Wish you the best-02 オレとオルターと英雄と



 レイラさんが何故オレ達に手を差し伸べてくれたのか、よく分かった。同時に、自分の使命を感じている事も。

 オレは両親の気配を消して活動しようとしていたけど、レイラさんは真逆だったんだ。


「バスターの弱体化……父さん達の功績が憎い?」

「え、え? 管理所がって事ですか!?」

「これはちょっと難しい話になるわ。あたしが管理所に勤めていた時、よく装備屋が来ていた。上層部へお礼を言いにね」

「癒着……聞いたことがある。素材手配も製作も楽で、更新頻度が高い低等級バスター向け商品は、安定収入の要だって」


 そんな噂、全く知らなかった。マイムにいた時も管理所は避けていたし。

 確かに、戦闘に慣れていないうちは攻撃を受けやすい。アイアンやガーラルのプレートは衝撃で変形しやすいし、武器も防具も買い替えが頻繁になりがちだ。


 自分で修理できなければ装備屋で直してもらうか、買い替える。

 腕が悪い鍛冶師ほど、目利きの悪い装備屋ほど、低等級の装備が売れる環境は都合がいい。


「買い替え頻度が高い低等級装備を、安定的に売りたいからって事?」

「そのために世界各地の鍛冶師が、バスターの昇格基準を厳しくしろと要求しているって噂は聞いたことあるぜ」

「最初はお礼の意味が分からなかったけど、今年の枠、予定昇格数なんかを打ち合わせているのを聞いたの。周囲の職員も知ってたわ。でも逆らえないからって」


 まさか、バスターの足を引っ張るのが装備屋だなんて。武器屋マークはそんな事ないと思うけど、この動きを知ってるんだろうか。


「オレ、人と戦うつもりでバスターになった訳じゃないのに」

「俺もそうだ。まさかバスター協会がそんな事になってるとは」

「他にも色々疑惑はあるの。あたし達が生まれる前、魔王教徒がいたのを知ってる?」

「アークドラゴンを崇めてアンデッドを操って、人をこの世から消すっていう」

「そう。あの思想を博愛主義に歪曲し、モンスター討伐を止めさせようとする団体が年々抗議を強めてる。その一部が協会内に入り込んでるみたい」


 驚いた。


 アークドラゴンが倒された事で、確かに平和な世の中になったとは聞く。

 それまで強いモンスターも多かったし、必然的にバスターも強くないといけなかった。

 でもそんな父さん達が現役だった頃にバスターだった年代も、そろそろ引退を迎える。

 

 目標となる強い人の活躍を時間差なく耳に入れる機会がない。差し迫った脅威がない。

 ただでさえ、10年前に比べてバスターが弱くなっていると言われているんだ。

 それなのに、更にバスターを弱体化させたら……。このままでモンスターの脅威からみんなを守れるのか。


「あんでっど、何ますか?」

「死体や骨のモンスターとか、雲みたいなモンスターとか」

「おぉう。もしゅたの、しにもも?」

「生き物の反対は死に物じゃないんだけど……まあ、そんな感じ」


 朝から話が重くて気も重い。だけど無視するわけにはいかない。

 実力で評価される制度から、武器屋や抗議団体の都合で操作される制度に変わってしまったなんて。


 親ほど優秀じゃないとか、コネだと言われたくないとか、言っていられる状況じゃない。


「この話、バスター間で共有しないんですか」

「それで協会の名誉と権力を失墜させて、喜ぶのは誰か分かるよね」

「あ、抗議する奴や、バスターの制度を都合よく変えたい人達……」

「2人とも早く実力で黙らせられるバスターになって。あたしの父の名があるから、管理所も協会もあたしを無下にできない。今のうちに」


 オルターと目が合った。レイラさんの話を聞いて、オレはやる気になった。それにただ等級を上げて、なんとなく活動するより面白いじゃないか。


「やろう。オレはグレイプニールがあるから武器更新はいらない。防具もなんとかなる。その分オルターの銃を早く揃えて、さっさと昇格しよう」

「俺、不遇なだけで自分だって出来るのにと、ずっとそう考えてた。でもいざ自分が活動を始めると銃1丁じゃ話にならないと思い知った。迷惑かけるけど、戦力になるために銃を揃えるのはお願いしたい」


 オルターも覚悟を決めた。レイラさんの作戦、専属のオレ達が引き受けた。


「レイラさん、やると決めたからには頑張ります。バックアップをお願いしますね」

「もちろんよ。もうすぐ助っ人も来るから座って待ってて」


 そうだった、オレとオルターだけじゃ「調査」は出来ても「はぐれイエティ退治」は無理なんだった。

 そもそも別の要因で便が遅れている可能性もある。その場合、わざわざイエティと戦う事になるんだろうし。


 イサラ村まで一緒に行ってくれるバスターって、誰なんだろう。

 まさか知り合いじゃないよね? ゼスタさんや父さん達はこの大陸にいないし、オレは知り合いのバスターが少ない。


 本当にイエティに遭遇して倒せるのか。そんな期待を不安を抱えていると、事務所の扉が開かれた。


「あ、お待ちしてました!」

「久しぶり! キャー可愛くなって! もう、元気だった?」

「すみません、お忙しいところ」

「何言ってんの、レイラちゃんのお願いなら!」


 入ってきたのは銀髪に色白の女性だった。年齢は母さんと同じくらいだ。

 レイラさんより少し背が高く、手には槍を持っている。


 青い軽鎧に、黒い大きな槍、ぱっちりとした目で意志が強そう。

 久しぶりだけど忘れるはずがない。


「ビアンカさん、ですよね」

「あー、あーっ? イースでしょ、そうでしょ! やーんシークの面影ばっちり! シークとシャルナクは元気? この前会えなかったからさあ」


 ビアンカ・ランガ。ギリングの大商人であるユレイナス商会の社長の妹だ。

 ビアンカさんのお父さんの代からの会社で、輸入や運搬を取り仕切っている。今や大陸を越えて活動していて、知らない人はいないくらい。


 ビアンカさんも、父さん達と一緒に活躍した英雄の1人だ。もう引退しているけれど、喋る槍グングニルと共に有事の際には皆の指揮を執ってる。


「んまあイースちゃん! 大きくなったねえ、お嬢んとこのおチビ2人より背が高いばい」

「グングニル、久しぶり。あ、オレのパーティーのオルターを紹介するよ」

「あ、び、ビアンカさん!? うわ、うわぁ……」


 オルターは口を開けて固まってる。

 そりゃ、そうだよな。目の前にいるのはかつての英雄。おまけに喋る武器グングニルまで一緒だ。驚かない方がおかしい。


「それと、オレの愛剣。ほら、挨拶を」

「ぷぃ。あじまめして、ぐえいゆにーむます。ぬしのボクます!」


 オレがグレイプニールを紹介すると、今度はビアンカさんとグングニルが驚く番だった。


「イースも喋る武器を!? そっか、シーク達が持ってたアダマンタイト製の武器、全部合わせたらショートソードを作るくらいは」

「はい。カッコ悪いけど両親が材料を揃えて、ゼスタさんが届けてくれました」

「いいのいいの! 気にするところじゃない。あたしもグングニルは貰ったんだし。他のみんなも拾ったんだしさ」

「肝心なのは、武器であるあたしらが認めたっち事やけんね。グレイプニール、あんたもよろしくね」

「あい! ゆらしくね!」


 ビアンカさんが助っ人なら心強い。ビアンカさんにかかれば、イエティなんか楽勝だろう。早速荷物を背負って出発だ。


「じゃあビアンカさん、宜しくお願いします」

「ん? あれ、まだ……」


 ビアンカさんがレイラさんへ視線を向ける。レイラさんは微笑み、オルターにウインクをした。

 それと同時にまた扉が開く。


 オルターと同じくらいの背丈の男性が現れた。背負った重そうなバッグからは金属音。振り向いたオルターは、その姿を見て固まった。


「く、クレスタ・ぶ、ブラックアイ!?」

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