Spirit-08 不遇職、ガンナー現る
今度はレイラさんが肩を落とし、ため息をついた。
「それ1丁じゃ、話にならない。多分、そう言われたよね」
「……はい。だからお金を稼ごうと。だけど肝心の依頼がないんです。バスターのパーティーも、銃使いを入れるくらいなら他の職の方がと」
「そして、その言い分は自分でも理解している、と」
「……はい」
オルターが肩を落とす。
自分がバスターになるための職業校に通っていた頃、銃術士になりたいという奴はいた。
魔法を使えなくても、力がなくても運動が苦手でもバスターになれる。遠距離攻撃が出来る。それはとても魅力的だったと思う。
でも、同級で実際に目指したのは7人だけだった。国に1つしかない銃術士コースがある職業校だったというのに。
見かける事すら滅多にない、バスターの中でも圧倒的に少ない武器種。それが銃術士だ。猫人族や犬人族のバスターより少ないかもしれない。
「一応、お伺いしたいんだけど。現実的な話ではなくて、あなたの理想を教えて欲しいの。あなたはバスターとして、何がしたかったのか」
「バスターとして……そ、そりゃあクレスタ・ブラックアイのように、銃術士として世界を飛び回って、認められるバスターになりたいとは思っていました」
「確かにあの人は稀に見る銃術士の成功者ね。不遇な職でも腕前と頭の回転の速さ、チームワークが素晴らしかった」
レイラさんがガンナーの憧れであるクレスタ・ブラックアイを語る。オルターはそれを聞いているうちに目を輝かせ始めた。
オレだって知ってる一流の銃術士。というか、ガンナーと言われてクレスタ・ブラックアイ以外の人物の名前は1人も出ないくらい有名で、唯一の成功者と言ってもいい。シルバー等級まで上り詰めたんだ。
かつては父さん達とも旅をしたことがあって、オレが幼い時、1度だけパーティーで訪ねてくれた事があった。
「本音を言えば、その辺のお屋敷や会社に雇われたいわけじゃないのね」
「……はい。でもパーティーに入れないと1人で旅なんかしても」
「まあ、そうね。そもそも銃術士になるくらいなら、軍を持つ国や町の警備兵になった方が安定するって考える人は多いから」
レイラさんがチラリとオレを見た。おそらく境遇はお前と一緒だなと言いたいんだろう。
「ぬし、ぬし。じゅーちゅちゅし、何ますか」
「銃を使うんだよ。銃って、分かるかな」
オレが説明に困っていると、オルターが自身のリボルバーを手に取り、色々と教えてくれた。
「このリボルバーは6発式で、モデルとしてはかなり安い方なんだ。ただし、この銃の製造社のホルスト社は老舗で、他のメーカーじゃここまで安くできない。弾速は……」
オルターの語りが段々熱くなる。グレイプニールは付いていけず、オルターが目をキラキラと輝かせて説明を終えた後、特に感想も言わなかった。
多分、説明が分からなかったんだと思う。オレも半分理解できたか不安だ。
「……じゅう、ぬし、使いますか」
「オレは使わないよ。オレが使うのはグレイプニールだけ」
「ぴゃーっ!」
自分以外を使うなんて絶対許す気がないくせに。グレイプニールは他の武器をライバルだと思っている節があるんだよな。
「ふーん……なるほどね」
レイラさんが腕組みをし、オレ達をじっと見つめる。
知識と熱量なら誰にも負けそうにないオルターと、知識と熱量は誰にでも負けるけど、それなりに戦う事は出来るオレ。
「そうだ。あんた達、しばらくうちの専属にならない?」
「えっ、専属?」
「どうせパーティーは組めない、1人ではクエストが出来ない。でしょ?」
「そりゃあ、まあ、確かに」
専属という事は、他の事件屋の依頼や、個人での依頼は受けない、という事。その代わり、専属となった以上はきちんと給与が支払われる。
「管理所の委託だけ、管理所の出張窓口役で終わりたくないの。このシンクロニシティを人気事件屋にしたい。それには専属の優秀なエージェントが必要」
「めーじぇんと、何ますか?」
「依頼を確実に遂行できる能力を持った、優秀なバスターの事よ」
「ボク、めーじぇんとなるます。もしゅた、かくじしゅに斬るできるます」
「よろしい。グレイプニール、あなた採用よ」
オレよりグレイプニールの方が乗り気だ。多分、優秀という言葉に気を良くしたんだと思うけど。まあ、どうせ1人で燻ぶってるんだから、暫くはそれでもいいかな。
オルターに視線を向けると、オルターはしっかりとレイラさんを見て頷いていた。
「宜しくお願いします。オレに出来る事なら」
「その意志の固さは気に入ったわ。さ、イースくん、あなたは?」
「……分かりました。お世話になります」
「宜しい。それじゃあ、あなた達に早速の任務」
そう言ってレイラさんは机の下から書類を取り出した。
「管理所の委託業務には、パーティーの登録、脱退、登記内容変更も含まれているの。まずあなた達はパーティーを組んでもらいます」
「えっ、パーティーを組む!? それは、でも……俺ガンナーですよ?」
「だから何」
「け、剣術士なんて、ましてや猫人族なんて身体能力おばけじゃないですか! 俺なんかと組んだって……」
身体能力おばけって。こっちの地方ではありふれた表現なのだろうか。オルターはオレと組む事に驚きを隠さない。
不遇職が人気職と組むなんて、迷惑じゃないかと思ったんだろうな。
「そっか、オルターくん。君の事情ばかりでイースくんの事情を聞いてなかったね。イースくんは、いいよね? ……いいよね」
「……はい」
「あ、嫌なら別に、組まなくても……」
「いや、違います。その、事情があって」
今のオレに、組む相手を選ぶ資格はない。オレが自分の事を説明すると、オルターは赤い目をまん丸に見開いて驚いていた。
「信じられない、英雄の息子がなんでこんな所に」
英雄の息子がパーティーも組まず、グレー等級でくすぶってるなんて、そりゃ信じられないだろう。
「コホン。こんな所で悪かったわね、一応あたしも英雄の娘なんだけど」
「……あっ、え? もしかしてレイラ・ユノーって、あのゼスタ・ユノーの!?」
「そう。親が有名過ぎて比べられるのが嫌で、バスターになるのを拒否した英雄の親不孝娘とはあたしの事」
レイラさんがオルターをジロリと睨んだ。誰も親不孝だなんて言ってないんだけど……陰でそう言われているんだろうか。
「あたしは、見返したいの。親の才能を無駄にした? 英雄娘が事務仕事じゃ勿体ない? そんなこと言う奴らを事件屋として有名になって黙らせる」
「そっか、英雄が親なんて羨ましいって思ってたけど、そうでもないんですね」
「何でも優秀である前提で話を進められちゃうからね。というわけで、イースくんもパーティーを組む相手がいない。お互いに誰もいないよりマシでしょ?」
2人の方が効率はいい。何より、オレにとって初めてのパーティーメンバーだ。
「よし、レイラさんの思いもまとめて請け負います」
「うん、イースくんにしては良い返事。頼んだわ」
「イースさん、宜しくお願いします」
「イースでいいよ、敬語もやめよう。オルター、宜しくな」
「ああ! グレイプニール、君も宜しく」
「おるたー、ゆらしく!」
登録書にサインをし、レイラさんが受付印を押した。これでオレとオルターは2人組のパーティーだ。
「よし! それじゃあ今日はお祝い! あたしは他の受注者の報告を待つから、18時に管理所の前に集合。いいかしら」
「お祝い?」
「何? 雇い主の誘い、聞けないっての?」
「もいわい、もしゅた斬る?」
「明日からは斬ってもらう。この店も、あんた達の名前もどんどん売らなくちゃね!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます