第6話 愛娘
松本に出張し踏切事故で列車に3時間以上も缶詰状態になったとき、ボックス席で乗り合わせた女性から信州の地酒が送られてきた。
通勤帰りで事故に遭い、困っている様子だったので松本駅までタクシーで送ってあげた時のお礼のようである。
あのとき一緒だった営業の星川君に電話をした。
「覚えでっべ? あんどぎの松本の彼女がら 酒送られてきたんだず」
「うそー なんだて 義理がだい人だずねー」
「んだずね せっかぐだがら もらておぐが」
「んだが 後で 取りんぐがら」
夕方近くになって星川君が常務室にやってきた。
ペリカン便で送られてきた段ボールを開き、中から一升瓶を取りだした。
「おー んまそうな 酒だどれ!」
「んだね なんだが 高そうだずね」
「ありゃー 4本もおくてよごしたんだ 2本づつわげっべ」
信州の地酒「明鏡止水」と「夜明け前」の2本セットであった。
山形では手に入らない酒である。
それにしても、あの時は親切にしたつもりなど無かったのであるが、こんな風にお礼をされると何だかとても暖かい気持ちになってくるものである。
さっそく、送り状に書かれた電話番号を確認し、お礼の電話をかけることにした。
「もしもし あのー京子さん いだべがっす?」
「はぁ? あんた誰や?」
「あの~ 山形の...」
「京子は会社に行ってる!」 ガチャン!!
父親らしい男が出たが、一言返事をしただけで電話は切られてしまった。
どうやら勘違いされてしまったようである...
中年オヤジの声は、愛娘には似合わなかったのだろう。
名刺を渡したとき、携帯電話の番号を聞いておけばよかった...などと思っても後の祭りである。
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