Spirit-10 専属メンバー強化作戦。



「えっ? でも、オレンジ等級……ですよね?」

「オレンジ等級が一緒にいたらいいんでしょ? はい、やります。返事は」

「はい……」


 敏腕というか、ただ強引なだけ? オルターも自身の銃が通用するか、不安そうだ。オレだってイエティを斬り倒せる気がしない。


「イース、オレ達入る事務所間違えた?」

「かもな。でもこれくらい強引に仕事取ってきてくれないと、オレ達出番ないから……」





 * * * * * * * * *





 翌日、オレとオルターは早速レイラさんを訪ねた。いわゆる出社ってやつ。

 レイラさんは前日はあれだけ酒を飲んで、オレ達を先に帰して店に残ったというのに顔色1つ変えない。


「おはよう! 早速で悪いけど、これを管理所に持って行って」

「鳥獣被害、モンスター被害、ご相談下さい……事件屋シンクロニシティ?」

「管理所のお知らせ掲示板に貼ってもらうの」

「でも、これを見たって直接こっちに依頼をくれるとは」


 事件屋の事は管理所が教えてくれる。面倒なクエストなら必然的にここへ回ってくるんだ。わざわざ貼り出す意味はあるのかな。


 生憎、オレは考え事が得意じゃない。周囲の異変に気付くのは得意だけど、どうにも感覚だけで動いてしまうクセがある。


 一方、オルターはオレより頭がいいみたいだ。レイラさんの狙いに賛同している。


「……いや、いいかもしれない。俺とイースで養鶏場の件を片付ける。養鶏場の人や、周囲の人が目撃する。そうすると口コミで広まる」

「管理所の委託先はここだけじゃない。事件屋に繋ぐと言われた時、目の前の掲示板にうちの名前があれば」

「被害に対応できる、管理所のお墨付き……そういえばあの養鶏場もって」

「そう。確実にうちの仕事にしないといけない。活動の目撃者が多ければ昇格申請も通りやすいし」


 バスターの等級を上げる際、グレーやホワイトの時はクエストの完了回数を重ねるのが正攻法。だけどそれじゃあ昇格基準に到達するまで何カ月もかかる。

 オルターも出遅れているけど、オレなんて1年半以上グレー等級だ。まずは周囲に追いつかないといけない身分。

 手っ取り早く等級を上げて、こなせる仕事の幅を広げないといけない。すぐにでも昇格したいオレ達は、正攻法なんてやってられない。


 とにかく目立つ、知名度を得る、良い噂に頼る。それも、英雄の子だという看板じゃなく、実績で。オルターとレイラさんの会話を聞くと、たかが広告だと侮れない。


 実績が目に見える、信頼を得られる、それは昇格への最短経路。事件屋シンクロニシティの活躍と知名度は、オレ達次第。


「ぬし、つごい、なりますか」

「うん、ならなきゃな。とにかくクエストをたくさんこなして金も稼いで、等級を上げる」

「くですと、とうきゅ、ボクでせちゅしますか?」

「伝説に近づくことは出来ると思うよ、今よりは」

「おぉう、でせちゅ! テュール、でせちゅ。バルドル、でせちゅ。ボク、でせちゅします!」


 グレイプニールの夢を叶えられる程等級が上がるかは……分かんないけど。

 オレと一緒にいたって無理だなんて、言えるはずがない。


「とりあえずやれることからやっていこう」

「俺もやって見せる。目指すはあのクレスタ・ブラックアイも届かなかったゴールド等級!」

「でせちゅ、めだしまさないますか?」

「めだ……目指さないのかって事?」

「そうます」

「ばーか。伝説のクレスタさんがシルバーバスターだぞ? 俺がゴールドになれりゃ伝説だよ」

「まぁか、何ますか?」

「あー、覚えなくていい、それは」


 ゴールド等級なんて、今の時代じゃなる方法がないって言われてるからなあ。


「イースくん、あなたの名前も広まるから覚悟してね。でも大丈夫、人の役に立っていれば誰も何も言えないわ」

「信頼されてるバスターを貶すなんて、敵を作るだけだもんな」

「親の名前で~なんて言ってくる奴、自分に自信がない小物だけよ、気にしないで」


 オレとオルターは管理所に向かい、掲示物の依頼を出した後で養鶏協会に向かった。





 * * * * * * * * *





 天気は曇り。


 コカトリスの腹は灰色、背中から尾にかけては緑色。狙い定めるには条件が悪い。


 養鶏協会はレイラさんに正式な依頼を出してくれた。鷹による被害などは毎年出ていたものの、今年はコカトリスによる被害が例年になく深刻らしい。


 レイラさんは協会の人と挨拶をし、後をオレ達に託した。事務所を留守にしておくわけにもいかないからね。


「イース、自由に動いてくれ。俺は上空を狙う」

「オレは手が届く範囲のコカトリスを狩る」

「こかもきちゅ、ボク斬ゆ! ぬし、おたのみます」

「あ、はい」


 養鶏場の草がまばらに生えた平飼い用の囲いは、20メルテ四方あるだろうか。

 まずはコカトリスを誘う必要がある。鶏舎から10羽を出してもらい、コカトリスを待つ。


 協会と打ち合わせをし、今日外に放つ養鶏場はここだけに絞ってもらった。コカトリスが来るならここだけだ。


「今年はコカトリスの襲来が多い。うちだけでもう50羽くらいいかれちまった。付近ではもっと持ってかれた家もある」


 ニワトリの健康のため、肉質のため、日中の放し飼いを止めるわけにはいかない。けれど放し飼いにすればニワトリを攫われてしまう。

 1日の警備が何万イエンかかろうと、味を占めたコカトリスを撃退して欲しいというのが協会の答えだった。


 潜んでから1時間。ニワトリ達は今のところ地面を啄み、走り回り、元気に過ごしている。眺めているのも飽きて集中力が切れそうな頃、事件は起きた。


「……上空、あれは鳥じゃ、ないよな」


 空を見上げていた時、視界の端に動くものを認識した。

 翼の形が不揃いで、ボロ布をなびかせたような尾。


「コカトリスだ」


「3羽、いや、4、5……おいおい、多くないか?」


 コカトリスはあまり群れを作らないというけど、明らかに集団で動いている。


「イース、オレはあいつらが降りてくるまで狙わない。頼んだ」

「撃ち落とすには距離がある?」

「いや、自慢じゃないがあれくらい片目瞑ってもいけるさ。でも発砲音はニワトリを怯えさせる。おまけに奴らが上空で逃げたら討伐出来ない、確実にいきたいんだ」

「追い払うのが目的じゃない、討伐が目的、だよな」


 コカトリスは普段人を襲わないが、危険を察知すると途端に攻撃的になる。その性質を利用するんだ。先に発砲して警戒され、撤退されては困る。


「周囲を警戒してる。まだ出ちゃ駄目だ」


 コカトリスがニワトリを攫おうと狙いを定め、掴む寸前を狙う。オレが斬り損ねた個体をオルタ―に任せる。まだ引き付けないと。


 初心者には難しい作戦だけど、オレにはグレイプニールがついてる。

 こいつがオレの自信。オルターだっている、大丈夫だ。


「頼むぞ」

「ぴゅい」

「来るぞ。俺達、最初で躓く訳にはいかない。特に俺には後がないんだ、頼む」

「……おう、オレ達に任せろ」


 今まで負ってきた期待とは違う。逃げられない、どうせ駄目だなんて思う事も許されない。

 これが責任であると気付いた時には、もうグレイプニールを構えていた。


「ぬしっ!」

「……行くぞ」


 コカトリスに気付いたニワトリが慌て、柵へと体を寄せようと駆け回る。障害物のない場所にいれば真っ先に標的になると分かっているんだ。


 それはオレにとって都合がよかった。柵が邪魔になり、コカトリスが逃げる方向の選択肢が減るからだ。


「ぬし! なおうけん!」

「魔法剣は初めてだけど、そうだな、初仕事は派手にやろう! 魔力を預ける、ファイアを唱えたらそのまま維持してくれ! 頼んだぞ!」


 炎の魔法なら派手だ。観客相手に目立つし、燃えながら逃げるのも難しいはず!


 コカトリスの鉤爪がニワトリを掴もうと開いた。奴の視線はもうニワトリ以外を捉えていない。


「ファイア……ソード!」

「ぷぇ? まいや、何ますか」

「へっ? あっ、ちょっと待っ……!」

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