第101話 実質大聖女
光の神シャイニーとそれを召喚して世界征服を目論む教会の陰謀を阻止した私たちは、馬車に乗って、魔王国を目指す。
魔王国との国境にある関所にたどり着いた私たちは、関所の警備が物々しくなっていることに気づいた。
気づかないふりをして通り過ぎようとしたが、予想通り止められて馬車の中身を見せるように言われた。
特に後ろ暗いものを積んでいるわけではなかったため、快く見せると、意外にもあっさりと通っていいと言われた。
「あの、なんか警備が厳重な気がするんですけど、何かあったのでしょうか?」
もしかしたら、昨日のことで厳重になっているかもしれないと思い、警備の人に尋ねてみた。
「ああ、なんか昨晩、教会の聖職者が全員いなくなっちまったんだ。朝、信者のおばさんが来た時にはもぬけの殻で、中は荒れていたし、もしかしたら何者かに襲撃されたんじゃないかっていう噂さ。しかも、それだけじゃなくて、聖女様も今朝いなくなっていたんだ。それで聖職者と一緒に襲われたんじゃないかってことで、こうして国境の警備を強化しているんだ」
「へえ、聖女もいなくなったんですか?」
「ああ、なんでも書置きが置いてあって、『一身上の都合により、聖女をやめさせていただきます』と書かれていたらしいんだよな。でも、あのまじめな聖女様が、急にいなくなるはずはないってんで、襲撃者に脅されて書いたんじゃないかって噂だ」
「ふぅん、物騒な世の中になりましたね」
「そうだな。お前らも気をつけろよ」
「はい、ありがとうございます」
そう言って、私は関所を抜け、魔王国へと入った。
確かに昨晩はアイリスに抜け出してきてもらったのだが、全てが終わって外に出たときにはすでにいなかったので、先に帰ったと思ったのだが……。
「まあ、いいか。アイリスも仮にも光の聖女になったんだし、そうそう死なないでしょ」
「まあっ、酷いわね。私は戦うのが得意じゃなくてよ」
アイリスなら大丈夫だと思って、独り言をしゃべったら、何故かアイリスの声で抗議されてしまった。
「え?!」
「えっっ?!」
振り返れば、アイリスがいた。
「なんでアイリスがここに?!」
「なんでって、さっき関所で聞いていたじゃないですか。やめてきたんですよ。ちゃんと辞表も提出してあります!」
聖女って辞表を提出すれば辞められるんだ、などと意味不明なことを考えていた。
「そもそも、あそこの聖女って名ばかりじゃないですか。こうしてシャイニー様に正式に聖女にしていただいて、はっきりしました! 私はこれから正式な光の聖女として、リーシャさんについていきます!」
「えー?! アイリスがいなくなったら王国はどうなるのよ?!」
「さー? まあ、魔王国に吸収合併されればいいんじゃないですかね。もともとはそうだったんでしょ?」
確かにそうなんだが、と思いながら、私は嫌そうな顔をするヴェルの顔を思い浮かべていた。
「さて、今日はクサッツで温泉ですよね? 思いっきり堪能しましょう!」
満面の笑顔になるアイリスに対して、私はため息しか出なかった。
そして、私たちはデモンズネストにたどり着き、ヴェルに嫌な顔をさせた後、飛空艇でスカイポートへ飛んだ。
スカイポートではユーノやミレイユと別れ、さらに神聖王国の王都シュラインに到着した。
私とアイリスは王都で待機していたマリア、ミラベル、ユリアと合流した。
マリアとミラベルは相変わらずだったが、ユリアは完全に腐っていた。
「リーシャ様、私、デニ×オドのリバに目覚めました! こんな世界があったなんて……。私、感激です!」
ユリアから放たれる濃密な腐のオーラに、私は思わず後ずさってしまった。
どうやら、取り返しのつかないことをしてしまったと後悔したが、もはや手遅れであった。
「そう、良かったわね」
どうしようも無くなった私は、苦し紛れの返事しかできなかったが、それでも満足したのか、そこで話は終わった。
「それはそうと、お嬢様。先ほど大神殿から連絡がありまして、ナイヘア様が時間がある時に来て欲しいとのことです」
私は、その言葉を聞いて嫌な予感がした。
「あー、時間ないわね。残念――」
「あ、ちなみに、時間がなさそうだったら、こちらから出向くとのことです」
そうマリアが言った直後、私の後ろから声が聞こえた。
「おお、帰られましたか。聖女様」
「それはもっと早く言ってほしかったわ」
私は苦々しい顔をしてナイヘアの無いヘアを見ていた。
「この度は、我々の依頼を解決していただき、ありがとうございます。つきましては、神聖王国の聖女の称号を差し上げましょうぞ」
「いや、いらないから」
「まま、そんなことを言わずに。聖女様はこれで四か国目。史上二人目の大聖女となられるのですよ」
「なりたくありませんから、お引き取りください」
私が固辞していると、ナイヘアはしばらく思案していたが、大きく頷くと、話を続ける。
「わかりました、聖女様がどうしても、ということですので、大聖女の方は諦めます。その代わりとして、実質大聖女とさせていただきますね」
私は彼が何を言っているのか全く分からなかった。
「いや、だから大聖女じゃないって――」
「実質大聖女です!」
「変わらないやん!」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。スカイポートでは一部の端末の購入費用を実質無料って言っていますけど、実際には無料ではありません。割引とかサービス登録でもらえるポイントとかで差し引き0円になるから無料って言っているだけなんです」
「それとどう関係が?」
「実質大聖女も同じです。実際には大聖女ではありません。ですが、リーシャ様の実績は大聖女にふさわしいレベルになっておりますので、実質大聖女です」
説明を聞いても私には意味がわからなかった。
「すでにリーシャ様のご活躍は本日発行予定のこちらの冊子に記事が載る予定です」
「予定っていうか、既に印刷済みだよね?! 本日発行って、既に配られてるよね?!」
「まあ、そうなんですけどね。実質なんで大丈夫です」
そう言って、ナイヘアは一冊の冊子を私に手渡してきた。
その一面には「(実質)大聖女リーシャ様、史上二人目の偉業」という記事が書かれていた。
「実質」がカッコで括られている時点で、明らかに見切り発車で書いた記事に違いなかった。
「これが大丈夫なわけあるかぁぁ!」
私の叫びもむなしく、数日後には(実質)大聖女リーシャとして世界中に認識されるのであった。
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