机に座っても落ち着かない。

ぼんやりパソコンの画面を見ていると突然電話のベルが鳴った。

「もすもす」

「あっ、常務ですか?」

健康管理室からの電話である。

「先日の健康診断の結果持っていきますので伺っても...」

「あぁ、いいっすよ 待ってっから」

暫くすると、ノックの音と共に看護師の赤塚さんが入ってきた。

「常務、ちょっと数値の高い項目が有るのですが...」

「いつもの血圧と血糖値だべ?」

「いえ、それは薬飲んでいるので大丈夫ですが、PSAの値が基準を外れているんですよ」

「PSA? それって、どごが悪いのや?」

「前立腺癌のマーカーで、数値が高いと癌の可能性があるんですよ」

「ええっ!?」

「病院に行って精密検査して下さいね!」


 全く自覚症状がないのに突然前立腺癌の可能性だなんて...

若い時から前立腺を酷使していたため罰が当たったのだろうか。

そう言えば、天皇陛下も前立腺の検査をするとニュースで報じられていたなぁ...


開業医をしている従弟に電話で確かめることにした。

「もすもす」

「おぉ久しぶりだなぁ 何したのや?」

「健康診断でPSA高いって いわっだのよ 何したら良いべ?」

「MRI検査とか生検とか さんなねな」

「んだら 診でけろちゃ」

「お前の股間なんぞ 診っだぐないな~ キャハハハ」

医者には応召義務があるとは言え、従兄の股間など診たくは無いのだろう。

諦めて県立中央病院へ行くことにした。

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