第104話 ルールブレイカー

世界樹の実を手に入れた私たちは宿に戻り、各々の部屋に分かれて入っていく。

私も自分の部屋に入り、かろうじて手に入れた1個の世界樹の実を前に思案していた。


「世界樹の実は1個以上は売れないと言っていたけど、あれって1グループ1個ってわけじゃないよね……? 勢いに押されて1個しか買わなかったけど、1人1個という可能性もあったはず。それに……1日1個という話でもなかったし、会計ごとに1個だとしたら、あの方法が使えるかもしれない?!」


私は前世で「おひとり様1個まで」という品物を大量に購入するときの裏技があるということを思い出した。

それを実行するために、こっそりと街へ繰り出し、化粧品やらウィッグやら、着替え用の服やらを大量に購入した。


「これだけあれば、行けるかな? 早速明日実行してみよう!」


こうして、私は明日のことをイメージしながら眠りについた。

翌朝、長老に謁見するために私たちを迎えに来た。


「大聖女様、準備はできてますか? そろそろ行きますよ」

「ごほっ、ごほっ、ああー、ごめん! ちょっと風邪ひいちゃったみたいで、謁見は明日にしてもらっても良いかな?」

「ホントに風邪ですか?! 聖女が風邪をひくなんて聞いたことないんですけど、加護が付いているはずですし」


私は「そんなこと聞いていない!」とステラに後で文句を言ってやろうと心に決めつつ、強引に押し通すことにした。


「ああー、ちょっと神様の調子が悪くて、加護が弱まっているかもしれないわ。今日一日寝れば回復すると思うから、明日にして」

「……わかりました。今日はゆっくり休んでくださいね。くれぐれも勝手に外出しないように!」


疑われつつも、ミケルを追い払った私は、さっそく昨日購入した化粧品やウィッグ、服を使って変装した。

そもそもエルフの村になんで化粧品とかウィッグとかがあるのが謎だが、売っていたのだから需要があるのだろう。

こうして、変装した私は世界樹の実を売っている売店へと向かった。


「すみません、これ1個ください!」

「ああ、1個2000ゴールドだよ」


特に疑われることも無く、世界樹の実を購入することができた。

私は再び別の姿に変装して、売店へと舞い戻る。


「すみません、これ1個ください!」

「お嬢ちゃん、さっきも来なかった?! ダメだよ、1人1個だからね」

「え? 初めて来たんですけど、もしかしたら私の従妹かも。彼女に凄い果物があるって教えてもらって来たんだけど……。従妹じゃ売ってくれないんですか?」


私は瞳をうるうるしつつ、上目遣いに聞いてみた。

店主は困ったような顔をしていたが、あきらめたのかため息をつきながら言う。


「いや、従妹ならいいよ。1個2000ゴールドだ」


そして、私は再び世界樹の実を手に入れた。

こうして、従妹だけでなく、姉、妹、娘、母親、叔母、従妹の妹、従妹の姉、従妹の友人、従妹の姉の友人、従妹の姉の友人の姉、従妹の妹の友人の姉など、立場を変えて何個も購入していった。

店主も疑いの目を向けながらも、別人ということであればと世界樹の実を売ってくれた。


「すみません、これ1個ください!」

「お嬢ちゃん、今度は何?! ホントに、別の人なの?!」


どうやら、かなり疑われているようだ。

この辺が潮時かなと思いつつ、最後に強引に押し切ることにした。


「えーと、従妹の姉の叔母の従妹の妹の友人の娘ですよ。すごいものが売ってるって聞いてきたんですけど、売ってくれないんですか?」

「わかったわかった、というか、これ以上は君の関係者には売れないから、そう言っておいてくれ」


そして、私は20個目の世界樹の実を手に入れ、宿へと戻った。


宿に戻った私はつごう21個の世界樹の実を並べて悦に入っていた。


「ふふふ、私の実力をもってすれば、この程度たやすいこと」


私は前世の時に薄給だったことから、スーパーの一人1パックまでという卵の特売において、この方法で何パックも手に入れたことを思い出していた。


そして、翌日、私は昨日のことで気分よく眠れたおかげか、すっきりとした目覚めとなった。

昨日と同じ時間にミケルがやってきて、同じようにノックの後で扉越しに話しかけてきた。


「リーシャさん、準備はできてますか? そろそろ行きますよ。今日は絶対に行きますからね!」

「はーい、すぐに行きます!」


今日は意地でも連れて行くという強い意志をミケルから感じ取っていた私は、おとなしく準備をして宿のロビーへと向かった。


「皆さん、揃いましたね。それでは向かいます。こちらの馬車にお乗りください」


そこには1台の巨大な馬車が宿の前につけられていた。


私たちが乗り込んで、最後にミケルが馬車に乗り込んだ。


「というか、この馬車、馬が付いてないんですけど……」

「馬なんか使いませんよ。そもそも樹の上ですからね。――妖精召喚フェアリーコール!」


ミケルが魔法を使うと、馬車の外に無数の妖精が現れて、馬車を持ち上げて長老の家まで運ぶ。


「意外と力持ちなんですね。まさか妖精に運ばせるとは、意外とエルフは妖精を酷使しているんですかね」

「こうやって移動することは滅多にないので、そこまで酷いことはしていないですよ。人間じゃないんですから。それはそうと大聖女様、昨日はちゃんと休んでました? 無断で外出していないですよね?」

「あ、はい。もちろんですよ。何か気になることでも?」

「昨日、世界樹の実の在庫が半分くらい購入されたそうで……。最初の客の親戚やら友人やらがとっかえひっかえやってきて買い漁っていったと聞いたんですが……。大聖女様は心当たりがありませんか?」


ミケルは疑わしそうに私の方を見つめる。


「何もありませんわ。そもそも世界樹の実は素晴らしいものでしょう? 皆さん欲しがってもおかしくありませんわ」

「まあ、そうでしょうけど……。おかげで在庫がかなりヤバいことになっていたので、長老は大聖女様に早急な解決を望んでおられます」


変わらず疑いの目で見てくるミケルを涼しい顔をしてスルーしていると、馬車は長老の家へとたどり着いた。

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