第100話 手遅れ
私は魔法で部屋の中にいる男たちを動けなくしたあと、教会の外にいるユーノとアイリスと共に向かっているミレイユに制圧したことを伝え、男たちをロープで拘束した。
「これで終わり、さて、あなたたちの野望もこれまでね」
私が高らかに勝利宣言をしたが、彼らのリーダーと思しき男が不敵に笑う。
「くっくっく。いつから神が召喚されていないと思っていた?」
「なっ……!」
私は慌ててユーティア殿下の方を見る。
確かに、先ほどの魔法でも彼は普通に立っていた――まさか?!
「ニジュウヨジカン、タタカエマスカ。ニジュウヨジカン、タタカエマスカ。ニジュウヨジカン、タタカエマスカ?」
ユーティア殿下の近くに行くと、ユーティア殿下が光の神の讃美歌を魂の抜けたような表情で口ずさんでいた。
「ふっ、そのまさかだ。すでに、あの男には神の素が埋め込まれておる。もう数日前から、育てているからな。それが今日、開花するだけの話だ!」
「くっ、ならば何故儀式を……」
「最後の仕上げだと言っただろう? 今日の儀式で受肉した神はわれらの言葉に従い光の神の力を振るうことになるのだ」
彼らは、神をただ召喚するだけでなく、自分が都合のいいように働く奴隷にしようとしていたのであった。
「なんと、お前たちの信仰心は、そんなものなのか?!」
「ふん、光の神シャイニーの威光をあまねく世界に広めるために力を借りるだけだ。われらは、その力が適切に振るわれるように手助けをしてあげるのだ!」
私は彼らの自分勝手な主張に唖然としていた。
彼らは神を自分の都合のいい存在としか考えていないようであった。
「あなたも大して変わらないじゃな――!」
何やら頭の中にステラの声が響いてきたので、強制的にリンクを切った。
「神はあなたたちの都合のいい奴隷じゃないのよ!」
私は彼らを非難する、と同時に心がざわめく。
声が聞こえないが、恐らくはステラがクレームを言いまくっているのだろう。
しかし、聞こえなければ問題はなかった。
「貴様らに何がわかる! 我々は苦労して、この国を手に入れたのだぞ。世界征服の足掛かりをな!」
結局のところ、自分たちが世界を支配しておいしい思いをしたいから神をこき使おう、という話であった。
「だが、操ることまではできなくなったが、神は既に降臨されている! 必ずや光の神の信徒である我々の力となってくれるはずだ!」
男がそう言った直後、ユーティア殿下の体が光輝いた。
一瞬のまばゆい光ののち、淡い光に包まれたユーティア殿下が宙に浮いていた。
彼は先ほどの衝撃により服が弾け飛んで全裸となっていた。
もっとも、彼の体は光に包まれてほとんど見えなくなっており、全裸とはいえ、露出度は高くなかった。
ぷかぷかと浮かぶユーティア殿下の目がカッと開いた。
「われは……光の神、シャイニー……皆の者、跪け!」
その声によって、その場にいる全員が跪いた。
「これは……勝てない」
魔王であるヴェルですら足元にも及ばない圧倒的な力、それを見せつけられることで、私の中に絶望感が膨らんでいく。
「さて……。われを呼び出したのは貴様らか?」
跪く私たちに、神が問いかける。
その問いに跪いた男たちのリーダーが答える。
「はっ、我々が御身をこの世界に顕現させました。そして、あちらの者たちは御身の顕現を妨害した者たちでございます」
「ふむ、こ奴らがわれを降臨させまいとしたと、そういうことか?」
「左様でございます。なにとぞ誅罰をお与えください」
男の言葉に「ふむ」と言いながらこちらを向いた。
私は、その圧倒的な威圧に身じろぎ一つできなくなっていた。
それが私を見ている間、ずっと心は死の恐怖で満たされていた。
全身に恐怖が行き渡り、身体を震わせる。
「して、お前たちは、私が『労働』の神であるのは知っておるか?」
突然、威圧が消えると、男たちの方を見て尋ねた。
「はっ、我々は御身が顕現し、この世界に御身の威光を満たすことができるように、身を削って努力いたしました」
男の言葉に、神から先ほどとは比べものにならないほどの圧倒的な威圧が放たれた。
「わかっていないな! われの『労働』は我が信徒のものであるぞ? われの為に信徒が働くのだぞ? お前たちがやろうとしていたことはわれを働かせることではないのか?」
「いえ、そんな……」
「ふむ、何もわかっていないと思っているのか? 神の世界で悠々自適に過ごしていたわれを、この世界に呼びつけただけでなく、物言わぬ奴隷にしようとしていた分際で!」
そう言ってシャイニーは男たちに手を向けると、手のひらから光を放った。
その光が収まった時、男たちの体は超がつくほどの肥満体となっていた。
「その体に肥満の呪いをかけた、働き続ければ徐々に痩せるが、怠ればぶくぶく太っていくぞ。理解したら、死ぬ気で働け!」
シャイニーの言葉に男たちだった肉団子が飛び出すようにして部屋から出て行った。
それと入れ違いになるようにアイリスを伴って、ユーノとミレイユが入ってきた。
「遅くなりました。リーシャ様。そしてシャイニー様」
アイリスは部屋に入ると跪いて私とシャイニーに挨拶をした。
「よい、お主は先ほどの者たちと違って働き者のようじゃな」
「いやいや、あんたの聖女でしょ? なに初対面みたいなことを言ってるのよ」
私はすっとぼけているシャイニーに思わずツッコんでしまった。
「ふむ、なるほど、聖女か。資格は十分にあるようじゃな。よろしい、われがこの場で加護を授けようぞ。そして、すまぬが送り返してくれんかな?」
「もったいないお言葉でございます」
シャイニーが跪いているアイリスの頭に触れると光が彼女の全身を満たした。
「これが聖女の力……。これまでの聖女は偽りだったのですね」
「まあ、そうなるな。だが、これからは名実ともにわれの聖女である。誇るがよい。して、早く戻してくれんかな? 突然呼び出されて疲れておるのじゃ」
「は、はい! 今すぐ!」
アイリスはシャイニーの手を取ると、彼の体は徐々に塵のように消えていく。
そして、ついには跡形もなく消え去ってしまった。
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