Wish you the best-04 道すがら特訓開始!




* * * * * * * * *




 ギリングを出てもう何度目の戦闘だろうか。


「斬り……払い!」


 左から斜め下へと叩き斬り、キラーウルフの背骨を打ち砕くように真っ二つにする。

 そのまま流れるように2体目へグレイプニールを構えた時、そのキラーウルフが発砲音と同時に吹き飛んだ。


「おお、命中! よし、連携は問題ないよな!」

「だいぶ慣れてきたと思う。どうですか! 今の戦い!」

「イースは跳び上がりが遅い! 自分の身体能力に胡坐をかいてるようじゃ駄目!」

「オルター、正面を向け! その姿勢じゃ右に動くモンスターを追えねえだろう!」


 イサラ村を目指して2日目。オレ達はビアンカさんとクレスタさんから厳しい指導を受けていた。


 枯れ始めた草花の香りも薄れ、川の水量も落ち着いた。初めての遠出にはうってつけの天気だ。


 今朝は小川で水浴びをし、汗と汚れを洗い流した。

 野宿に適した場所、見張りのルール。外での活動の仕方を1から教えてもらうという、なんとも情けない旅も2日目になると慣れてきた。


 だけど、戦い方に関してはまだまだ。


「毎回言ってるけど戦いが大雑把! これくらい跳べばまあ届くだろう、間に合わなかったら大きく剣を振ろう。そんな考えが透けて見える」

「タイミングは計ってるんですけど、なかなか」

「モンスターの動きを予測しなさい。よくそんなテキトー戦法でコカトリスを退治したわね」


 オレの戦い方を見たビアンカさんは、オレが反応速度だけに頼っていると指摘した。動くものを追っているだけで、その先を考えていないって。

 反応が間に合って手が届いたても、その時に反撃を仕掛けられたら。ジャンプしたら。

 それを目で追って手を出すだけでは駄目なんだって。


 オルターも、モンスターの狙い方について指導を受けている。オレ達は能力面で劣ってはいないが、明らかに経験不足。戦い方を知らないんだと。


「ぬしは、つごいますよ? 斬るじょうずします」

「うん、威力は申し分ない。だけど斬ろうとした所を斬ったというより、当たった所を斬ってる。意味分かるかな」

「はい、確かに狙いは外れていると思います。というより当てようと考えていても、狙ってはいませんでした」

「それで倒せるんだから、逆に感心するわ」


 オレは狙う事を、オルターは銃を動かしながらでも撃てることを。

 実戦で英雄からこんな付きっきりの指導を受けられるなんて、なんて贅沢なんだろう。


 父さん母さんからもっと素直に指導を受けるべきだった。

 ずるいと言われるのが嫌だからって、コソコソ自主練をやってた自分の小さなプライドは、本当に要らなかったと思う。


「お嬢! 遠くにボアが見えるばい! 3体おるね、一度見本ば見せちゃった方が」

「そうね、分かった。クレスタ! 次は私達で倒そう。イース、オルター、2人ともよく見てて」


 ビアンカさんは小柄だけど、グングニルは槍だからとても長い。矛先が視点だとすればオレ達より遠くまで見渡せる。そのおかげで襲われる前にボアを見つけることができたようだ。

 俺達は指摘を全て実践した戦いを見学する事になった。


「……来る」

「さすが猫人族。良い耳ね。イヴァンとシャルナクの耳と鼻の良さも、驚くばかりだったな」


 ビアンカさんがグングニルを構えながら笑う。イヴァンさんは猫人族で、父さん達と共に戦った英雄の1人。ビアンカさんの旦那さんでもある。


 ビアンカさんがグングニルを地面と水平に構えた。腰を落とし、ボアの足の間接辺りの高さを保ったまま、足払いを狙っているんだ。


 目の前の茂みが揺れ、ドスドスと土を蹴り進む音が大きくなる。ボアが現れた瞬間、つまりボアの視界が拓けた瞬間、ビアンカさんの一撃が繰り出された。

 ボアは全く反応できていない。


「フルスイング!」


 グングニルの黒い柄が残像となり、着地しようとするボアの足を襲った。しかも2体同時に。

 フルスイングの名の通り、全力の一振りだ。

 ゴールド等級で、年齢もずっと上。そんなビアンカさんがボアごとき相手に全力を出すとは、正直思っていなかった。


 ボアはおおよそ体長2メルテ、体高1メルテ。下顎から大きな牙が生えたイノシシ型のモンスターだ。

 体重は200キロを超えるとも言われている。

 そんなボアが一振りで無力化されるなんて。


「よっしゃ!」


 足払いどころか足をへし折られたボアが、その場で跳び上がったように見えた。

 それはクレスタさんが、足払いを掛けられたボアを撃ったからだった。


「すげえ……」

「おおぅ、ボクつごいより、つごいます」


 思わずオレとグレイプニールが呟いた時、ビアンカさんは3体目を突き刺し、空へとぶん投げた。クレスタさんがその個体の眉間を打ち抜く。

 銃の発砲音が違う。クレスタさんはリボルバーではなく、ライフルを構えていた。


「はいっ、終わり!」

「本当はリボルバーで撃てたんだけどな。ま、後輩の前で武器を素早く持ち替える所を披露したかったんだ」

「すげえ。対象から目を離さず、そのまま持ち替えて狙って……全て眉間を貫いてる」

「銃使いはな、ここまで出来なきゃ駄目なんだよ。100発100中、短時間で殲滅。出来て当然じゃないと不遇職のままだ」


 並の弓術士に勝つためには、超上級の銃術士になるしかない。気力や魔力を乗せられる弓に勝つには、素早く多くを殲滅出来る事が必須。

 クレスタさんは常に危機感を抱きながらパーティーへの貢献を考えていたという。


「私達槍術士は、どうしても体力と腕力が必要。女に向いているとは言えない。おまけに歳を取れば衰えもある。そこを技術で補う必要がある」

「若いうちは身体能力でゴリ押しできる。でも、それだけで突き進むとオレンジ等級程度で頭打ちになる。女で活躍出来てるバスターは、気力の使い方が上手い」

「確かに、ビアンカさんのフルスイングも跳躍も、気力を溢れさせる時間が短いです。着地の時も足以外の気力はもう溢れていないし」

「そこがね、お嬢の凄いところなんよ。それをイースちゃんが出来るようになれば、絶対に一流のバスターになれる」


 大雑把な戦い方を改めないと、並のバスターで終わってしまう。それじゃレイラさんの計画の役に立てない。

 頭を使い、技術力を上げ、最適な効率で無駄なく戦う。オレはグレー等級のうちからそれに気付けて幸運だ。


「次の戦い、また見ていて下さい。グレイプニール、オレの気力の量と流れ、しっかり覚えていてくれ」

「ぴゅい」

「どこを狙っているかも伝えるから、助けてくれ」

「でんせつ、なりますか」

「なるためにやるんだ」


 英雄はいつまでも付きっきりでいてくれるわけじゃない。この1,2週間で大きく成長できなければ、オレ達の今後はない。


「……ゴブリンだ、臭いがする」

「えっ、全然気づかなかった……倒せるならやってみて」

「はいっ!」


 オルターに手で合図し、オレがゴブリン達に飛び掛かる。茂みの中で不意打ちをくらったゴブリンは、手に持ったナタや鉄の棒などで応戦しようと試みた。


「首狙う……フルスイング! オルター!」

「……見えた!」


 ゴブリンの首を刎ね飛ばそうと、左から右へ斬り払った。

 僅かに肩を掠めたけど、棒やナタの動きにも注意しつつ、振り切ったグレイプニールを使ってそれらを防ぐ。


 そんなオレに気を取られていたゴブリンは、乾いた発砲音と共に仰け反って倒れていった。


「どう、ですか」

「連携に関しては合格。良しとは言えないけど、気にするだけで随分変わる事は分かって貰えたよね」

「はい」


 ベテランが何年も駆けて会得するものを、1度や2度で出来るとは思っていない。

 1つずつ、少しでもできるようになっていけばいい。それが出来るだけのお膳立てはしてもらっているのだから。


「イサラ村から戻って来た時、名前より実力を評価してもらう。それが目標だ」

「ぬし、ぬし」

「ん? モンスター見つけたのか?」

「いさまるま、何ますか?」

「イサラ……えっ?」

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