第96話 王国へ
デモンズネストに到着した私たちを、魔王であるヴェルが直々に迎えてくれた。
「おお、待っておったぞ! 明日にはホワイトシャインまでの馬車を用意しとくから、今日は城で一泊するがよい。晩餐も用意しておるぞ」
「さすがヴェルたん! 気が利くわね!」
「ふははは、われにかかれば、この程度造作もない。まあ、用意したのはバッシャールだがな!」
私は無理難題を押し付けられて困惑しているバッシャールを思いながら、手を合わせた。
そして、ヴェルの案内に従って、彼女と共に魔王城へと向かった。
魔王城につくと、私たちは前と同じように客室に案内され、晩餐まで待つことになった。
とはいえ、私がおとなしく待っているような人間ではないことはヴェルも十分承知していたのだろう。
こっそりと部屋から抜け出そうとしたら、偶然部屋の外にいたヴェルと鉢合わせしてしまった。
「そろそろ案内が必要だと思っておったのだ。さて、今日はどこに行くつもりじゃ?」
「いや、別に一人で行けますけど……」
「ふはは、遠慮するでない。暇を持て余しておったところじゃからな!」
「遠慮ではなくてお断りです」
「なんと! せっかく我が国の聖女が凱旋して戻ってきたから、労おうと思ったんじゃが……。聖女様はわらわのことを嫌っておるようじゃ……。悲しいのぉ……」
チラチラと私の方を見ながら、落ち込んだそぶりを見せるヴェルを正直なところ、鬱陶しいと思っていたが、断り続けても面倒になるだけだと思った私はあきらめて彼女の案内を受け入れることにした。
「わかりました。それでは城内を時間まで案内していただけますでしょうか?」
「おお、お安い御用じゃ! 早速行くぞ!」
こうして、私は晩餐の時間まで、魔王城の案内をヴェルにしてもらったのだった。
何故か王族専用の秘密通路まで案内されたが――危機感なさすぎじゃないだろうか……。
そんなことを考えていたら、ヴェルに「聖女は身内同然じゃから問題ないぞ」と言われた――人の心を勝手に読むんじゃねー!
そして晩餐の時間になり、私たちは食堂へと向かう。
既にユーノとミレイユは席についており、あとは私とヴェル、そしてやつれているように見えるバッシャールが席に着き、晩餐が始まった。
晩餐では、久々に魔王国に戻ってきた私とヴェル、バッシャールは懐かしい話をする……ことができなかった。
何故なら、晩餐が始まってすぐにミレイユのマシンガントークが炸裂したからである。
さらに、バッシャールがかつての私と同じ過ち――彼女の話に中途半端に合いの手をいれたことで、ミレイユのマシンガントークが加速し、そのまま晩餐が終わった。
やっと解放されたと思った一同であったが、バッシャールは彼女に襟元を掴まれると、そのまま彼女の部屋に連れていかれてしまった。
もちろん、彼は私たちに助けを求めてきた、しかし、ここで助けてようとしても、結局は犠牲者が増えるだけだとわかっていたので、彼を温かい目で見送るだけであった。
翌朝、朝食のために私たちは晩餐と同じように食堂に集結した。
バッシャールとミレイユは朝まで語り明かしたはずにも関わらず、ミレイユは昨晩よりも溌溂としていた。
一方のバッシャールは昨晩など比較にならないほどやつれていた。
私やユーノ、そしてヴェルはあえて触れないように、淡々と食事を進めていた。
朝食を終えた私たちは、ヴェルに用意してもらった馬車に乗り、一路、光聖王国を目指す。
といっても、1日ではたどり着くのが難しいため、初日は国境沿いにあるクサッツの街で一泊することになる。
「懐かしいわね。最初に王国から脱出した時も、この街で温泉を堪能したわ!」
「それはうらやましいですわね。私たちが王国を出たときは、王国が崩壊寸前だったので、夜もずうっと馬車で移動しておりましたわ!」
「それ、馬が大丈夫だったの?」
「はい、都度回復ポーションを飲ませておりましたので、一週間くらいずっと馬車を引いてもらっておりました。もっとも、一週間後にスカイポートに着いたとたん、馬は過労でお亡くなりになってしまいましたが……」
私はミレイユの言葉に、私は王国の呪いを感じて戦慄した。
というか、陸路でスカイポートまで行くとか正気とは思えなかった。
何故なら、デモンズネストとスカイポートの間は山が連なっており、険しい山道を越えなければならないためである。
とてもじゃないが、馬車で越えられるような道だとは思えなかった。
「どうやって山道を超えたの?」
「ああ、それは超栄養ドリンクなるポーションを飲ませたのですわ。これを飲ませると、馬の馬力が上がって、山道でも進めるようになるのですわ」
ブラックという生半可な言葉では言い表せない酷使っぷりに、久々に気が遠くなるのを感じた。
しかし、かろうじて気を取り直した私は、クサッツで旅の疲れをいやし、翌朝、再び馬車に乗って、ホワイトシャイン光聖王国の首都クリステラへとたどり着いたのであった。
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