Wish you the best-03 引くほどマニアック。



 黒髪、黒い瞳、細身な体。それでいて眼光鋭く精悍な顔つき。頭にはゴーグルを付け、首には狙撃用のスコープを掛けている。


 クレスタ・ブラックアイ。


 銃術士の憧れ、不遇職と呼ばれるガンナーの星だ。オルターは感激のあまり、嬉しそうな泣きそうな表情をしている。

 どれだけ尊敬しているのかが一目で分かってしまった。


「ブラックアイ様……」

「えっ、様!? あーいや、君は」

「オルター・フランクです! 銃術士です!」

「おぉ、君が! よろしくな。ブラックアイ様はさすがに恥ずかしいから、クレスタと呼んでくれ。隣にいるの、イースだよな? いやあ大きくなって」

「お久しぶりです」


 クレスタさんは父さん達より1期後のバスターだ。

 銃術士だからとパーティーを組めずにいた時、父さん、ビアンカさん、ゼスタさんに声を掛けられた事で運命が変わった1人。

 家出中の剣術士、需要がない女剣盾士、パーティー決裂で1人になった治癒術士と共に活動を始めたんだ。

 訳アリ同士で結束も固くなり、結局シルバーバスターまで登り詰めた。


「ビアンカさんもお久しぶりですね。お互いのパーティー合同で旅した頃が懐かしい」

「ねー! 昔を思い出すわ。アンナ達は元気? ディズとは時々会うんだけど。ミラとアンナにも会いたいわ」

「相変わらずですよ。2人とも引退した後、首都ヴィエスに移り住んで装備デザイナーをやってます」


 英雄が当然のように別の英雄の話をする。オレ達からすればとんでもない世界だ。そういえばクレスタさん達はオレの事を「英雄の息子」じゃなくて、「友人の子供」の感覚で接してくれていたっけ。


 好奇の目で見ないでくれる大人は、本当に安心する。


「もう出発でいいのかい」

「はいっ!」


 早速出発だと張り切るクレスタさんに続き、オルターが威勢よく返事をする。その様子を見てレイラさんが慌てて引き留めた。


「ちょっと待って下さい! クレスタさん。あの、お願いしていた件、どうでしょうか」

「ん? ああ、今渡そうか。色々持って来たぞ」


 レイラさんの問いかけで、クレスタさんがバックパックを開いた。

 驚いた、凄い数の銃だ。


「6発式のリボルバー2丁、口径は45、38。こっちは8発。どっちもスイングアウトだ。マガジン式は30発だな。ショットガンは水平二連と元折れ式の上下二連、どっちもレピータ」

「ふ、ふあぁ……すげえ」

「あとはスナイパーライフル。俺はボルトアクション式しか使わない。スコープは3種類。狙おうと思えば1キルテ先でもいけるぜ」

「こ、これ! キートラル社の105-1型ですか!? うわ、22型もある、すげえ……。水平二連式なんて、ジルダ国内には流通してないですよ!」

「ああ。わざわざライカ大陸まで行って、キートラル社と特注の打ち合わせをしたんだ」


 わ、分からない……。何だ? 水平式? 22型? キートラル社? 2人して楽しそうに話しているけどついていけない。

 それにしても並べられた銃は大小合わせて……9種類? 何がどう違うんだ。銃マニア同士の熱は更に上がっているけど、お手上げだ。


「見ろよイース! ルガー社365式、チタン製だ。これなんかアルテマのリボルバーだぞ、見ろこの艶消ししても分かる色彩の違い!」

「あ、うん……すごいね」


 ごめん、分かんない。


「キートラル特注のライフル、これめちゃくちゃ軽いし、重心が常に後ろになるからブレを考慮しないで撃てるんだぜ。おい、聞いてるか?」

「うん聞いてるすごいね」


 オルターが大興奮で教えてくれるけど、どこがどう他の銃と違うのかも分からない。重心が後ろだから何なのかも分からない。

 レイラさんとビアンカさんは世間話しているし、クレスタさんは満足そうに頷き、更に説明している。誰か助けて。


「ぬし、ぬし」

「ん?」

「おじゃべりますか?」

「うん、何だい」


 どうやらグレイプニールも飽きていたみたい。持ち主に似たのか?


「ボク、あ……あまだいたんとます。つごいます」

「もちろんアダマンタイトが一番だ。グレイプニールより凄い剣はないし、オレの気力を調整してくれる剣なんてどこにもない」

「ぴゃーっ! ボク、いいこ? なでるます?」

「ああ、いつでも撫でるよ」


 あまりにもオルターが熱心に自慢してくるから、グレイプニールも対抗したくなったんだろう。


 オレだって画家のジョイさんに見せてもらった写真だと、かなりの跳躍だし、振りかぶりの剣筋も芯を捉えていた。

 グレー等級で自慢なんて笑われるだけ。いつか、オレも自慢される側に回れるんだろうか。いや、回らなきゃいけないんだよな。


 オレがグレイプニールと雑談をしている時、クレスタさんがふとオルターに尋ねた。


「んで、どれが欲しいんだ?」

「……えっ?」

「ん? 好きなの選んだか?」


 あんなに饒舌だったオルターの喋りは止まり、クレスタさんが再度不思議そうに問いかける。オルターは固まったままだ。


「オルター? どした?」

「おぉう? おるた、寝たますか」

「ん? オルターくんどうしたの? 何か忘れ物した?」

「私達待ってるから、ぱぱーっと取りに行っちゃえば?」

「お嬢達がおるんやけ、何も心配いらんばい? お財布忘れたんね、気にしなさんな」


 レイラさん達もオルターの異変に気が付いた。

 オルターが顔を上げる。ようやく言葉の意味を理解したのか、赤い瞳がキラキラしている。


「お、俺、チタン製の……いや、アルテマ鋼のリボルバーが欲しいです!」

「え、リボルバーでいいのか? 何で」

「カッコイイからです!」


 オルターの鼻息が聞こえそうだ。一瞬静まり返った後、クレスタさんが吹き出して笑い始めた。


「あっはっは! 素直で宜しい! んじゃこれを。あと、リボルバーだけじゃ厳しいからな、ショットガンとライフルもいるぞ」

「えっ? そんな」

「オレが持ってきたのはほんの一部だぜ。3つ譲るくらいどうって事ねえよ」


 クレスタさんは、オルターに銃を譲るつもりで持ってきたみたいだ。

 オルターの入門編の銃でさえ、何十万ゴールドもするというのに……。


「レイラちゃんから君の話を聞いてね。恵まれない凄腕がいる、と。コカトリスを全弾外さず撃ち落としたんだって?」

「は、はい……」

「俺はもう活動してないけど、手入れだけはしなきゃいけない。結構大変でさ。そろそろ使わない銃を整理しようと思っていたんだ」


 オルターは震える手で銃を譲り受け、何度も頭を下げて鞄にしまった。銃を買い揃えようと言った矢先に、まさか世界一の銃術士から譲り受けるとは。


「武器は使われてこそ! 俺が持ってるよりこいつらも喜ぶ」


 そして、このコネはレイラさんが使ったものだ。オレの名を使わず、レイラさんは自分が代わりに頼んでくれたんだ。

 早く堂々としていられるよう、等級を上げて、強くならないと。この1週間で、コネは嫌だなんて言ってられないと何度思い知った事か。


 それはそうと、気になる事がある。


「あの、グレー等級じゃ、アルテマ鋼の銃は使えないんじゃ」

「銃はちょっと特殊でね。弓と違い、規制はあくまでも弾なんだ。あまりにも不遇で金が掛かるせいか、銃自体の規制が見送られたのさ」

「なる程……」


あまりにも人数が少なくて、軽んじられているって事か……それも何だかなあ。


「んじゃ、行きますか!」

「もしゅた! まぐれいえみ! たいじゅます!」


 レイラさんが笑いながらオルターの銃登録を済ませてくれ、オレ達はイサラ村へと出発した。


「おいオルター、おい!」

「ああ、どうしよう俺。ブラックアイ様の銃を、キートラル社製のスイングアウト、66型45口径を……」


 銃に頬擦りしながらうっとりするオルターが気持ち悪い。


「ヘタクソだったら返してもらうからな。しっかりやれよ」

「え、あ、は、はいっ!」


 定期便はまだ帰ってきていない。だから馬車では向かえない。

 おまけにビアンカさんとクレスタさんは、あくまでも助っ人。

 町の北門から平原へと出た後、遭遇するモンスターは全て倒すと決め、オレ達は意気込んで先頭を歩き始めた。

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