Spirit-11 初任務、達成感


 もう魔力は込めてしまった。ファイアも発動した。

 そのタイミングでの質問に思わず気が抜けてしまい、華々しいデビュー計画の雲行きが怪しくなってしまった。


「あーっ!」


 本当なら炎を纏ったグレイプニールが、コカトリスを斬り付けるはずだった。

 斬り付けと同時に炎で焼き、傷口は回復不可能な状態になる。完璧な魔法剣のはずだった。

 なのに炎はグレイプニールから剥がれ、刃と炎が別々にコカトリスへ襲い掛かる。


「失敗……っと?」


 ただ、今回に限っては良い方向に転んだかもしれない。

 左上から右下へと振り下ろされた刃は、剣撃を避けようと舞い上がったコカトリスを真っ二つには出来なかった。

 その舞い上がったコカトリスを、遅れて襲った炎が包んでくれたんだ。


 意図しない時間差攻撃で地面に落ちたコカトリスを、グレイプニールで叩き斬る。なんとか1羽討伐だ。


「よ、よし!」

「まいや、これますか?」

「そう! 炎の魔法! 次行くぞ!」

「ボクも いってきます!」


 討伐すべきは1羽だけじゃない。すぐに振り返り、次の個体を探さなきゃ。といってもコカトリスの姿はすぐに見つかった。

 こちらから向かっていかなくても、向こうがオレを襲おうと飛び掛かってきたからだ。

 コカトリス達はオレを邪魔者だと認識してくれたらしい。


「イース!」


 叫び声と同時に発砲音が聞こえた。同時にオレを狙おうと一直線に降下してきた1羽が落下する。

 素早い動きの鳥型相手でも1発だなんて、オルターの腕前は申し分ない。

 おかげでオレが同時に相手しなきゃいけない個体が減って、戦いやすくなった。


「助かった、オルター! よし、次だ! もう一度魔法剣いいか!」

「おまかせろます!」

「斬ったと同時に魔力を放て! ファイアソード!」


 モンスターは人の言葉を理解しない。当然、技の名前を叫んでも伝わらない。

 自分がどんな攻撃をするのか、パーティーメンバーに伝えるのは基本中の基本。そうじゃないと連携なんて取れない。

 だから自分の攻撃に合わせて技名もしくは掛け声を口にする。バスター間の暗黙のルールだ。


 その点、何を狙うか打ち合わせていれば、銃術士は発砲音が代わりになるから便利だ。


「次っ! 叩き斬る!」


 正面のコカトリスへ、炎と斬撃を喰らわせる。左右へ避けようとしても関係ない。ショートソードは小回りが利き、手首を少し返すだけで対応できる。

 いつも羽のように軽いくせに、敵を斬る瞬間のグレイプニールはとても重い。

 オレの動きを読んでいるだけでなく、モンスターへと導いてくれているような感覚もあるんだ。


 コカトリスへと命中した斬撃は打ち飛ばすような衝撃もなく、蛇口から出る水を斬ったかのようにスッパリ払いきれる。

 魔法剣を繰り出すまでもない。コカトリスはもう何羽も地面に転がっていた。


「こいつら、羽ばたかないと毒を吐けないみたいだ! 羽ばたきの間だけ息を止めたらいい!」

「了解!」


 オルターの観察力と分析力に助けられ、回復魔法が使えないオレでも毒を受けていない。

 戦い方次第で短所を補えるものなんだと実感しているところだ。


「よし、次っ!」

「ぬし、オルターに負けまいます!」

「えっ!? オル……うわ、すげえ」


 オレを狙う個体を確実に減らしてくれたオルターは、自身を狙う個体にも対応していた。

 6発式のリボルバーの弾を僅か数秒で入れ替え、焦る事なく撃ち落としていく。

 その表情は真剣ながら、どこか嬉しそうでもあった。


 こんなに優秀な銃術士なのに、パーティーに入れてもらえないなんて。

 オレがオルターに出会えた事は幸運だ、間違いない。


 オレはオルターへと狙いを変えた数羽を斬り捨て、剣先が届かない高度で飛び回る個体をオルターに任せた。

 僅か数分だったかもしれないけど、気が付けばコカトリスの群れは全滅。

 最後にオルターが上空のコカトリスを撃ち落としたところで討伐は無事終了した。


「よっしゃあ!」

「やった、殲滅完了!」


 イェイ! と笑顔でグータッチし、肩を抱き合ってガッツポーズ。視線の先にいた養鶏協会の職員も養鶏場のみんなも満足そうだ。


「ぬし! ボクもいぇいしますか」

「ああ、イェイッ! よくやった、グレイプニール!」

「ぬし、よくまったます、ぬしいいこ」


 グレイプニールの手柄でもある。親のお陰で魔力はあるけど、魔法自体は得意じゃないし、魔力も高くはない。それをきちんと使えたのはグレイプニールがあったからだ。


 アダマンタイトの魔力伝導性、グレイプニールによる魔力の保持。これがなきゃ魔法剣なんて技は使えないからね。


「いやあ、もっと暴れ回られて柵でも鶏舎でも壊れちまうかと思ったが」

「あいやいやいや! お見事だ、これだけ倒せばしばらくはコカトリスも警戒するだろう」


 みんながオレ達の仕事ぶりを褒め、認めてくれる。

 コカトリス自体はそんなに強くない。モンスター退治もバスターなら出来て当たり前。それでもこうして役に立てたという実感は、何にも代えがたい無形報酬だ。


 倒したコカトリスは24羽。一度にこんな数が襲ってくるのは珍しい。オレは全ての個体を集めてファイアで燃やし、後を養鶏場の人達に任せた。


「もかこきちゅ、たいじゅおまりますか?」

「うん、終わったよ」

「おかまり、しますか?」

「お替り? えっと、それは……コカトリス次第かな」


 養鶏場の人に、また襲われて下さいね! とはさすがに言えないからな。

 オレとオルターは澄ました顔で「任務完了です」と告げ、小躍りしそうな心を抑えながら事務所へ戻った。





 * * * * * * * * *





「お帰りなさい! 上手くいったみたいね」

「はい! しっかり殲滅してきました」

「俺、初めて活躍出来た実感がある。1人じゃないって、こんな違うんだな」


 事務所に戻った時、既にレイラさんには一報が入っていた。討伐クエストを依頼主の目の前で行う事は少ない。

 バスターとしての実力を見せつけ、同時に目の前で依頼主の財産を守り切った。オレ達の活躍が可視化されたんだ。これは昇格にとても有利。


 外でクエストをこなし、管理所で報告するのとはわけが違う。


「よごでぎしまた、いいこ、なでるますか」

「さっきからずっと撫でてるじゃん。良くできました、君はすごい」

「ぴゃーっ!」

「リラ! ボク、よごできしまた!」

「ええ。素晴らしい働きよ、グレイプニール」


 養鶏場で皆に褒められ、レイラさんからも褒められ、今日のグレイプニールはご機嫌だ。コカトリスが強いモンスターじゃない事など、今日はどうでもいいらしい。


「この調子で、ちょっとクセがあるクエストが順調に舞い込んでくれたら、こっちに寄ってくれるバスターも増える。人気の事件屋になれる」

「あー、レイラさん。俺らの他にも専属を雇うって事ですか?」

「状況によってはね。今は専属を増やせる余裕はないかな」


 レイラさんはこの先の計画を話してくれた。レイラさんの目的は、挫折したバスター達や、引退したバスター達の救済にも役立つものだった。


「バスターには幾つかの引退タイプがある。1つはバスターになって1年目。仲間に恵まれない、思っていたものと違う、ケガをした。厳しい言い方だけど、これは救済できない」

「実力もなく、経験もなく、やる気もない、って事ですね」

「そう。なんとかしたいという気持ちがなくなったらもうおしまい。イースくんもオルターくんも、ここに片足を突っ込んでた」

「……自覚は、あります」


 1年目で挫けたらバスターにしがみつくより、さっさと転職をした方がいい。オレも生活のためにアルバイトをしたし、オルターも方針転換を迫られていたからな。


「その次は20代後半。ブルー等級から上がれない、結婚を考える、仲間がやめて士気が下がる、実家を継ぐ。ここはねらい目」

「ねらい目?」

「腕はあるけど、冒険には出られない。ギリングを拠点に動く事は可能、ですよね」

「オルターくん、正解。彼らにとって、うちは小遣い稼ぎになる」

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