第95話 地獄のスカイポート

 飛空艇に乗った私は、数時間ののちにスカイポートの空港にたどり着いた。

 空港にはあらかじめ打合せしていた通り、ユーノとミレイユが待っていた。


「遠路はるばるお疲れさまでした。師匠」

「王国の外でも、その名声を聞かない日はございません。さすがです」


 2人は、跪きながら各々、私のことを労ってくれた。

 まあ、間違ってはいないんだけど、別に名声を上げてるつもりはないよ?


「堅苦しいことは無しにしましょう。私たちはこれから王国に向かうのですから、すぐに手続きをしてしまいましょう」

「「御意」」


 私はスカイポートに到着したばかりではあったが、さっそく2人を連れて、魔王国行きの飛空艇の搭乗手続きを行った。

 幸いにも、1時間ほど出発までに時間があったので、私は2人から最近のことについて話を聞くことにした。


「最近は首都の近くにイガコーガという忍者のための街を作っております。こちらでは、気軽に忍者体験と称して、からくり屋敷を探検してもらったり、手裏剣による的当てや各種調合体験などをできるようにしております」


 明らかにどこぞの国の忍者村であった。

 しかし、各種調合体験とは……。


「調合体験ってどんなものを作るの? まさか毒とか作っていないでしょうね」

「いえいえ、死ぬような毒はさすがに作りませんよ。せいぜい、身体を痺れさせたり、眠らせたり、興奮させたり、魅了させたり、気持ちよくなったりするくらいですね」


 さすがに死ぬようなものではないとはいえ、ヤバい薬のオンパレードであった。


「そんな薬作って問題ないの?」

「はい、問題ないようにしました。法改正するまでに時間は多少かかりましたが、国王がこちらには付いておりますので、時間の問題でした」


 どうやら、違法な薬を法律を変えて合法にしたらしい。

 いやいや、それは明らかに違法じゃね? などと思いながら、気になることを聞いてみた。


「ちなみに、気持ちよくなる薬って、禁断症状とかはないの?」

「多少はありますが、そこまで強いものではありませんね。ただ、効果はアルコールより強いようなので、人によってはハマる人もいるようですが」


 麻薬というほどではないが、ほぼ麻薬であった。

 いわゆる合法ドラッグってやつだろうか。


「でも、この薬の調合体験だけ1年待ちなんですよね。なんか同じ人が毎週のように予約を入れてまして、人数は50人ほどなんですが、顔ぶれが毎回ほとんど同じなんですよね。1人2人は半年以上待った新規の方もいらっしゃるのですが」


 明らかにヤク中としか思えない状態であった。

 私は、これ以上深堀しても良くないと思い、話題を変えることにした。


「そういえば、ベルネルはちゃんとやっているの?」

「もちろんです! ベルネル様が国王になってからは、決裁も早くなり、次々と国営の収益事業が展開されるようになりました。イガコーガの街もその一環なのですが、それ以外にも様々な事業が次々と莫大な利益を生み出し、いまや税金もほとんどかかりません!」

「マジで?! 王国なんて八公二民とか言って国が8割持って行っていたのに……」

「もちろんです。今や税金は純利益の10%ですよ。おかげで他の国からも事業展開の打診とか来ているのですが、国内の産業保護のために、規制している状況です。それでも規制解除待ちを虎視眈々と狙っている企業が多数あります」

「うはー、凄いね。ベルネルは。最初はヤクザの親分みたいな感じだったのにね」

「それは世を欺く仮の姿、彼こそまさに真の王にふさわしい人だったのです!」


 私が、ベルネルの偉業に驚いてほめていたら、エンジンのかかったミレイユがベルネル礼賛のマシンガントークで私たちを圧倒した。


 そして、彼女のマシンガントークに身も心も蜂の巣のようになりながら、飛空艇の出発時刻になったのであった。


「あら、もうこんな時間ですね。早速乗り込みましょうか」

「ああ、そうね。遅れるわけにはいかないからね」

「(あまり焚きつけないでくださいよ。こうなると彼女大変なんですから……)」

「(わかったわ)」


 そういって私たちは、彼女のマシンガントークによる拷問の終わりを安堵しながら飛空艇に乗り込んだ。

 しかし、私の考えは甘かった。

 飛空艇に乗り込んだ私たちは、隣り合った3つの席に座る。

 そして、座った瞬間から、彼女のマシンガントークは私たちの心身を再び苛み始めたのであった。


 そう、彼女にとって、先ほどの1時間は単なる序章だったのである。

 こうして、私たちの地獄の時間は飛空艇がデモンズネストの空港に到着するまで、優に5時間ほど続くのであった。


「おかげさまで、国外の方も大勢いらっしゃいまして、街の収入だけで運営がまかなえるまでになっております。それによって税金を格安にしたため、あちこちから編入の問い合わせが来て、それに追われてます。あはは……」

「忍者ための街だと伝えたところ、忍者志望のものが増えまして……。今では首都よりも繁栄しているとのうわさもあります」

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