第103話 エルフの森へ

ミケルが帰ってから一週間ほどして、馬車を3台引き連れて神聖王国へとやってきた。


「お待たせいたしました。こちらが馬車になります」


私は馬車を見たところ、頭から角が生えていた。


「これはユニコーン?! 清らかな乙女じゃないと乗れないという噂の!」

「ご存じでしたか。普通に乗るならそうですが、馬車を引かせる分には関係ありませんよ」

「ふふん、私は清らかな乙女だから乗れるのだよ!」


そう言って、私はユニコーンの背にまたがった――気づいたら、神殿の壁に埋まっていた。


「ありのまま、今起こったことを話すぜ……ユニコーンに清らかな乙女であるリーシャちゃんがまたがったら、神殿の壁まで弾き飛ばされたぜ」

「それは心が清らかじゃないんですよ。ほら、アイリスさんは普通に乗れてますし」


ミラベルの指している方向を見ると、確かにアイリスが平然とユニコーンに跨っていた。


「おかしい! アイリスは既に汚れているはずだぞ! 王国で男を侍らせていたんだからな!」


私は猛抗議した。しかし、ユニコーンは私の猛抗議を涼しい顔で受け流していた。

その様子を見た全員が、何やら痛い人を見るような目で私を見ていた。

そして、アイリスが私のそばに来て、頭をポンポンと叩いた。


「そんな落ち込まないでください。乗れなくたって死にませんから」

「そういう問題じゃないんだが……」


結局、私はどう足掻いてもユニコーンには乗れないという事実があるだけだったので、あきらめて馬車に乗り込んだ。

他のみんなも3台の馬車に分かれて乗り込み、エルフの森へと向かう。


エルフの森へは馬車で3日ほどかかるが、途中に宿泊施設が用意されていて、さほど不便を感じることなく、エルフの森へとたどり着いた。


「お疲れさまでした。そして、ようこそエルフの森へ。今日はお疲れでしょうから、あとは自由時間としましょう。明日の朝、長老に謁見するように手続きをしておきます。宿はこちらになりますので、お休みになられる方は部屋にご案内いたします。刊行される方は、私の方で案内しますので、少々お待ちください」


ユリア、マリア、アイリスは今日は休むとのことで、宿の手続きをして部屋へと向かった。

私とミラベルは観光したいということで、ミケルと一緒に街を散策することにした。


少し歩いたところで、世界樹の実を売っている人を見つけたので、話を聞いてみることにした。


「この世界樹の実はいくらするの?」

「はい、少々お高いですが、1個2000ゴールドです」

「ふむ、それじゃあ、全部もらおうか」

「えっ?! 全部?!」

「全部、お金は心配いらない」


こう見えて、スカイポートでがっつり稼いだ私は、世界樹の実を買い占めようとした。

しかし、それを見たミケルが慌てた様子で私を止める。


「ちょっと待ってください! 買占めは勘弁してください。 この実がないとエルフは生きていけないのです!」


私はてっきりエルフの体型維持に食べているのだと思ったら、まさかの必需品であった。


「食べないと死ぬの?」

「いや、死にませんけど、長期間食べないと、背が縮みます。そして毛深くなって、ひげがもじゃもじゃになります。そして、太って丸くなります」

「それってドワーフじゃないの?」

「ドワーフをご存じでしたか。あれは我々が世界樹に遭う前の姿なのですよ。我々は世界樹の実の力によって、エルフとしての魔力と美貌を手に入れたのです。しかし、世の中には旧態依然を望むものも多く、そんなものたちがドワーフとしてモグラみたいな生活をしているのです。惨めでしょう?」


世界樹の実の力でエルフはエルフとして生きているということであった。

そして、エルフとドワーフが仲が悪いのも、要するにジェネレーションギャップみたいなものだということであった。

そんなことを考えていると、さらにミケルは話を続ける。


「もし、世界樹の実が手に入らなくなれば、我々エルフは滅亡してしまうのです! 世界樹が枯れようとしている今、世界樹の実は極めて貴重な品です。それを買い占めようなどとは……恐ろしい!」


ミケルは、私をまるで仇敵のような目で見ながら訴えかける。

というか、滅亡っていうより、ドワーフになっちゃうだけじゃない? そう考えると大したことじゃないような気がしてきた。


「ちょっと! いまドワーフになるだけで大したことじゃない、なんて思わなかったですか?! あり得ませんよ。あのような醜いドワーフに堕ちてしまうなど、そんな酷い姿で生きるなど、死よりも酷い拷問じゃないですか?!」

「いやいや、そこまで? というか、新しく世界樹を植えればいいんじゃない? 実を土に埋めておけば、そのうち生えてくるでしょ?」


私がナイスアイデアを提案したのだが、彼は馬鹿にしたような目で私を見てきた。


「やれやれ、何もわかっていませんね。分木ならともかく、ここの世界樹は本体なのですよ。それに、そもそも貴重な実を、そんなことに使うなんてもったいないじゃないですか?!」

「でも、それで世界樹が増えれば、もっと実が取れるじゃない」

「増えなかったら、実を無駄にするだけですよ? そんなリスクを取ってまで実を使う理由がわかりません」


ドワーフを旧態依然とか言っていたが、エルフも大して変わらなかった。

もっとも、中身が一緒であることを考えると不思議ではないのだが……。


「とにかく、世界樹の実を買っても良いですが、1個までです! それ以上は部外者には売れませんよ!」

「わかったわ。それじゃあ1個だけもらうわ」


私たちは世界樹の実を1個だけ買って、宿に戻ったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る