第94話 ブリーフィング

 中央神殿を後にした私たちは、神聖王国で一番大きな宿に部屋を確保した。

 なぜ一番大きな宿にしたかというと、設備が充実しているためである。

 今回の任務は潜入調査なので、ブリーフィングの際に情報が漏れないようにするために、防音完備された部屋が必要だったからである。


 部屋を確保した私たちは、さっそく1階にある防音設備付きのミーティングルームを借り切って、潜入調査のブリーフィングのために集まっていた。


「今回は潜入調査なので、このメンバーの中では私だけで行きます」

「ええ? 一人だけですか?! 大丈夫なんですの?」

「一人だけじゃないわ。助っ人が二人加わる予定だし、後方支援に50人ほど確保してあるから問題ないわ」

「その助っ人って信用できるんですの?」

「大丈夫よ、3人とも知っているでしょ? ミレイユ・ブラックパールとユーノ・スタールビー。まあ、王国が滅びたときに家名はなくなったんだけどね」


 私が二人の名前を出すと、ミラベルとユリアは静かにうなずいた。


「ええ、知っていますわ。 王国の暗部を担う双璧として王家と公爵家は重用しておりましたもの」

「でも、暗部の連中は信用まではできないわ。金で動く連中だもの」

「大丈夫よ、二人は私の弟子でもあるからね。ちょうど、二人はスカイポートにいるらしいの。どのみち、ここから空路でスカイポート経由でデモンズネストに行かないといけないしね」


 チャリーララチャラリラララー


 そんな話をしていると、端末から呼び出し音が鳴った。


「なんですの? その気の抜けたような音楽は?!」

「呼び出し音よ……。はい、リーシャです。どうぞ」

「こちらデニスだ。先ほど頼まれた件をベルネルに伝えておいた。直接話をしたいらしいから、代わるぞ」

「はい、ベルネルオーケー、どうぞ」

「あー、聞こえるか?」

「はい、聞こえます。ベルネル国王就任おめでとう。どうぞ」

「おめでとう、じゃないわ! 俺を嵌めやがって! おかげで大変なんだぞ!」

「……もう、国王かわったんじゃから、わしはもうええじゃろ……」

「うるさい! しゃべっている暇があったら仕事しろ!」


 どうやら商売王はいまだに椅子に縛り付けられて仕事をさせられているようであった。


「商売王と二人がかりなら、すぐに終わりそうじゃない?」

「お前、こいつの実力を知って言っているのか? こいつの事務処理能力は俺の5%しかないんだぞ! 俺が20枚処理している間に、こいつは1枚処理できるかどうかだ! 二人がかりじゃない、こいつは単なる俺のおまけだ!」

「まあ、そんなこと言っているが、ベルネルは俺の3倍は優秀だ。さすがに俺たちが国王に選んだ男だよ」

「うるせー! お前たち最初から俺に押し付ける気満々だっただろ?!」

「ふ、終わった話だ。今はお前が国王、それがすべてだ。何なら跪いてあげようか?  ん?」

「ふん、どうせ書類かたずけてくれるなら跪くぐらい何てことないと思っているんだろう?」

「まあ、そうだな」

「少しは否定しろ! バカっ!」


 私はベルネルとデニスの仲が予想以上に進展していたことに、危機感を覚えた。


「これは……ベル×デニなのか? というか、デニ×オドはどうした?」

「わけわからねーこといってるんじゃねー! まあ、イガコーガの街にいるミレイユとユーノはスカイポートの空港で合流する手配してあるから、ついたら教えろ! じゃあな!」


 そういって、ベルネルは通話を切ってしまった。


「どうでした?」

「大変なことが起きていた。クールデニスとチワワオードリーの間にツンデレベルネルが割り込もうとしていた!」

「「なんですって?!」」


 私の報告にマリアとミラベルが驚愕の声を上げた。


「それで……ベル×デニとデニ×ベルはどっちですの?」

「話した感じだとベル攻めデニ受けとみた」

「「デニ受けですと?!」」


 デニ攻め鉄板だと思っていた二人は、デニ受けであることにショックを受けていたようだ。


「まあ、デニスは弱い奴には強いけど、強い奴には弱そうじゃない?」

「「たしかに……!」」

「いったい何の話をしているんですの?!」


 私が独自のデニスネオ理論を展開したところ二人は納得したようだ。

 一人、話題においていかれていたユリアはぷりぷりと怒っていたが、彼女には私が任務をこなしている間にマリアとミラベルに洗脳してもらうことにした。


 私は二人の目を見て頷くと、分かったとばかりに力強く頷いた。


「さて、それじゃあ、さっそくスカイポートまで行きましょうか。ミラベルとユリアはここで待っていてね。マリアは私を空港まで送ってちょうだい」

「かしこまりました、お嬢様」


 私はマリアに空港まで送ってもらった。


「それでは、お嬢様。ご武運を!」

「ありがとう、マリア。こっちのこともよろしくね。もしかしたら、こっちの神殿が何か絡んでいるかもしれないから、念のため調べておいてね」

「かしこまりました。お嬢様」


 そして、出発時間になったので、私は飛空艇へと乗り込んだ。

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