第106話 救済

グロウズとの交渉で一週間の猶予をもらった私は、さっそく対処法を教えてもらうためにステラに会いに行くことにした。


「ということで、やってきました!」

「やってくるな! つーか、別にくる必要ないだろ?!」


星の女神の世界に来た私は、さっそくステラにつれなくされていた。

もっと言えば、来て早々追い出されそうになっていた。


「ちょっと! せっかく来てあげたのに、お茶もぶぶ漬けも出さずに帰すなんてひどいんじゃない?」

「ま、まあ、最近はご無沙汰しているからいいけど、くれぐれも変なことはしないように!」


少し文句を言ったら、頬を赤らめながら、私をガゼボ(庭にある屋根付きの小屋?みたいなの)に案内してくれた。


なんというチョロステラ!


しかも、紅茶とケーキまで出してくれたのである。

先ほどまで力づくで追い出そうとしていた人とはまるで別人である。


「それで、今度は何の用なのよ」

「まあまあ、落ち着いて。ゆっくり紅茶を楽しみながら話しましょう」

「……まあ、いいけど」


こうして、私はお茶とケーキを一通り堪能したところで、本題に入ることにした。


「えーと、とりあえずお茶とケーキをお代わりね。それから、そのついでに世界樹を復活させる方法を教えて欲しいんだけど」

「用件がついでか?! まあ、いいけど――分木じゃない世界樹をよみがえらせるには、星属性の魔法を使う必要があるわ。ただ、この魔法は一人じゃ使えないの。各属性の魔法を使える人間、それも聖女クラスの加護を受けた人間でないとダメだわ」

「うーん、炎はユリア、水はミラベル、風はマリア、光はアイリスがいるけど、闇がいないわね」

「あれ? おかしいわね。世界樹の異変については把握していたから、闇の女神にも伝えているんだけど」

「え? なにそれ。初めて聞いたんだけど?!」

「いや、言ってないしね。世界樹が枯れかけているって言っているでしょ。すでに私たちは状況を把握していて、共有していたのよ。彼女も彼女で動いているはずだから。あとはあなたが魔法を使えるようにすればいいわけ」


そう言うと、ステラはおもむろに立ち上がり、両手を上にあげた。

その両手の先に膨大なエネルギーが収束する。


「ちょっ、これは何?!」

「これは世界の記憶よ。これを今からあなたにぶつける。ちょっと辛いかもしれないけど、頑張って耐えてね」

「……耐えられなかったら?」

「体が、というか精神がばらばらに砕け散るわ。ふふ、怖がらなくても大丈夫よ。私が加護を与えたんだもの。そんなことにはならないわ。たぶん」

「ちょっ、ちょっと待って――」


私の制止も間に合わず、ステラはエネルギーを私に向かって解き放った。


「あばばばばば」


エネルギーに包まれた私は、身体が裂かれるような痛みに悶えていた。

しかし、痛みあるものの、実際に体が裂けることはなかった。


「当然でしょ。加護があるし、そう簡単にバラバラにはならないわよ」


どうせだったら痛みも軽減するようにして欲しかった、と喋る余裕もないので心の中で思うことにした。


どれほどの時間が経っただろうか。

あれほど強大なエネルギーも今や、私の中に収まっていた。

痛みもなく、その魔法の知識だけが私の中にとどまっていた。


「成功ね。それじゃあ、もういいでしょ。帰った帰った」

「あ、ちょ、せめてもう一杯紅茶とケーキを――」


私の要望は完全に無視され、私の意識は元の世界へと戻される。

宿のベッドの上で目を覚ますと、アイリス、ミラベル、ユリア、マリアの4人を部屋に呼び出した。


「世界樹を復活させる魔法を女神から教わってきたわ」

「おお、さすがですリーシャさん! 私も協力します!」

「協力したいけど……。この間みたいなのは勘弁してよね!」


私が魔法を教わってきたことを伝えるとアイリスは快く協力を申し出てくれた。

一方、ミラベルはこの間のことで懲りたのか、一応協力はしてくれるようだが、この間みたいなことは無理そうだった。

もちろん、あえて言葉にはしないが、ユリアとマリアも彼女の言葉に激しく頷いていたので同じ意見だろう。


「今回は、私がメインで魔法を使うだけです。皆さんには魔力を支援して欲しいのですが、闇の聖女がまだいないのですよね……」

「「「「……」」」」


4人は私の言葉に意気消沈していた、と同時にアイリス以外は安堵していた。

私は「そこまできつかったのか?!」と思わなくもないが、だいぶしんどそうだったのは覚えているので、あえて触れないことにした。


「闇の女神には根回ししているみたいなので、すぐに見つかるとは思うん――」

「お、ここにいたのか!」


私が話していると、天井が抜けてヴェルが降ってきた。


「え? なんで魔王がここにいるのよ!」

「魔王ですって?! いや、私が戦った魔王は、こんな幼女じゃなかったわよ?!」


私が魔王の来訪に驚いていると、アイリスは別の意味で驚いていた。


「何を言っておるのじゃ。お主が戦ったのはプロト魔王君っていうロボットじゃよ? お主らが弱すぎるから、代わりに戦ってもらっただけじゃ」

「……弱い、え? じゃあ、私が頑張って魔王を倒しても意味はなかった?」

「いや、王位継承するために倒すんじゃろ? 本物じゃなくても倒したって言ってしまえば問題ないはずじゃぞ。そもそも先代も先々代もプロト魔王君を倒して王になったはずじゃからの」

「……そ、そんなぁぁぁ」


いまさら明らかにされた事実を知ったアイリスは絶望のあまり、その場に崩れ落ちた。


「というか、何で魔王がここにいるのよ?」

「何でって、わらわが闇属性の聖女だからじゃぞ?」

「……魔王が聖女?」

「……魔王が聖女、魔王が聖女?!」


ヴェルの爆弾発言に私が聞き返す。

そして、アイリスは壊れたロボットのように「魔王が聖女」を繰り返していた。


「そもそも、わらわは魔王じゃないぞ? ちゃんとバッシャールに魔王は引き継いでおる。『あとは頼んだ』って引継ぎ用の資料も作っておいたからの。万全じゃよ」

「それは引継ぎ言わんですよ……」


ヴェルの登場に、呆れる私と壊れるアイリス、そして話についていけない3人という混沌極まりない状況に陥っていた。

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