永遠の世界樹
第102話 ダイエットと使者
神聖王国の依頼を解決した私たちは、実質大聖女として認められたことにより、あれから半月経ってもなお、中央大神殿から出ることができなかった。
何しろ実質とはいえ、500年ぶりの大聖女の誕生である。
各国の王の先触れとして使わされた使者だけでなく、貴族や王族などが毎日のように謁見を求めて中央大神殿に来るのである。
当然ながら会ってすぐにサヨナラというわけにはいかないのが王侯貴族の面倒なところ、謁見の後にお茶会が催され、その後には晩餐会という名の味のしない高級料理の並ぶ夕食に出席しなければいけないのである。
実際には、晩餐会の料理は普通に食べれば、どれも至高の美味なのだが、魑魅魍魎のような王侯貴族との食事で味などわかるはずもなく、晩餐会が終わってから口直しに食事をする羽目になるのである。
そのおかげで、一週間にして私の体型は若干ながらもふくよかになっていた。
それに気づいて慌ててダイエットを始めたものの、連日にわたる晩餐会という名の難敵を前に、一向に体重が減る気配がなかった。
「もう! 毎日毎日、晩餐会とかふざけるな! 晩餐会のためにダイエットしてるんじゃないんだぞ!」
「まあまあ、落ち着いてください。お嬢様。ちょっとくらいふっくらとしていた方が良いという方もいらっしゃいますよ」
確かにそれはある意味真実である。
しかし、今の状態は必死でダイエットをした結果での状態であることを忘れてはいけない。
もし、ダイエットをしなければ、既に私の体は肉団子のようになっててもおかしくない状況であった。
こうして、私がダイエットと晩餐会の無限ループという拷問に耐えながら一週間ほど経ったころ、中央大神殿にエルフの森からの使者がやってきた。
どうやら、私に用があるとのことで、神殿の応接室で会うことにした。
「初めまして、私、エルフの森から来ましたミケルと申します。大聖女様に置かれましてはご機嫌麗しゅう」
ミケルとやらは、会って早々、恭しくお辞儀をした。
「実質、大聖女ですから、お間違えの無きよう。それで、何の用ですか? こう見えて忙しいんですよ。毎日謁見やらお茶会やら晩餐会やらで、合間にダイエットしていたら1日が終わってしまいますんで、これからダイエットに励まないといけないので、手短にお願いします」
私は嫌味っぽく言うと、ミケルは我が意を得たりとばかりに、自信満々の表情で木の実のようなものを差し出した。
「こちらは、世界樹の実と呼ばれるものです。私たちエルフはスタイルいいでしょう? これは世界樹の実を定期的に摂取しているからなのです! これを1個食べれば、あっという間に理想体型になります!」
私はミケルの言葉に怪しさしか感じなかったが、折角だというので1つもらって食べてみることにした。
なんと、一つどころか一口食べた瞬間に、先ほどまで猛威を振るっていたお腹周りのぜい肉だけでなく、二の腕や太もものぜい肉まで跡形もなく消え失せていたのである。
「これは……凄いわ!」
「そうでしょうそうでしょう。これさえあれば、どんな晩餐会がやってきても安心です。なのですが……ちょっと困ったことになっておりまして……」
「困ったこと? どのようなことでしょうか?」
「はい、それが……。世界樹が枯れかかっておりまして、このままでは世界樹の実を提供することが難しくなりそうなのです」
私は、この素晴らしい実が、手に入らなくなったあとの地獄を想像して危機感を抱いた。
「それは大変です! こう見えても私は大聖女。あなた方の問題を解決して差し上げますわ!」
「実質、大聖女ですけどね。お嬢様」
「欲望が透けて見えるわ……」
「リーシャ様、素晴らしいですわ! まさに大聖女の振る舞い!」
「この間は助けてもらったことだし、今回は私も手伝うわ」
私の言葉に、マリア、ミラベル、ユリア、アイリスがそれぞれ反応を返した。
「それは、私のお願いを聞いてくださるということで、よろしいのでしょうか?」
「もちろんです。他の方もご一緒してもよろしいですよね?」
「それは大歓迎です。では、後日、エルフの森に入るための馬車を用意してまいりますので、少々お待ちください」
「わかりました。私たちは帝国の世界樹を復活させた実績がありますので、安心してください」
「「「……」」」
私がミケルを安心させようと帝国の実績について話したところ、マリアとミラベルとユリアが私の方をジト目で見てきた。
まあ、あの時は3人に頑張ってもらったからしかたないのだが、私も一応は反省しているので、少し大目に見て欲しい、と目で伝えたのだが、全く伝わらなかった。
そもそも、伝わるのかすらわからないのだが……。
「期待しております。しかし、帝国の世界樹は分木ですが、エルフの森の世界樹は本体ですので、同じようにいかないかと思われます……」
私はミケルの言葉に、先ほどの自信が一気に萎んでいくのを感じた。
「それはまあ……、何とかなるんじゃないでしょうか?」
「はい、ご安心ください。我々エルフに伝わる秘法と星の女神の力が合わされば、何とかするための実績のある方法がありますので……」
万事休すと思っていたら、実はミケルというかエルフ側に良い解決策があるらしかった。
ただ、エルフは神との交流はないはずだから、私に手伝いを求めてきたのだろう。
「それなら何とかなりそうですね。それでは、迎えが来るのをお待ちしております」
こうして、ミケルは迎えの馬車を連れてくるために、いったんエルフの森へと戻っていった。
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