第107話 輪廻

混沌とした状況を何とか立て直した私たち(おもに私とマリアのおかげ)は、ステラから教わった魔法を使って世界樹を復活させるために世界樹の前へとやってきた。


まずは5人の魔力をリーシャ自身に集める。

その後、帝国の時には集めた魔力を世界樹に向けたが、今回は、その魔力をそのまま使って教わった魔法を使う。

星属性の力は星そのもの、すなわち世界とつながっているから、それによって世界樹が蘇るらしい。

ということをステラから延々聞かされたが、ほとんど覚えていなかった。

色々、注意点とかも言っていた気がするが、魔法を発動させられれば問題はないだろうと、特には気にしていなかった。


私は、5人の準備が整うのを待ち、呪文を唱えて魔力を自身の体に集中させる。


「巡り巡りし星の力、廻り廻りし時の力、撚りて集まり流れとなる」


魔力が集まり、私の体がうっすらとした光の膜で覆われる。

それを見た5人が、各々魔力を私に向かって放つ。


赤、青、緑、白、黒の色をした魔力の帯がユリア、ミラベル、マリア、アイリス、ヴェルの手から放たれ、私の体で混ざり合う。

虹色の光が私の周囲に渦巻き、螺旋を描いていた。


「流れは捻じ曲がり、破滅の定めを救う輪廻となる。再誕リバースデイ!」


残りの呪文を唱えると、私の意識が虹色の光に飲み込まれた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「何だよ、驚かせやがって。おい、起きろ!」


私は、その声で目を覚ました。

私の背後には馬車と殺された馬が、隣には恐怖におびえるマリアがいた。

そして、私たちを取り囲むようにいやらしく笑う男たちが立っていた。

さらにその周りには、多数の死体が転がっていた。


「これは……」


私は、この状況に驚きを隠せなかった。

何故なら、この状況は私が記憶を取り戻した直後、ゲスリア公爵に依頼された暗殺者ギルドが盗賊団を使って、私たちを襲撃した時のものだったのだから。


「いったいこれは、どういうことかしら?」

「ああん? なにを言っているんだ。お前はこれから遠い国に売られるんだよ!」

「いや、あなたには聞いてませんよ」

「なに澄ましてやがんでい。少し分からせてやらねーといけないようだな! お前たち、やっちまえ!」

「お嬢様! お逃げください!」


私の危機を感じたのか、マリアが恐怖を押し殺して盗賊たちの前に立ちふさがる。


「ふん、お前は後だ! どうせ逃げる力もないだろうからな!」


ボスと思しき者の隣にいた男がマリアを取り押さえる。

障害となるものが無くなった私にボスが殴りかかってきた。


「まずはマリアの安全を確保しなきゃね!」


私はボスの拳を余裕でかわすと、マリアを取り押さえていた男の腕を掴み、盗賊の集団の方に放り投げる。

何人かが男の下敷きになり、状況についていけない彼らは呆然としていた。

ついでにボスの方も同じように腕を掴んで集団に投げ込んだ。


私はマリアを背にして呪文を唱え始める。


「星の終わり、極まりし光は終焉の星に集わん。光はやがて星より溢れ、終わりとともに遍く世界を、その光で塗りつぶす。光により塗りつぶされた世界は再びあまたの星となり、原初の星の始まりへと導かん。終焉原初ビッグバン!」


この魔法は己の生命と魔力を全て使う魔法である。

しかし私は直感的に、この世界が帝国で使った例の装置の世界と同じようなものだと感じていた。


私の放った魔法は盗賊たちを、そして、世界の果てをも灰燼とする。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


一方、マリアたちは世界樹へと呑み込まれようとしているリーシャの体を引っ張り出そうと奮闘していた。


「このままではリーシャさんが世界樹に飲み込まれてしまいます!」


しかし、奮闘むなしく、彼女の体は完全に世界樹に飲み込まれてしまっていた。


「ふはは、よくやってくれた。これで世界樹は安泰じゃ」


絶望に囚われたマリアたちの前にグロウズが現れる。


「これはいったいどういうこと?!」


詰め寄るミラベルにグロウズは答える。


「そやつは世界樹の巫女となったのだよ。永遠の夢の中で時を繰り返すことによって生まれたエネルギーを世界樹の養分とするという重要な役割を得たのだよ」

「そんな……?! それじゃあリーシャさんは……」

「案ずるな、死んではおらん。もっとも、枯れ果てるまで世界樹の養分としていきるだけになるがな。ははは!」

「くそっ、だましたな!」

「人聞きの悪いことを言うでない。聞かれなかったから答えなかっただけだ」


勝ち誇っているグロウズに対して5人は恨みのこもった目を向けるが、彼は全く気にする様子もなかった。


しかし、その直後、世界樹からまばゆい光が漏れる。

その光は世界樹を破壊していった。

そして、その光の大元にはリーシャが立っていた。


「リーシャさん、無事だったのですね!」

「お嬢様、よくぞご無事で!」

「さすがは、リーシャさんね。あの状況から戻ってくるなんて!」

「リーシャ様。信じておりました」

「さすがは我が聖女。ただではやられるとは思っていなかったがの」


5人はリーシャに駆け寄り、それぞれに彼女の帰還を祝福するのだった。


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